超ショートストーリー または、随筆など

いかめしホイホイ

文字の大きさ
12 / 152

仕事しない彼女

しおりを挟む
  彼女は仕事をしない。仕事をする必要がないからだ。彼女は仕事をしたいと思わない。仕事に、魅力を感じないからだ。彼女は仕事をするべきだと考えない。何事にも、義務を背負わないからだ。

  彼女は、今まで仕事をしたことはない。おそらく、今後もすることはないであろう。それでも、生活は成り立つのだ。

  周りの人たちは、そんな彼女を「可愛い」と言う。仕事をせずに、一日中ブラブラする姿を見て「可愛い」と言うのだ。

  彼女は皆に愛されている。男たちは、彼女の魅力に酔いしれる。しかも彼女は、男たちだけに人気があるわけではない。女たちにさえ、人気があるのだ。彼女の魅力に、女たちさえも酔いしれる。彼女の魅力は、まさに天性の賜物であった。


  彼女の一日は、午前10時ごろに起きるところから始まる。彼女は、夜型の生活をしているために朝に弱い。目覚めて欠伸をすると、すぐに家を出る。朝食を得るためだ。最初は、コンビニに行く。

  コンビニの前で、食べ物を恵んでくれる人を待つ。彼女は、ただ待っているだけで良いのだ。「食べ物を恵んでください」と言う必要はない。コンビニに立ち寄った人々が勝手に察して、彼女に食べ物を分け与えるのだ。彼女に与える食べ物は、多種多様だ。時には、から揚げ。時には、ミルク。時には、おにぎりだ。あらゆる人々が、思い思いのものを提供する。

  彼女は、食べ物を分けてくれる人々に、お礼を言うことはない。なぜなら、彼女は「皆、あたりまえのことをしている」と思っているからだ。お礼を言わない彼女を、誰も悪く、言うことはない。彼女のことを愛しているからだ。この愛は、無償の愛として成立している。皆が彼女のことを愛して、彼女は、皆を愛していない。それを皆は、理解している。それでも皆は、無償の愛を提供する。

  彼女は、おなかが満たされると公園に行く。公園でボーッとするのが好きだからだ。たまに、誰かと遊ぶこともあるが、大抵は一人で、ボーッとする。彼女は、一人でいることが好きだ。

  しかし、誰もが彼女をほっとかない。何かしらの、ちょっかいをかける。彼女は、そのちょっかいが嫌いだ。特に子供が嫌いだ。ちょっかいをかけてくる者たちの中で、最も嫌いなのが子供だ。必要以上に、スキンシップを求めてくるからだ。彼女は子供を嫌っているが、子供たちは彼女を好きだ。彼女の魅力は、天性のものであるから仕方がない。

  彼女は昼時になると、スーパーマーケットに行く。もちろん昼食のためだ。朝と同じく、施しを受けに行くのだ。コンビニの時と同じように、スーパーマーケットの前で、彼女は待っているだけだ。たくさんの人たちが、彼女に食べ物を分け与える。朝のコンビニよりも若干、豪華な食事ができる。魚のフライ、ごはん、からあげ、ありとあらゆる食べ物がもらえる。スーパーマーケットでは、店員さえも、食べ物を提供してくる。

「今日も、また来たの」
  彼女にそう言うと、店員は店から本来は、廃棄するはずだった。食べ物を差し出した。賞味期限がすぎたばかりで、まだ食べられる食べ物だ。彼女は、もちろんお礼を言わずに食べ散らかす。彼女は店の前を時折、汚してしまう。店員は怒りもせずに、それを掃除する。皆、彼女に夢中なために怒ることはない。すべてを許してしまうのだ。

  彼女は自分勝手だ。誰もが認める自己中心的な性格だ。だが、それも彼女の魅力の一つなのだ。あらゆる人々は、彼女を許す。たしかに彼女は、皆に愛されているのだ。

  昼食を終えると、再び彼女は公園に向かう。朝食後と同じように、ボーッとするためだ。それから、昼寝をするためだ。公園でする昼寝は、心地よく、彼女を幸せな気持ちにする。

  そんな彼女を、誰かしらが見かけると写真を撮っていく。彼女は、写真に撮られることを嫌っているが、わざわざ注意はしない。面倒だからだ。彼女は、彼女に寄って来る人々を疎ましく思うことも多々ある。しかし彼女は、あまりに魅力的だから仕方がない。

  夕食時になると、彼女は自宅にもどる。彼女は男と同棲している。夕食は男と二人きりで過ごす。彼女は、男を好きなわけではない。ただ、食べ物と寝る場所を、提供してくれるから一緒にいる。

  男は、彼女を愛している。男の愛は、一方通行だ。男は薄々、気づいている。だが、あまり気にしていない。彼女は男を好きなわけでないが、男の手料理は好きだ。男が作る、魚ごはんが大好きだ。夕食を終えると、彼女は寝室で眠る。


  ある日の朝、彼女は嫌な予感がした。そしてそれは、的中した。いつものように、朝食のために、コンビニへ向かうと、誰も食べ物をよこさないのだ。

  彼女は、いつもとの違いに動揺する。コンビニの前で、うなだれているとコンビニの店員が出てきた。スーパーマーケットの店員と同じように、何かしらの食べ物をくれると思いきや、何もくれない。代わりに「シッシ」と、あっちにいけと言わんばかりのジェスチャーをする。彼女は、いつもと、あまりにも違うので、訳がわからない。

  自分の魅力がなくなってしまったのだろうか?彼女には、今の状況が理解できない。

  ことの真相は至極簡単である。ただ、コンビニに貼り紙が貼られたのだ。貼り紙には、こう書いてあった。「猫に食べ物を与えないで下さい」
「ニャー」
と彼女は悲しげに鳴いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...