天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

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第一章:天上のラストルーム

第36話:売却

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 アリーナからはGの貯まり具合についても確認があったのだが、エレナは下を向いてしまった。

「ま、まだ1450Gしか貯まってません」
「一日でそれだけ稼げたら大したもんよ。まだまだ日にちもあるし地道に貯めてくれたらいいわ。そういえばクエストを受けたって言ってたわよね。何のクエストを受けたのかしら?」
「金の翅を納品するクエストです」
「金の翅かぁ」

 そう呟いたアリーナはいまだ落ち込んでいるエレナを見つめている。

「……ねえ、金の翅はまだ余っているのかしら?」
「結構余ってますよ?」
「それ、普通に売れるから売っちゃえば?」
「…………そ、そうなんですか!」

 売れると聞いたエレナがガバッと顔を上げると大声でアリーナに声を掛ける。
 苦笑しながらもエレナは笑顔で答えてくれた。

「クエストだからたくさん出たんだと思うけど、それもレアアイテムの一種だからね。一つ100Gで売れるから少しは足しにはなるんじゃないかしら」
「わ、私はあと三枚あるぞ!」
「私は二枚です」

 エレナが三枚、アレッサが二枚。
 二人の枚数を聞いたアリーナは驚きの表情を浮かべていた。

「結構出たのね。納品まで終わらせてその枚数でしょう?」
「モスキートーンもたくさん出ましたからね」
「いや、それだけではここまで出ない……はず…………」
「……えっ、俺ですか?」

 言葉が尻すぼみになるアリーナの視線はアルストへ向いている。
 アレッサとエレナもアルストを見ると『あっ!』と声を上げた。

「特殊能力ですね!」
「アルストありがとう!」
「お、俺は何もしてないんですけど」
「いや、おそらくこれがアルスト君の特殊能力の効果だと思うわ。普通なら一枚余ればいいくらいなんだもの。……ちなみに、アルスト君は何枚持ってるの?」

 言われてアルストもアイテムボックスを開いてみる。
 改めて確認すると、確かに特殊能力のおかげなんだと思えて笑えてしまう。

「えっと、一二枚です」
「「「……はい?」」」
「……ですから、一二枚です」

 再度伝えると、三人は口を開けたまましばらく固まってしまった。
 そして一番最初に硬直から復帰したのはエレナだった。

「……な、何枚かくれませんか!」
「ちょっと、エレナちゃん!」
「背に腹は変えられん!」
「まだ日にちはあるからね? ね?」
「ぐぬぬっ!」

 あまり聞いたことのない唸り声を上げるエレナに顔を引きつらせながらアルストは提案を口にする。

「イベントもありますし、最後の日に決めましょう。もし足りなければ、その分を埋められるようにあげますから」
「ほ、本当か!」
「でも、俺だってGを貯めたいのでできるだけ自分で貯めてくださいね?」
「もちろんだ! そうと決まれば早速バベルに向かおう! いや、今度もクエストを受けるべきか?」
「ちょっとエレナちゃん、落ち着いてね?」

 Gを貯める目処がついて興奮するエレナを見たアルストとアリーナは顔を見合わせて苦笑している。
 アレッサは興奮するエレナを落ち着かせようとしているがどうにもならないようで助けて欲しそうにアルストを見ている。
 ここではアリーナの迷惑にもなると考えたアルストはお礼を口にして武具店を後にしたのだった。

 ※※※※

 クエスト屋に行こうと思っていたのだが、まずはエレナが持っている金の翅を売却することになり道具屋へと向かう。
 売却価格もプレイヤーが営んでいる道具屋であれば自由に価格を設定できるのだが、今回はNPCの道具屋へ向かうことにした。
 というのも、これはアリーナからの助言でもあった。
 アルストの特殊能力で手に入れた大量の金の翅。エレナが持つ三枚でも珍しいのだからアレッサまで売却するとなればそれだけで目立ってしまう。
 今回はアルストが売却しないとはいえ、なるべく目立たないように行動しようとなったのだ。

「むふふ、これで1750Gだ!」
「このペースなら二週間もかからず貯まりそうですね」
「さっきは取り乱してしまったが、確かにこのペースなら5700Gも見えてくるな!」
「ふふふ、それじゃあクエスト屋に向かいますか?」

 ルンルン気分のエレナを伴いクエスト屋に向かった三人は、再びバベルでモンスターを倒しながら依頼クリアができるクエストを受注するとバベルへと向かった。

 ※※※※

 今回のクエストはレアアイテムの納品でもなく、単純なモンスター討伐。
 目的のモンスターはマッスルベアーであり、討伐数は一〇匹。
 三人であれば余裕を持ってクリアできるクエストだ。
 マッスルベアーを倒すために一階層のボスフロアを素通りして二階層まで進出した三人は、出会い頭のマッスルベアーをエレナが一撃で仕留めたところから突然クエストが始まった。

「これは、タイマー?」
「時間制限ありのクエストってことですか?」
「なに!」

 視界の右上に一〇分のタイマーが現れたかと思えば一秒ずつ減少を始めると、アレッサがすぐに声をあげた。

「一〇分もあれば問題ないと思いますが、念のためふた手に別れましょう」

 固まっていては効率が悪いと判断してアレッサとエレナはペアで、アルストはソロでマッスルベアーを探すことした。
 本来ならエレナに倒してもらいたいところなのだがそうも言っていられないので、アルストも見つけ次第仕留めていく。
 アルストが言った通り討伐は滞りなく行われて残り二匹となり、アルストが追加で一匹を倒した直後である。

「――なんだこいつは!」

 進んできた通路とは逆側――アレッサとエレナが進んでいった先から声が聞こえてきた。

「まさか、ここでもイベントボスモンスターなのか?」

 慌てて引き返したアルストが見たもの、それはふた回りも大きい体躯を誇るマッスルベアーだった。
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