桜はまだか?

hiro75

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第三章「焼き味噌団子」

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 南町奉行所の近くにある一膳飯屋のお運び娘おかつは、秋山小次郎に大番屋まで連れて来られた。

 娘といっても、当に三十路は過ぎている。

 もうじき、四十だ。

 おかつは、お七が入っている仮牢に押し込められた。

「あいたた、ちょっとは優しくしろってんだい!」

 小次郎に啖呵を切った。

「うるさいぞ、女掏児。今日はここに留めるが、明日には小伝馬町送りだ。覚悟していろ」

 そう言うと小次郎は、どたどたと激しい足音を立てて出て行った。

「へん、てやんでい、小伝馬町が怖くて、掏りなんかできっかよ」

 おかつは悪びれることなく、小次郎の背中に真っ赤な舌を出してみせた。

「へええ~、まったく」

 どかりとその場に胡坐を掻く。

 真っ白な太ももが露になる。

「おや、こんなところに似つかわしくない娘がいるね。あんた、何やったんだい?」

 おかつは、仮牢の片隅で項垂れているお七を見つけて訊いた。

「あたしは、これさ。これでも、なかなか名の知れ渡った女掏児なんだよ。ちょちょいの、ちょいってね」

 右の人差し指を鉤形にしてみせた。

「もう少しで大店の旦那の懐のものをと思ったんだけど、あたしも焼きが回ったかね。とうとうお縄になっちまった」

 おかつは、ひとりでけたけたと笑った。

「で、あんたは?」

 一頻り笑ったところで訊いてみるが、お七はじっと床を見つめたままだ。

「あんた、喋れないの?」

 訊いても答えない。

 おかつは、ふっと息を吐いて、

「そうですか、だんまりですか」

 その場にごろりと横になった。

「でもさ、あんた、黙ってたんじゃ、皆あんたのせいにされちゃうんだよ。何があったかは知らないけど、やってないなら、やってないって言わなくちゃ。誰かに脅かされたのなら、そいつの名を言わないと」

 おかつが話している間に、お七も壁に向って横になってしまった。

「そうですか、黙ってろですか」

 おかつも、口を閉じるしかなかった。

(やれやれ、こりゃ、相当の強情者だね。秋山の旦那には悪いけど、あたしじゃ落せそうにないよ)
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