桜はまだか?

hiro75

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第二章「そら豆」

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 小次郎が店を出ると、貞吉がそら豆を見ながらぼーっと立っていた。

 傍らには、岡っ引きの栄助がいた。

「おい、何してやがる?」

「えっ? あっ、こりゃ旦那、中の方は?」

「終わったよ」

「どうでしたか?」

「ああ、思いっきり泣かれたが……、おめえのほうはどうなんでぃ?」

「あっしのほうも店の者に訊きましたが、お七を悪く言うようなやつは、ひとりもいませんでしたぜ」

「そうか……、町の連中はどうだ?」

 栄助に訊いた。

 栄助は首を傾げながら言った。

「へえ、手下に探らせてみたんですが……」

 確かに火付けは許せない。

 だが、お七を悪くいうやつはいない。

 むしろ、誰かに唆されたのだろうとか、狐につかれてるんだろうとか、お七を庇うようなことを言う連中が多かった。

「そうか……」

 小次郎がお決まりの盆の窪に手をやると、辻の角に見覚えのある犬顔が目に飛び込んできた。

 火付改同心榊吉十郎の小者辰三である。

「なんでぃ、あいつは?」

「へえ、火付改さんも、色々と探りを入れているみていですぜ」

 小次郎は辰三の顔を睨みつけながら、ちっと舌打ちをする。

「全く暇な野郎だ。娘っ子ひとり捕まえたところで、手柄もねえだろが」

「全くですぜ。ところで旦那、これからどうしやすか?」

「兎も角、お七が火付けを働いた訳を探ることだ。栄助、手下を使って近所の連中から、さらに話を集めてくれ。それからおめえは、これがどこの店の物で、誰に売ったか、探ってくれ」

 栄助は火打袋を受け取ると、「へい」とすばやく駆けて行った。

 貞吉は、「あっしらは?」と小次郎を見た。

「取り敢えずは奉行所に戻るぞ。と、その前に飯でも食おうか」

「へえ」

 貞吉は、待ってましたとばかりに駆け出しそうになった。

「おい、ちょっと待て」

「へい?」

 小次郎は、再び店の中に入って行った。

 次に出て来たときには、片手に紙袋を抱えていた。
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