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第四章「白村江は朱に染まる」 前編
第1話
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―― 紅葉が真赤に染まった小春日和
安孫子郎女は、赤子を横に寝かせ、針仕事に勤しんでいた。
赤ん坊は、庭先の紅葉が気になるらしい。
先程から、手足をバタつかせて、必死になって紅葉を掴もうとしている。
だが、彼の手足は、空を切るばかり ―― それもそのはず、彼が紅葉の葉っぱを掴むには、縁側と長い庭を横切って行かなくてはならないのだ。
それでも彼は、必死になって手足を動かす。
安孫子郎女はそれが可笑しくて、ひとり微笑みながら、また手を動かすのだ。
彼女は、いま幸せの絶頂にいた。
夫は優しいし、子どもも可愛い。
生活はぎりぎりだけど、今日明日食べられなくなるという程ではない。
慎ましい生活をしていれば何とかやっていけるし、彼女もそんな生活には慣れている。
後は、夫の元気が戻ってくれれば良いのだが、これ以上は高望みというものだ。
彼女は針の手を休めて、もう一度我が子を見た。
「あら?」
いない。
先程まで、傍で手足をバタつかせていたのに………………
その時、庭先から鈍い音が聞こえた。
―― ボコ!
同時に、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえてく。
安孫子郎女は、慌てて庭先を覗き込む。
子どもが泣き叫んでいる。
庭に飛び降り、赤子を抱きかかえた。
「小倉、大丈夫よ、大丈夫、痛くないからね」
安孫子郎女は、小倉の頭を擦ってやった。
「如何したの? そんなに紅葉が見たかったの?」
小倉はしゃくり上げながら、それでも紅葉の葉を取ろうと、安孫子郎女の腕の中で手を伸ばす。
彼女は、彼を抱いて真赤に染まる紅葉のもとに立った。
「ほら、綺麗ね、綺麗でしょう?」
小倉は、紅葉に手を伸ばす。
その顔は、もう泣いていない。
安孫子郎女は、紅葉の葉を一枚捥ぎ取ると、彼に渡してやる。
小倉はそれを受け取ると、眼を輝かせ、飽くことなく見続けるのである。
二人の顔も、真赤に染まっている。
「あら? そう言えば、小倉、お前、如何やって庭先まで出たの?」
小倉は、まだ這い這いもできないはずだが………………
「もしかして、這い這いできるようになったのね? そうなのね、小倉?」
安孫子郎女は、子どもの顔を覗き込む。
小倉は、紅葉を手に笑っている。
「そうなのね、小倉、這い這いができたのね」
我が子をグッと抱きしめてやった。
小倉は擽ったいのか、声を立てて笑う。
「お前は、本当に良い子だよ。お父様がこれを聞いたら、さぞ、お喜びなるわ」
安孫子郎女はそう言うと、もう一度我が子を抱きしめてやり、小倉は、また擽ったがって笑うのだった。
安孫子郎女は、赤子を横に寝かせ、針仕事に勤しんでいた。
赤ん坊は、庭先の紅葉が気になるらしい。
先程から、手足をバタつかせて、必死になって紅葉を掴もうとしている。
だが、彼の手足は、空を切るばかり ―― それもそのはず、彼が紅葉の葉っぱを掴むには、縁側と長い庭を横切って行かなくてはならないのだ。
それでも彼は、必死になって手足を動かす。
安孫子郎女はそれが可笑しくて、ひとり微笑みながら、また手を動かすのだ。
彼女は、いま幸せの絶頂にいた。
夫は優しいし、子どもも可愛い。
生活はぎりぎりだけど、今日明日食べられなくなるという程ではない。
慎ましい生活をしていれば何とかやっていけるし、彼女もそんな生活には慣れている。
後は、夫の元気が戻ってくれれば良いのだが、これ以上は高望みというものだ。
彼女は針の手を休めて、もう一度我が子を見た。
「あら?」
いない。
先程まで、傍で手足をバタつかせていたのに………………
その時、庭先から鈍い音が聞こえた。
―― ボコ!
同時に、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえてく。
安孫子郎女は、慌てて庭先を覗き込む。
子どもが泣き叫んでいる。
庭に飛び降り、赤子を抱きかかえた。
「小倉、大丈夫よ、大丈夫、痛くないからね」
安孫子郎女は、小倉の頭を擦ってやった。
「如何したの? そんなに紅葉が見たかったの?」
小倉はしゃくり上げながら、それでも紅葉の葉を取ろうと、安孫子郎女の腕の中で手を伸ばす。
彼女は、彼を抱いて真赤に染まる紅葉のもとに立った。
「ほら、綺麗ね、綺麗でしょう?」
小倉は、紅葉に手を伸ばす。
その顔は、もう泣いていない。
安孫子郎女は、紅葉の葉を一枚捥ぎ取ると、彼に渡してやる。
小倉はそれを受け取ると、眼を輝かせ、飽くことなく見続けるのである。
二人の顔も、真赤に染まっている。
「あら? そう言えば、小倉、お前、如何やって庭先まで出たの?」
小倉は、まだ這い這いもできないはずだが………………
「もしかして、這い這いできるようになったのね? そうなのね、小倉?」
安孫子郎女は、子どもの顔を覗き込む。
小倉は、紅葉を手に笑っている。
「そうなのね、小倉、這い這いができたのね」
我が子をグッと抱きしめてやった。
小倉は擽ったいのか、声を立てて笑う。
「お前は、本当に良い子だよ。お父様がこれを聞いたら、さぞ、お喜びなるわ」
安孫子郎女はそう言うと、もう一度我が子を抱きしめてやり、小倉は、また擽ったがって笑うのだった。
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