桜はまだか?

hiro75

文字の大きさ
上 下
43 / 87
第三章「焼き味噌団子」

3の4

しおりを挟む
「まあ、では、お七さんの一件には、その生田庄之助という御旗本が絡んでおりますの?」

 源太郎にお酒を注ぎながら、多恵は尋ねた。

「いや、絡んでいるかどうかは分からん。ただ、お七が正仙院に身を寄せていたひと月の間は関係があったようだ」

「でも、秋山様は関係しているのではと?」

「あいつの勘だが、その勘も馬鹿にはならん」

 源太郎はぐっと杯を空け、酒の肴の浅蜊の蒸し焼きに箸を伸ばす。

「お七さん、その生田様という方を好いていらっしゃったのね」

 多恵が、ぼそりと呟いた。

「なぜそう分かる?」

 多恵は小首を傾げ、しばし考えたあと、口を開いた。

「女の〝勘〟ですわ。あら、もうお酒が。もう少し召し上がりますか?」

 源太郎は、浅蜊の蒸し焼きを見る。

 まだ半分は残っている。

 酒なしで食べるには、ちと勿体ない。

「頼む」

 源太郎の言葉に、多恵は勝手へと下がって行った。

 源太郎は浅蜊を口に運ぶ。

 磯の香が口の中に広がる。

 咬むと肉汁がどろっと出てきて、美味かった。

 が、じゃりという音に口が止まった。

「女の〝勘〟か。女は……、よく分からん」

 口の中に苦味が広がった。
しおりを挟む

処理中です...