13 / 26
夢と現実の狭間
01
しおりを挟む護衛の仕事を始めるのに宿を転々とするわけにはいかず、宿の一部屋を月極で支払って住むことになった。また人と接する以上身だしなみはちゃんとやれと上司から怒られ、仕方なく髪と髭を整えてきた。
初めてまともな生活を送っている自分に、ルイスと出会う前の生活を思い出し、こんな人生を送るとは全然思わなかったなと苦笑する。
護衛は冒険者のように仕事に波があるわけではなく、安定している。スリルは冒険者をしていた時よりは劣るが、情報の差では確かに護衛のほうが上だった。
休暇日を利用して護衛の事例や様々な情報が載っている文献を調べるために資料室に居るのだが、資料が膨大すぎて欲しい情報まではありつけられない状況に陥っているのだ。
……そういえば、ワタルはインキュバスについて気になっていたな。今日は出勤してるだろうか。
なかなかありつけないことで疲労が差しかかっているのを実感し、大きなため息をつく。とりあえず外に出て気分転換でもしとかないと。
休憩がてらに資料室から出ると、ちょうどワタルと出くわした。
「あ、リトさん来てたんですか」
「ちょうど良かった。聞きたいことがあってな……とりあえず出ないか。外の空気吸いたい」
「資料室ってカビくさいですもんねぇ」
外に出るとコーヒーを売っている小さな屋台があり、早速二人分を注文しワタルに一つ手渡してやる。
「あ、ありがとうございます。は~……リトさんって元々イケメンですから身だしなみが整えるとより上がりますねぇ……。しかもこういのをされちゃ、人間も魔物もほっとけないですよ」
「……全然相手にしてくれないのもいるけどな」
ルイスは俺のことをどう思ってくれているのだろう。俺の精気は気に入ってくれたようだが、再会した時からしばらく夢に出てきてくれない。
「相手にしてくれないって、インキュバスですか?」
「……そうだ」
「ん~、インキュバスは基本色欲の魔物ですからねぇ。人間のように外見で決めるんじゃなく、情欲で決めるから難しいのでは?」
情欲ならたぶんクリアしてる。だが、それをワタルに言うことじゃないなと思い、とりあえず受け止めて訊ねてみる。
「インキュバスは情欲だけの生き物なんだろうか」
「そうだなぁ。人間に近い魔物なので、少なくとも感情はあるとは思うんですけどね。といっても空想の存在扱いなので、人間の願望がそうさせてるかもしれませんけど」
人間に近い魔物か。確かに感度や精液も人間と同じのようだった。
……もしかしたら俺に振り向くことは可能かもしれない。
「ん? 聞きたいことってそれですかね?」
「いや、今のは単なる個人の疑問だ。聞きたかったのは資料室でインキュバスの資料を探してるんだが、どこのあたりにあるか知ってるか?」
「あぁ~。膨大ですもんねあそこ。インキュバスの事例は他の事例とくらべて結構少ないので埋もれてるかもしれません」
「あぁ……少なすぎて仕分けされていないということか?」
「ですね。たぶん他の事例とまとめてるかも」
困ったな。確か仕分けされてない部類があったが、それなりに量はあったはずだ。かなり時間かかるな……と気が遠くなる。
「良かったら手伝いますよ」
「いや、君は仕事中だろう。俺は休暇でここに来ているだけだ。また何かあったら訊ねるからそのときはお願いしたい」
「早く見つかるといいですね。コーヒーありがとうございました~」
ワタルは仕事に戻ったが、俺はしばらく外でたたずんでいた。
仕分けされていない部類がどこからどこまで確認したら帰るとしよう。そこから確認する気力までは流石に残っていない。
最後の気力を振り絞るかのように立ち上がり、資料室へ向かった。
◇
……思ったより、結構疲れていたようだ。宿に戻りベッドに寝転んだとこまでは覚えてる。
自分が夢を見ていることをすぐに自覚し周囲を見渡すと、最近護衛したとこの建物の中にいた。
どこかにルイスはいないかと目視できる範囲で探してみたが、見つからなかった。
ルイスとの再会後、夢を見ていることにすぐ気付くようになってきた。そしてごく当たり前のようにルイスを探している。
とりあえず情欲で引き寄せられるということだし、なるべくルイスとの情事を思い出しながらしばらく建物内をうろついてみた。
すると何日かぶりに待ちに待ったルイスがふわりと現れた。
「やっと来たか。ルイス」
思わず口角を上げ、ルイスを迎えた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる