天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

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第一章:天上のラストルーム

第4話:バベル

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 ――ようやく到着したバベルへの入口。

「あぁ、ここに来るだけでも疲れたよ……精神的に」

 ここまでの道中、たった数分の距離だったにもかかわらず多くの誹謗中傷を耳にすることになった。そんなことを言う暇があるならレベル上げでもしていろと言いたくなったものの、初心者であるアルストが言えるわけもなくただ黙って歩き続けた。
 というのも、アルストはコミュニケーション能力――コミュ力がとても低い。それは現実でもそうなのだが、ゲーム世界でも自身の性格は変えられないようだ。

「……やっぱり基本はソロプレイになるかなぁ」

 言葉にして呟いたアルストは、実際にそれでもいいかと考えていた。
 他のプレイヤーに劣る固有能力のせいで、どれだけ強くなったとしても、さらに上の実力者が必ず存在する。
 それならば、当初の予定通りソロプレイで自由気ままに楽しんでもいいのではないかと考えたのだ。

「それなら、弱くても魔導剣術士マジックソードを目指せるしな」

 アルストが魔導剣術師を目指す理由、それは単純に魔法を使える剣士に憧れているからだった。特別な理由などなく、ただ格好いいと思ったから。
 小さな頃に憧れたアニメやゲームの世界において、強い剣士や魔法使いは沢山いた。その中には剣も魔法も使いこなすキャラクターも存在したが、アルストはそんな万能剣士に憧れたのだ。
 それ故に今回の固有能力でも、目的を変えることなく魔導剣術師を目指す。
 そもそも全職業の能力を10%補正するのだから、魔導剣術士以外を目指してもそれほど大差はないのだが、その事にアルストは気づいていない。
 今はとにかく、自分が楽しめるように考えることで精一杯だった。

「それじゃあ行ってみるか。とりあえずは死なないようにしなきゃだけど」

 天上のラストルームでは、死んでしまったときのペナルティ――DPデスペナルティが存在する。
 MMORPGにはほとんど取り入れられてるペナルティなのだが、その内容はゲームによって様々だ。
 一定時間のステイタス低下や、アイテムやゲーム内通貨が無くなったり、数時間ログインできなくなるというペナルティもあったりした。
 天上のラストルームの場合は――

「三時間も経験値が手に入らないんじゃあ、モンスターを倒す意味がほとんど無いからな」

 経験値が手に入らないとなれば、レベルが上がらない。モンスターを倒して得られるのは稀に出てくるドロップアイテムくらいだろう。
 多くのプレイヤーはDPを受けてしまった場合、その時間が過ぎるまではバベルから離れてアーカイブ内で受けられるクエストを行うことがほとんどだ。
 初心者であるアルストの場合は何よりもレベル上げが重要になるので、三時間とはいえデスペナルティは何がなんでも避けたいところだった。
 アイテムボックスを確認すると、初心者の為にいくつかのアイテムが入っており、その中には回復薬や解毒薬なのが入っている。
 一階層で使うことはないと思いながらも、回復薬が入っていたことにホッとした。

 操作方法は説明書を読んである程度は分かっているつもりだが、それでも不安はある。
 バベル一階層に足を踏み入れたアルストは、とりあえず誰もいないフロアへ行くと攻撃方法の確認を行った。

「えっと、まずは剣を手に取って……おぉ、本物みたいだな。まあ、本物の剣を持ったことなんてないんだけど」

 つまらない独り言を呟きながら、アルストは初期装備の片手剣――初心者の剣を抜き放つ。

「それで、普通に攻撃する場合は目標を見ながらアタックと声に出すか念じる、だったよな。……これ、声に出すのはものすごく恥ずかしい気がするんだが?」

 臨場感を出すための仕様なのだろうが、アルストにはできそうもなかったので念じることで攻撃を行ってみる。
 今いるフロアにモンスターはいないので、適当な壁をターゲットにしてみた。

「よし……ふっ!」

 ――ガキンッ!

「いってぇ!」

 刀身が壁に当たると、その反動がリアルに自身の手に返ってきた。

「……ま、まあ、こんな感じなんだな」

 壁にはアルストの攻撃した後が残っており、初心者の剣に目を向けると少し刀身が欠けている気がする。

「やべっ! そういえば武器には斬れ味ゲージがあるって書いてあったっけ!」

 一つの武器を手入れもせずに使い続けていると刃こぼれを起こす。これは現実でも当然のことであり、天上のラストルームでも同じ様なことが起こる。
 草や細い枝などを斬った程度ではなんら変わらないのだが、硬いものを斬ったりしようもすると斬れ味は悪くなってしまう。
 武器が壊れる。なんてことはないのだが、いざといったときに手入れをしていないと痛い目を見ることもあるので、斬れ味ゲージは大事な項目なのだ。

「……一応、満タンから少し減ったくらいだから大丈夫、だよな?」

 若干の不安を覚えながらも、アルストはモンスター相手に実践しようと移動を開始する。
 行き止まりのフロアを出てから数分後――青い透明なモンスターが目の前に現れた。
 モンスターの頭上には名前と共に耐久力を表すHPヒットポイントがゲージとなって可視化されている。

「えっと……おぉ! こいつがスライムか!」

 多くのゲームで最弱の異名を持つモンスターであるスライムならば、アルストの初めての戦闘の相手にはふさわしいだろう。
 プヨンプヨンしている姿を見つめて、初心者の剣を構える。
 頭の中でアタック! と念じながら袈裟斬りのイメージを作り上げると――体が自然とイメージ通りに動き出す。
 駆け出したアルストはスライムを間合いに捉えるとすぐに初心者の剣を振り抜く。
 スライムは成す術なく両断されると、光の粒子となってその姿を消してしまった。

「……おぉ! なんか、強くなった気がする!」

 体が動いたのはゲームの仕様なのだが、実際にイメージした通りの動きでモンスターを倒すことができたとなれば、プレイヤーとしては自分が倒した、強くなれたと錯覚してしまうだろう。

「これも臨場感の一つなんだろうな。確かに、はまるのも分かる気がするわ」

 初心者の剣を握る右手を見つめながらそんなことを考えていると、頭の中に謎のファンファーレと電子音が響いてきた。

『おめでとうございます。アルスト様のレベルが2に上がりました』
『おめでとうございます。剣術士のレベルが2に上がりました』

 スライムを一匹倒しただけでレベルが上がるのかと驚きながら、アルストはステイタス画面を開いた。
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