夢で会ったインキュバスが忘れられないんだが

Sui

文字の大きさ
18 / 26
夢と現実の狭間

06

しおりを挟む





 インキュバス関連資料の中で直接その場で調べられそうなのをピックアップし、早速行動を起こした。現にいま、インキュバスに憑かれていたという依頼者の屋敷の付近に居るのだ。
 だが資料によると数年前の出来事で、今更訪ねるというのは明らかにアウトだし、しかも俺は最近入ったばかりの新人護衛。どう考えても不審者扱いされてしまう。
 ただリトは該当者の証言をどうしても確認したく、とりあえず屋敷の周囲に住んでいる人達から情報収集しようと考え、下見という感じに周辺を見回した。

 資料ではインキュバスに憑かれているのは依頼者本人ではなく、依頼者の令嬢だったようだがどうも屋敷から出入りする人の中でそれらしき人が見当たらない。深窓の令嬢なのかそれともとうに結婚して出て行ったかのどちらかの可能性があるだけに、新たに資料探ししなければならないかな……と思うと気が遠くなる。

「おや。その服装は護衛さんだね。そこの屋敷になんか用があるのかい?」

 しばらく依頼者の屋敷を眺めていたところ、近くに住んでいるであろう人から声を掛けられた。見た感じ噂好きのおしゃべりしたがりな女性だった。

「いえ、ただ立派な屋敷だなぁと……」
「そこに行くのはやめといたほうがいいよ。そこの令嬢が消えてから護衛に一切信用が無くなったていうハナシさ」
「令嬢が消えた?」

 まさかの消えた説。そこまで考えてなかった。

「これも噂なんだけどね、令嬢は消えたんじゃなく駆け落ちしたんじゃないかって。どこかの市場でお腹が膨らんでいる姿を見かけたとかなんとか」

 どんどん情報が入ってくる。一を出すと十が返ってくるというのはこういうことか。だがあくまで噂であり、事実とは限らない。だがもう少し情報が欲しい。

「どこかの市場ってここらへんではないと……?」
「そりゃそうさ。本当に駆け落ちであればそこの屋敷の近くにいるわけないだろう。単に消えたっていうのもそうだ。——うちの主人が隣の町へ商売しに行ったときに見かけたらしいが、ただ確実とは言えないし、転々しながら商売してるんだからどこそこの市場とか覚えてないとかいうからさ~。使えないようちの主人ったら」

 隣町か。遠くはないんだが山の中にあってそこへ行くのに一日くらい要するほど入り組んでいて、駆け落ちであればそこまでしないといけないぐらいだろう。しかも子どもがいるかもしれないってことは、今回のケースはインキュバスの仕業ではなくただ恋仲からの夜這いだったという可能性がある。
 だが、数少ない資料から見つかった案件である以上、自分の目で確認しときたい。
 つい考え込んでしばらく間が出来たが、女性からまた話しかけられた。

「なんか令嬢のことを知りたがってるみたいだけどさ、ここ数年戻ったという噂はないし、侯爵たちはその話を徹底的に避けているのか元からいなかったことにしてる。聞き出すのは難しいと思うよ」
「……そうか。見ず知らぬ俺に色々教えていただき感謝する」
「うふふ。あなたでないと話すことが出来ないからねぇ。見かけは護衛さんだけど、……本当は冒険者で訳アリなのを調べてるんだろう?」

 先ほどまでの空気がほんの少し変わった。からから笑っていた顔がスゥッと消えていた。

「──ただ者じゃないんだな。分かっていて俺に話しかけたんですか」
「今はただのおばちゃんだよ。──万が一、そこの令嬢と会うことがあったらよろしく言っておいて。エリカという名前でね、とてもとても良い子で庶民の私でも普通に接してくれた。消えたって知った時は驚きはしたけど、私だけしか分からない伝言を残してくれててね。自ら出て行ったんだなと知ったわけさ……これは私だけしか知らないこと」
「——わかりました。お伝えしておきます。失礼ですが名前は?」
「クスノキの下に住んでるお姉さん」
「……は?」

 女性はまたからからと笑った顔に戻った。

「エリカお嬢様からそう呼ばれていたからね、それでいいよ」

 そこで女性と別れ、得た情報と資料の内容を頭の中で整理しながら帰路につく。

 資料では、夜になると様子がおかしいので監視してほしいという内容だったが、部屋には令嬢以外人の気配もなく窓やドア等の出入りも無いというのに、うなじや背中、身体のあちこちに性交渉したという鬱血痕が発見されたことでインキュバス案件という形となっていた。監視は半年ぐらい続けていたようだが、突然打ち切りになり未解決のまま終わっていた。

 突然の打ち切りはおそらく令嬢が自ら消えたからだろう。
 依頼者は侯爵夫妻という以上、もしかしたら令嬢は望んでいない依頼内容だったのではないだろうか。自ら出て行くのはなかなかしたたかな令嬢だ。あの話しかけられた女性と仲が良かったようだし、その人から影響されたというのは……ありえるかもしれないな。
 そこの侯爵は周囲の住民達からあまり良い評判を聞かなかった。消えてしまった令嬢を最初から居なかったことにして捜索とか何もしなかったという。
 親が子どもを居なかったことにする気持ちは全く分からないが、そうせざるを得ない事情があったのではないだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...