夢で会ったインキュバスが忘れられないんだが

Sui

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夢と現実の狭間

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 護衛の仕事を始めるのに宿を転々とするわけにはいかず、宿の一部屋を月極で支払って住むことになった。また人と接する以上身だしなみはちゃんとやれと上司から怒られ、仕方なく髪と髭を整えてきた。
 初めてまともな生活を送っている自分に、ルイスと出会う前の生活を思い出し、こんな人生を送るとは全然思わなかったなと苦笑する。

 護衛は冒険者のように仕事に波があるわけではなく、安定している。スリルは冒険者をしていた時よりは劣るが、情報の差では確かに護衛のほうが上だった。
 休暇日を利用して護衛の事例や様々な情報が載っている文献を調べるために資料室に居るのだが、資料が膨大すぎて欲しい情報まではありつけられない状況に陥っているのだ。

 ……そういえば、ワタルはインキュバスについて気になっていたな。今日は出勤してるだろうか。
 なかなかありつけないことで疲労が差しかかっているのを実感し、大きなため息をつく。とりあえず外に出て気分転換でもしとかないと。
 休憩がてらに資料室から出ると、ちょうどワタルと出くわした。

「あ、リトさん来てたんですか」
「ちょうど良かった。聞きたいことがあってな……とりあえず出ないか。外の空気吸いたい」
「資料室ってカビくさいですもんねぇ」

 外に出るとコーヒーを売っている小さな屋台があり、早速二人分を注文しワタルに一つ手渡してやる。

「あ、ありがとうございます。は~……リトさんって元々イケメンですから身だしなみが整えるとより上がりますねぇ……。しかもこういのをされちゃ、人間も魔物もほっとけないですよ」
「……全然相手にしてくれないのもいるけどな」

 ルイスは俺のことをどう思ってくれているのだろう。俺の精気は気に入ってくれたようだが、再会した時からしばらく夢に出てきてくれない。

「相手にしてくれないって、インキュバスですか?」
「……そうだ」
「ん~、インキュバスは基本色欲の魔物ですからねぇ。人間のように外見で決めるんじゃなく、情欲で決めるから難しいのでは?」

 情欲ならたぶんクリアしてる。だが、それをワタルに言うことじゃないなと思い、とりあえず受け止めて訊ねてみる。

「インキュバスは情欲だけの生き物なんだろうか」
「そうだなぁ。人間に近い魔物なので、少なくとも感情はあるとは思うんですけどね。といっても空想の存在扱いなので、人間の願望がそうさせてるかもしれませんけど」

 人間に近い魔物か。確かに感度や精液も人間と同じのようだった。
 ……もしかしたら俺に振り向くことは可能かもしれない。

「ん? 聞きたいことってそれですかね?」
「いや、今のは単なる個人の疑問だ。聞きたかったのは資料室でインキュバスの資料を探してるんだが、どこのあたりにあるか知ってるか?」
「あぁ~。膨大ですもんねあそこ。インキュバスの事例は他の事例とくらべて結構少ないので埋もれてるかもしれません」
「あぁ……少なすぎて仕分けされていないということか?」
「ですね。たぶん他の事例とまとめてるかも」

 困ったな。確か仕分けされてない部類があったが、それなりに量はあったはずだ。かなり時間かかるな……と気が遠くなる。

「良かったら手伝いますよ」
「いや、君は仕事中だろう。俺は休暇でここに来ているだけだ。また何かあったら訊ねるからそのときはお願いしたい」
「早く見つかるといいですね。コーヒーありがとうございました~」

 ワタルは仕事に戻ったが、俺はしばらく外でたたずんでいた。
 仕分けされていない部類がどこからどこまで確認したら帰るとしよう。そこから確認する気力までは流石に残っていない。
 最後の気力を振り絞るかのように立ち上がり、資料室へ向かった。





 ……思ったより、結構疲れていたようだ。宿に戻りベッドに寝転んだとこまでは覚えてる。
 自分が夢を見ていることをすぐに自覚し周囲を見渡すと、最近護衛したとこの建物の中にいた。
 どこかにルイスはいないかと目視できる範囲で探してみたが、見つからなかった。

 ルイスとの再会後、夢を見ていることにすぐ気付くようになってきた。そしてごく当たり前のようにルイスを探している。
 とりあえず情欲で引き寄せられるということだし、なるべくルイスとの情事を思い出しながらしばらく建物内をうろついてみた。

 すると何日かぶりに待ちに待ったルイスがふわりと現れた。

「やっと来たか。ルイス」

 思わず口角を上げ、ルイスを迎えた。
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