天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

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第一章:天上のラストルーム

第15話:道中

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 一階層を戻っている時である。
 正規ルートの中腹辺りまでやってきたアルストの耳に聞こえてきたのは戦闘音だった。

「一階層で、戦闘音?」

 自分以外にも初心者がいるのかと驚きながらも、アルストは他のプレイヤーの戦い方を見てみたいとも思っていたのでなんとなく足を運んでしまった。
 そして、そこで見たものは――

「ぎゃー!」
「ちょっと、こいつら、なんなのよ!」

 一階層の雑魚筆頭であるスライムとゴブリンに苦戦を強いられる二人の女性キャラのプレイヤー。
 いや、苦戦というにもいささか問題があるかもしれない。

魔導師マジシャンの方は逃げ回ってないか?」

 そう、逃げているのだ、モンスターから。
 もう一人は槍術士《スピアメイト》なのだが、自分が思っていた職業ではないのかうまく槍を扱えておらずモンスターに当てることができていなかった。
 これでは貴重な初心者救済処置を一階層で使ってしまうかもしれないと思ったアルストは、目撃してしまったという理由を盾にして助けに入ることにした。

「ふっ!」

 アルストは一撃で魔導師に迫っていたスライムを仕留めると、次に槍術士が相手取っているゴブリンの首を刎ねてこちらも一撃で終わらせる。
 残された二人の女性プレイヤーは唖然とした表情でアルストを見ていた。

「あの、その、急にすいませんでした!」

 コミュ力が低いアルストは、自分が助けた相手にもかかわらず何故か謝罪を口にすると、取って返しバベルの入口に走っていってしまった。

「……」
「……」

 残された女性プレイヤーはお互いに見合ったまま、しばらくその場で固まっていたのだった。

 ※※※※

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ…………やっちまったなぁ」

 逃げてしまったアルストはアーカイブの入口にある門に手をついて俯いていた。
 まさかゲームの中でも人見知りが強く出てしまうとは思ってもいなかったのだ。

「……いや、最初からソロプレイをしてる時点でダメか」

 天井のラストルームは恐ろしいほどにリアルである。これは人と人とのやり取りに置いてもリアルだった。
 関わった相手がアリーナしかいないのだが、アリーナは当初NPCと勘違いして話しかけていたので入り方が普通と異なっている。
 先ほどの女性プレイヤーとは、当初からプレイヤーということを意識していたのでどうしてもうまく話すことができなかったのだ。

「……まあ、もう関わることもないから問題な――」
「あのー」
「ひえっ!」

 変な声を上げてしまったアルストが声のした方へ振り返ると、そこには先ほどの魔導師と槍術士が立っていた。

「……な、なんでございましょうか?」
「あんた、なんで逃げたんだ?」

 魔導師とは異なり、槍術士は強い口調で話しかけてくる。

「ちょっと、エレナちゃん。そんな言い方はダメだよ」
「むっ、だがアレッサよ、こいつは逃げたんだぞ?」
「でも助けてくれたよ?」
「……分かった、すまん」
「いえ、こちらこそ、すいませんでした」

 お互いに頭を下げ合うアルストとエレナ。その姿を見たアレッサは何故か笑顔だ。

「それで、どうして逃げたのだ?」
「そ、その追求は止めてくれないんだね」

 エレナが鋭い眼光でまっすぐにアルストを見てくるので、仕方なくその理由を口にした。

「……人見知り? ゲームでか?」
「そ、そう言われるとそうなんですが、やはり、リアルの性格を変えることは、難しいと言うか」
「でも、私達を助けてくれたじゃないですか」
「えっと、それは、その時だけと思っての行動であり、今みたいに会話をする予定ではなかったので」

 しどろもどろになりながら言い訳を口にするアルストに対して、何故か離れてくれないアレッサとエレナ。
 完全に困ってしまったアルストだったが、ここでアレッサから決定的な一言が飛び出した。

「あの、よろしければ私達とパーティを組みませんか?」
「……へっ?」
「というか、組んでほしいのだ」
「……あの、何で俺なんですか? 俺も今日始めたばかりの初心者ですよ?」

 パーティを組むなら慣れた相手の方がいいのではないかとアルストは言った。
 だが、二人の表情が晴れることはなく、その答えはアルストの予想通りのものでもあった。

「私達みたいな初心者とパーティを組んでくれる人なんて、ベテランプレイヤーにはいないんです」
「正直なところ、二人だけで何とかやってみようと思っていたところでもあったんだが、あの体たらくなのだ」
「あー、えっと、確かにスライムとゴブリンにやられていたら、その、まずいですよね」

 アルストはレベル1の初期装備でスライムを一撃で倒していた。
 そんなモンスター相手に二対二で苦戦していたとなれば先が思いやられるのも無理はない。

「それで、下層にプレイヤーがいたら声を掛けようって話をしていたんです」
「そんなところに現れたのが君というわけだ」
「……なるほど、理解しました」

 良かれと思って助けに入ったのが、アルストにとっては思わぬ罠にかかったようなものだった。

「あの、よろしければ名前を伺ってもよろしですか?」
「そういえば自己紹介がまだだったな」
「エレナさんに、アレッサさんですよね。そう呼び合っていたので」
「そうそう! それで、あなたは?」
「あー…………アルスト、です」
「ふむ、アルストだな。ではアルスト、パーティを組むにあたりフレンド登録をしようじゃないか」
「それはいいですね!」
「あの! 勝手に話が進んでますけど、僕は基本ソロプレイなので、パーティはちょっと……」

 二人が話を進めようとする中、アルストは何とか断りの言葉を伝える。

「ならば、今日からソロプレイではなくパーティプレイに切り替えようではないか」
「お願いします! 私達だけではレベル上げもままならないのです!」

 女性二人に頭を下げられているこの状況。そして場所はアーカイブの入口前。当然ながら人通りは激しいのである。
 アルストがこの状況に耐えられるはずもなく――

「わ、分かりました! パーティを組みますから、お願いですから頭を上げてください!」

 嵌められた感はあったものの、アルストは初めてのパーティを組むことになった。
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