天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

文字の大きさ
10 / 62
第一章:天上のラストルーム

第10話:レアドロップ

しおりを挟む
 激戦を終えたアルストは、息も絶え絶えの状態で地べたに腰掛けた。
 豪奢な一室を模したフロアは、気づけば元の古びた遺跡に戻っている。
 HPヒットポイントは救済処置のおかげで全快しているものの、すぐには動きたくないので周囲を見回してみたが、モンスターの気配はどこにもなかった。

「……つ、疲れたー」

 そして、座り込んでいた姿勢から完全に大の字となる。
 いまだに残る光の粒子を見上げながら、頭の中にはファンファーレが流れ出した。

『おめでとうございます。アルスト様のレベルが9に上がりました。新しいスキルを習得しました。ステイタスをご確認ください』
『おめでとうございます。剣術士ソードメイトのレベルが9に上がりました』
「……新しいスキル?」

 ゴルイドと戦う前は6だったレベルが一気に9まで上がったことに驚き体を起こし、さらにスキルの習得という聞いたことのない報告が流れてきた。
 そして次の電子音にさらなる驚きを覚えてしまう。

『レアボスモンスター:武神ゴルイド討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。MVP賞を獲得しました。ラストアタック賞を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』

 アルストの予想は当たっていた。

「今、レアボスモンスターって言ったか?」

 そして慌ててアイテムボックスを確認すると、Newの表示が付いているアイテムが三つ。
 素材アイテムが二つで【ゴルイドの剛骨】と【折れた魔剣(ディアブル)】、そして魔導師マジシャン専用装備の【一角獣ユニコーン銀角ぎんかく】。
 残念ながら今のアルストが装備できる物ではないが、剣術士のレベル上げが終われば魔術師に転職する予定なので、これはこれで嬉しい装備だった。

「素材アイテムは使い道がよく分からないな。……ん? 素材ってことは、アリーナさんに聞けば何か分かるかも」

 鍛冶師であるアリーナなら素材を活かす方法を知っているかもしれない。
 フレンド登録を済ませていたことでDMダイレクトメールも送れる状態である。
 アルストは聞くだけ聞いてみようと思い軽い気持ちでメールを送った。

「……よし、送信完了っと。とりあえずステイタスを見てみるか」

 気になるのは新しいスキルの習得である。
 指示通りにステイタスを見てみると、スキル欄にNewの表示が一つ確認できる。

「えっと……なんだこれ、ヒューマンブレイダー?」

 効果欄を見てみると、【種族が人形ひとがたに類するモンスターに大ダメージを与える】と書かれていた。

「……なんか、今さら感が満載だな」

 苦笑を浮かべつつも次に目を通したのが割り振りポイントである。
 レベルが一気に3も上がったので15の割り振りポイントがあるのだ。
 ゴルイドに苦戦したこともあり純粋に戦闘に関連するステイタスに割り振ろうとしたのだが、ふととある考えが頭をよぎった。

「……運を上げたから、レアボスモンスターに出会えたのか?」

 あまりにも不確定要素が多いその疑問に、アルストは首を横に振る。
 ステイタスを力の項目で上げようと指が伸びるのだが、その指が直前で止まってしまう。

「…………い、一旦保留にしとくか」

 別に今すぐ上げなくてはいけないわけじゃないのだ。そう思い直したアルストは十分に休めたこともあり立ち上がると、二階層に上がることなくアーカイブへと戻っていった。

 ※※※※

 アーカイブの入口間近になった時、視界に入った端でメールマークが点滅した。

「アリーナさんからの返信だな。どれどれ……」

 内容に目を通したアルストは首を傾げてしまう。

「今から会えないか、場所はお店で、とにかく会いたい、切実に! ……えっ、何これ?」

 若干の不安を抱きながらも、お世話になったこともありアルストは簡単な返信で済ませてアリーナの店へと足を向けた。

 ※※※※

 到着早々、アルストはアリーナに腕を引かれて奥の部屋に連れていかれると、椅子とお茶まで出されてしまい自然とそのまま腰掛けてしまう。
 お茶を一口飲んでいる間に店は閉店されてしまい、誰も入ってこれなくなってしまった。

「……えっと、アリーナさん?」
「アルスト君!」
「は、はい!」
「その素材、見せてくれませんか!」
「えっ、あぁ、いいですけど」
ゴールドはいくらでも払います! だから……って、えっ?」

 アリーナは口を開けたまま固まってしまった。

「いや、Gとかいりませんよ。見せたらいいんですよね?」
「……い、いいの?」
「はい。ていうかこれ、そんなに高価なものなんですか?」

 レアアイテムだということはアルストでも分かるのだが、どれだけ価値があるのかまでは分からない。アリーナがGを積むくらいなのだから相当価値が高いのだろうが、アルストはGをもらうつもりなどなかった。

「ここに出したらいいんですか?」
「お、お願いします!」

 アルストは目の前の机に【ゴルイドの剛骨】と【折れた魔剣(ディアブル)】を乗せる。
 ゴクリ、とアリーナが唾を飲み込む音が聞こえた。

「こ、これが、これ程のものが、レアボスモンスターからドロップしたのね!」
「あの、アリーナさん。レアボスモンスターの情報は攻略サイトにも載ってなかったんですけど、あれってなんだったんですか?」

 アリーナはレアボスモンスターのことを知っているような口ぶりだった。意外とプレイヤー内では有名なのかと疑ってしまう。

「……アルスト君。レアボスモンスターに出会ったのは秘密にしておいた方がいいよ」
「えっ?」

 だが、アリーナからの言葉――忠告に、アルストは唖然としてしまう。

「レアボスモンスターの情報は、ほとんどのプレイヤーが秘匿にしているの」
「そ、それはどうしてですか?」
「……その素材が物語ってるわ」
「これって、そんなにすごい素材なんですか? 俺にはよく分からなくって」

【折れた魔剣(ディアブル)】は再生できればディアブルという魔剣ができるのだと予想を立てることはできるものの、【ゴルイドの剛骨】に関して言えば全く予想が立たない。
 鍛冶師ならば何かしら武具に仕上げることもできるのだろうが、その性能がどのようになるのかもさっぱりである。

「……アリーナさん、よければこの素材譲りましょうか?」
「ゆ、譲るって! アルスト君はバカなのか!」
「いや、今日はお世話になりましたし、そのお礼もかねて――」
「お礼の域を越えちゃうわよ!」

 そこまで怒鳴らなくても、とアルストは思ったが自分よりも長くプレイしているアリーナの言葉は正しいのだろうと思い黙ることにした。

「……それじゃあ、【ゴルイドの剛骨】でアルスト君に剣を作らせてちょうだい」
「えっ! いいんですか!」
「私も鍛冶師の端くれだからね。本音を言うとこれで武器を作ってみたいってことなんだけど、他に持っていくと情報が漏れる可能性もあるからね」
「そういえば、こんなものも一緒にドロップしたんですけど」

 そう言いながら、アルストは素材ではない一角獣の銀角を取り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...