酔いたいボクらは夢を見る

塔野まき

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非日常はすぐそこまで

1-3☆

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教室に入るとすでに多くの生徒が席に座っていた。
いつもなら教室の後ろで教科書を丸めたものと、セロハンテープで作った球で『漢の闘いホームランダービー』が行われているのに。

運動部はテストで赤点だと練習や試合に参加できなくなるから必死なんだろう。
駿英もヤバいはずなんだけど、あまり変化はない。……どうして、余裕そうなんだ?

「くそっ! どうして、教科書がすぐ曲がるんだ!」

横見よこみ、それはお前が教科書をバット代わりにしてるからだぞ、と心の中でツッコミを入れる。
野球部は特にテストを頑張らなくちゃいけないのに大変だな。ほんとバラエティに富んでいて面白い奴らばかりだ。

 そんな心のツッコミをしながら席についたとき、チャイムが鳴り、担任の内田先生が入ってきた。

「おはよう、みんな! 今日も元気そうだな。さて、昨日の範囲がテストに出るぞー。
マイナスが出てくる式、苦手なやつは今のうちに克服しとけ。……っと、その前に小テスト返すな」

教卓の上で紙がぱらぱらとめくられる。

「満点は――奈波ななみ宮鳥みやどり、それと木夏こなつ。お見事!」

 内田先生の発表の後にパラパラと拍手が続いた。

「みんなも知っての通り、来週には期末テストだ。中間テストは小学校の復習問題も確認として出ていたが、期末テストは全範囲が中学校で習ったものになるぞ。勉強する科目も増えるが、ここを乗り切れば夏休みが目前だ。クラスみんなで頑張ろうな!」

内田先生は数学の教師で論理的な話し方が得意だ。
それだけだと中学生から見れば、つまらない先生になってしまう。
だけど、ユーモアもあり話が面白いからクラスの中では好かれている。

「先生の話はおしまいだ。ほかに伝えたいことがある人はいるかな?」

すると一人の女子生徒が手を挙げた。

「先生。踊り場に変な紙が貼られていました」

そういうと少女は先生の方に向かっていき、一枚の紙を手渡した。
あっ、と思わず声が出そうになる。

それは、さっきの紙だった。

先生はまゆをひそめながら受け取った紙を見た。それからこっちを見回してこう言った。

「……これ、誰が貼ったか知ってるやつ、いるか?」

教室が静まり返る。誰も手を上げない。

「そうか。まあ、冗談じょうだんにしては悪趣味だな。あとで職員室に持っていくよ。
みんな、校内に貼る紙はちゃんと許可が必要だからな。クラブのやつは担任経由で――」

先生の言葉が続く中、ぼくはノートの隅に“黄昏の山”と書き込んでいた。
知らない名前。けれど、どこかで聞いたような感覚。胸の奥で、朝のざわめきがまた響いた。
朝の会が終わり、先生が出て行くと、ざわめきが一気に戻る。

「なんか怖くね?」「オカ研だろ」「黄昏ってどこ?」「セロテープ球ある?」

会話が入り乱れ、笑い声が混ざる。
そんな中、教室の扉がゆっくり開いた。

木夏さんが入ってきた。
寝ぐせをつけたままの彼女は、あくびをしながら自席へ向かう。
彼女の席はぼくの隣だ。
机に突っ伏して寝息を立てるその横で、ぼくはさっきの紙をもう一度見た。
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