天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

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第一章:天上のラストルーム

第35話:説明

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 アリーナはアルストにしたのと同じ説明を二人に行うと、次に混乱すると言った理由を口にした。

「レアボスモンスターのことを知らないプレイヤーは基本的に上層でレベル上げをしたりドロップアイテムを狙って活動しているの。もし下層、それも一階層でレアボスモンスターやレアアイテムが手に入ると分かれば、多くのプレイヤーはどうすると思う?」
「えっと、楽にレアアイテムを手に入れられる下層で活動すると思います」
「その通り。それじゃあアルスト君が言ったみたいに上層にいたプレイヤーが下層に降りてきたらどうなるでしょう」

 アリーナはアレッサとエレナに視線を向ける。

「……すいません、分かりません」
「……わ、私にも分からん」

 二人とも困惑顔でそう口にする。
 アリーナの視線はそのままアルストへと向かう。

「……PKプレイヤーキルの多発、ですか?」
「ご明察」
「ど、どういうことだ? どうしてプレイヤーが増えるとPKが増えるんだ?」

 エレナはここまで言ってもまだ分からないようだが、隣に座るアレッサは気づいていた。

「……レアボスモンスターを取り合ってのPK、ということでしょうか?」
「大正解」

 笑顔のままアリーナは話を進めていく。

「私自身はレアボスモンスターに遭遇したことがないから分からないけど、基本的に上層の方がレアアイテムは出やすいわ。同じレアボスモンスターでも、下層と上層でドロップするアイテムも違うはず。規律がしっかりしている攻略組はそのまま上層で探索するかもしれないけど、一番怖いのは荒くれものが多い中間層が下に降りてくることね」
「あー、そうかもしれませんね。俺もログインして初期装備の時に色々言われましたから」

 中間層が下層に降りてきてしまえばより一層、初心者が参加しづらくなるだろう。PKが横行して天上のラストルーム自体の評判も落ちてしまうのではないだろうか。
 しかし運営はそれを良しとしているのか対応することはなく、警告することもない。
 ただただ傍観を決め込んでいるのだ。

「おそらく攻略組もそのことを恐れて隠しているんでしょうね。彼らは純粋に天上のラストルームを楽しんでいるからさ」
「それは俺も同じです。昨日始めたばかりの初心者ですけど、それでも十分に楽しいと思えていますから」
「というわけで、レアボスモンスターに関しては他言無用ね。特にアルスト君に関しても」
「えっ? お、俺ですか?」

 意外な言葉にアルストは素っ頓狂な声を出してしまう。

「こんな短期間で二回もレアボスモンスターに出会うだなんて普通はあり得ないわ。アルスト君、よければ固有能力って聞いてもいいかな?」

 アリーナの提案にアルストは口を噤んでしまう。自分の固有能力が最弱だという自覚があるのであまり口にしたくないのだ。
 だがレアボスモンスターに繋がるヒントが隠されている可能性があるならと意を決して口にした。

「……えっと、全職業の能力10%補正、です」
「「「……えっ?」」」

 当然の反応にアルストは顔を覆いたくなった。

「俺もこんなことになるとは思いませんでしたよ」
「全職業10%補正って、その、言っちゃあ悪いけど……最弱?」
「……俺もそう思います」
「……オ、オールラウンダーになれますよ!」
「アレッサさん、スポーツじゃないんだし、天上のラストルームでオールラウンダーは需要がないですって」
「……ご愁傷さま」
「……ぐすん」

 最後のエレナの言葉に涙を浮かべそうになりながらも、固有能力がレアボスモンスターに繋がるとは思えない。そうアルストは思ったのだが、アリーナの見解は違っていた。

「でも、もしそんな能力を持っているなら運営がパワーバランスを考えてレアボスモンスターとの遭遇率を上げている可能性はあるかもしれないわね」
「そうでしょうか。単純にたまたまな気もしますけど」
「だから、たまたまでこんな短期間に二回も遭遇するなんてあり得ないから」

 妙に確信をもって答えるアリーナに首を傾げながらも、アルストは自分の固有能力ステイタスを確認していないことに今更ながら気がついた。

「ちょっと確認します」

 三人は何のことか分からずに顔を見合わせている。
 そしてアルストが確認したステイタスには補正された能力に加えて、最後の項目にこのような言葉が記されていた。

 ――――
 ▼特殊能力
 モンスターがレアモンスターに格上げされる可能性特大補正あり。その分モンスターが強くなるのでご注意下さい。
 ――――

「…………すいません、俺のせいでした」
「「「何があったの!」」」

 三人の言葉はもっともなので、アルストは見てもらった方が早いと思いステイタス画面を開示することにした。
 特殊能力の項目に何度も目を通す三人は、視線を外すと大きく息を吐き出した。

「……これって、すごくないですか?」
「……あ、あぁ」
「いやー、私も発売からすぐに始めたけど、こんなの初めて見たよ」
「アリーナさんでも見たことがないんですか?」
「そもそも特殊能力って何よ。たぶん攻略組も知らないんじゃないかな」

 アルストはゴクリと唾を飲み込んだ。
 上層を根城にしているプレイヤーですら知らないであろう特殊能力を何故自分が持っているのか。そしてこの能力のことを知られてしまえば勧誘合戦が始まりソロプレイどころではない。

「ですが、パーティで一階層のボスモンスターに挑んだ時は普通のボスモンスターでしたよ?」
「あくまでも補正だからね。必ず出るわけではないってことでしょう」
「必ず出てきたら俺が困ります。レアボスモンスターめちゃくちゃ強いんですよ」
「その分レアアイテムがドロップするんだからいいじゃないの」
「ソロで楽しめませんよ! 今は装備することもできませんしね」
「それならさっさとレベルを上げることねー」

 アルストの肩を叩きながらそう言ってくるアリーナを見て、アルストは大きな溜息をつくのだった。
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