法隆寺燃ゆ

hiro75

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第二章「槻の木の下で」 前編

第9話

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 集団生活が長くなると、そこにははっきりと上下関係ができるもので、それが年齢や入学順によるものであれば、ある程度納得もいくのだが、謂れのない理由によって、明確に線引きされることがしばしばある。

 これが、単なる当人同士の喧嘩程度なら良いが、周囲を巻き込み、仕舞いに集団でひとりを傷つけるようになると、手が負えなくなってしまう。

 旻の講堂でも、群臣の子弟が多く集れば、必然的に力関係ができ、そこに、ある種の「いじめ」に近いものが生まれた。

 狙われたのは、中臣鎌子である。

 鎌子は、大きな目と太い眉を持っていた。

 身長もそれほど高くない。

 おまけに、難波津の頃に、荷方の真似事で港に出ていたため、肌は浅黒く、周囲から、

「あれは、隼人の子だ」

 との、からかいを受けた。

 おまけに、鎌子が木簡に埋もれるかの如く勉強している姿を見て、

「中臣の小倅の癖に」

 と、反感も買うようになった。

 が、当人は、そう言った周囲の態度には全く鈍感で、相変わらず真黒な顔をして、講読に励んでいる。

 そんな鎌子の日常を変える出来事が起こったのは、講読した木簡の数が、彼の背丈の二倍に達した頃のことである。

 その日、彼の定席はなぜか埋まっていた。

 席は特に決まっているわけではなかったが、そこには暗黙の了解というものがある。

 しかしこの日、吹負の隣の席には、御行が座っていた。

「悪いな、御行が、どうしても中を見てみたいと言うもので」

 鎌子は、講堂を見回した。

 席は空いている ―― 旻法師の目の前だ。

 彼は迷った。

 他の席ならば迷わず座っただろうが、その席に座るのには躊躇した。

 別に、旻法師の目の前だからではない。

 いまの鎌子には、それは願ったり適ったりだ。

 だが、問題はそんなことではなく、隣に座っている人物にあった。

 隣の人物とは、蘇我入鹿である。

 入鹿は、旻の講堂で並ぶものがいないと言われるほど優秀であった。

 旻曰く、「吾が堂に入る者、宗我太郎に如くは無し」と。

 加えて、現大臣の長男である。

 群臣の子弟の多くが、入鹿のことを鼻持ちならない人物だとして敬遠していた。

 入鹿もまた、それを知ってか知らずか、彼らのことを無視していた。

 鎌子は、別段、彼のことをなんとも思っていなかったが、講堂の皆とは一線を画するような入鹿には、やはり、どことなく近づき難いものを感じていた。

 しかし、今日は席がない。

 周囲にいる人間も、鎌子が如何するのか面白がって見ている。

 早くしなければ、旻法師が来てしまう。

 彼は覚悟を決めて、問題の席へと就いた。
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