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第一章:天上のラストルーム

第34話:大失態

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 攻略サイトに目を通していたものの、クエストに関しては全く気にしていなかった。
 アルストが見た内容には『クエストはDPデスペナルティになった時にだけ受けるもの』と書いてあったからだ。
 今回のクエストは最初に受けられる難易度1のクエストである。ならばボスモンスターもそれなりの実力であることは当然のことだった。

「はぁ。なんか緊張して損した気分だ」

 そんなことを呟きながらアレッサとエレナのところに戻ったアルストだったが、二人からの視線に違和感を覚えて口を開いた。

「あの、どうしたんですか?」
「……レアボスモンスターとはなんのことだ?」
「……私もそのように聞こえましたけど?」

 そこでようやく気づいた。
 隠していたレアボスモンスターの存在を、アルストは二人の目の前で声を大にして発していたことに。
 イベントボスモンスターをレアボスモンスターと勘違いしていたことは間違いないが、そこで口走ってしまったのはアルストの失態である。

「あー、えっと、そのー」

 どう説明していいものかと思案していると、ずずずいっとエレナが近づいてくる。

「どういうことだ?」

 顔と顔の距離があまりにも近いのでアルストは顔を逸らせるが、そこにはまさかのアレッサの顔があり上を向くしかなかった。

「…………ぐぐぐぐっ! 分かりました、言いますから離れてください!」

 根負けしたアルストがそう口にすると、二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
 溜息を漏らしながら口にしようとしたが、ここでは他の目があるかもしれないと思いすぐに噤んだ。

「できれば、他の場所で話をしたいんですが……」

 アルストの表情を見て、二人もゆっくりと頷いた。
 だが、その前にせっかくのイベントボスモンスター討伐によって手に入れたアイテムを確認することにした。
 アイテムボックスを開くと最初に飛び込んできたNewの文字。一番上にはモスキートーンからドロップした【金の翅】が表示されており、五枚の納品なのだが一七枚もドロップしている。
 そして下へ進んでいくと、ベルズからドロップしたアイテムが出てきた。
 素材アイテムの【強酸袋】と【ベルズの複眼】、そして魔導師マジシャン専用装備の腕当【魔女の手袋】。
 レア度はというと――

「……ま、またレア度が高い。【強酸袋】は3、魔女の手袋が4。……【ベルズの複眼】が5って」

 またしてもレア度5がドロップしたことによりアルストの困惑はより一層深まってしまった。
 だが手に入れたレア度5は素材アイテムである。ここでもアリーナの助けを借りることになるだろうと考えれば少し気が引けてしまう。

「……何故に毎回アルストだけなのだ!」
「怒ってはダメよエレナちゃん。ですが、本当にどうしてでしょう」

 今回も二人のドロップアイテムはレア度が低いようだ。

「俺にも分からないよ」

 何かがアルストに高レアリティのアイテムやレアボスモンスターとの遭遇を補正しているとしか考えられない。
 深く考えたことはなかったが、こうも立て続けに起こるようであれば考える必要があると思い始めていた。

「……とりあえず、戻りますか。クエストの完了報告もやらなければいけませんし」
「そうだな。だが、逃げるなよ?」
「逃げませんよ」

 睨んでいるエレナに後ずさりするアルストを見てアレッサが苦笑している。
 三人はクエスト完了を報告するためにアーカイブへと戻った。

 ※※※※

 クエスト完了は思いのほかスムーズに終えることができた。
 最初に受付をした時にやり方を学んだようで、窓口に行ってから一分ほどで戻ってきたのだ。
 その足でレアボスモンスターについて話をしようとしたのだが、何処ならば他のプレイヤーの目と耳を気にすることなく話ができるかと考えたのだが、アルストには思い浮かばない。
 そこで提案してきたのはアレッサだった。

「先ほどアリーナさんにメールをしたら、ログインしているようなので来ていいと言っていましたよ?」
「……仕事が早いですね」
「大事なことですから」

 アルストは溜息混じりの言葉を溢す。

「……はぁ。絶対に怒られるよ」

 黙っておくように強く言われていたにもかかわらず口にしてしまったアルスト。アリーナの武具店について口にしなかったのは怒られることを怖がっていたからである。
 だが逃げることはできず他の候補もないことから、アルストは渋々アリーナの武具屋へと向かうのだった。

 案の定――アルストはアリーナの武具屋の隅っこまで連行されて小声で怒られてしまった。

「アルスト君、何してくれてんのよ!」
「す、すいません! イベントボスモンスターの登場がレアボスモンスターの登場と似てたものでつい……」
「つい……じゃないわよ! はぁ、これで情報が漏れたらバベルのボスフロアは混乱するわよ」
「……混乱?」

 どういうことだろうと首を傾げたアルストだったが、そのことについてはアレッサとエレナも交えて行うようで、頭を掻きながら顔を上げたアリーナは二人の方へ向き直った。

「二人にも他言無用をお願いするけどいいかしら?」

 穏やかな雰囲気が常に出ていたアリーナの真面目な表情に、アレッサとエレナは無言のまま頷いた。

「アルスト君も、これ以上はむやみやたら口にしないようにね?」
「……は、はい」

 アルストに対しては笑顔の中に微かな怒りを含めながら口にする。
 返事を聞いたアリーナは武具屋を閉店して奥の部屋に三人を連れて行った。
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