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第一章:天上のラストルーム
第59話:ミニマムキャット討伐⑩
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アルストもエレナもその姿を捉えることができなかった。
地面に残った足跡が、その強靭な脚力でどこかへ向かったのだと予想を立てることしかできず、その結果が悲鳴という答えになって聞こえてくるとは夢にも思わなかった。
「きゃああああああああっ!」
「なっ! アレッサさん!」
「アレッサ!」
振り返った先ではさらに速度を増したビッグキャットという弾丸がアレッサに体当たりしており、まるでボールのようにアレッサは吹き飛ばされて地面に何度も弾んで壁に激突した。
HPを確認すると一割を切っており、ギリギリDPを回避した格好だ。
なんとか助かった。ならばビッグキャットを引き付けて、アレッサが動ける時に回復してもらうのが安全な方法なのだが、そんなことを考えられない人物もいる――エレナだ。
アレッサが吹き飛ばされたことで頭に血が上り、なりふり構わずビッグキャットへ突進していく。
「エレナさん! ダメだ!」
「うおおおおおおおおおおっ!」
『グルアアアアアアアアッ!』
突進するエレナさんに向けて体の向きを変えたビッグキャットが姿勢を低くすると、先ほどと同じく地面に足跡が残されて高速の弾丸と化す。
ビッグキャットの突進に合わせてスピルニアを突き出したエレナだったが、巨大な塊が高速で突っ込んできたのだ。
人間の速度で突き出された槍に勝ち目があるはずもなく、斬れ味ゲージを全損させるとともに、アレッサと同様に吹き飛ばされてしまう。
「がああああああああああっ!」
「エレナさん!」
アルストの足元まで地面を削りながら飛んできたエレナの肩を抱き上げる。
「ぐうぅぅ、がはっ!」
「くそっ! こっちもHPギリギリまで削られてる!」
エレナのHPは一割を何とか残している状態であり、痛みを伴っている一撃でこちらもすぐに身動きが取れない。
だがビッグキャットのHPも残り二割に迫っている。ならばどうするべきか、アルストの覚悟は決まっていた。
「俺が絶対に仕留めてみせる! ここまでやって負けられるかよ!」
エレナを優しく地面の寝かせ、アルストはスレイフニルの剣先をビッグキャットへと向けた。
遠距離攻撃を連発するのもありだろう。アニマルブレイダーの効果が上乗せされれば数発当てれば二割を削ることは可能かもしれない。
だがアルストはそれだけでは決め切れないと確信を持っていた。
ビッグキャットの強靭な脚力からなる高速軌道。安易にスマッシュバードを放てばカウンターを受けて今度こそDPを喰らう可能性が高い。
ならばスマッシュバードを囮にしてスレイフニルを確実に当てていく方が勝てる可能性は高いと判断した。
「これでもくらえ!」
スマッシュバードの三連撃。
飛ぶ斬撃がビッグキャットに迫っていくと、当たる直前に残像を残すかの如く横移動したビッグキャットは容易く三連撃を回避する。
着地と同時にさらなる加速を見せたビッグキャットがアルストめがけて突進を仕掛けてきた。
タイミングを間違えばアルストが吹き飛ばされる、勝負は一瞬。
ビッグキャットがアルストの間合いに入るまで一〇メートル――七メートル――五メートル――三メートル――一瞬の煌めき発動。
弾丸と化したビッグキャットよりも素早い動きで横に飛び退いたアルスト。
回避されるとは微塵も思っていなかったビッグキャットは目を見開き慌てて立ち止まる。
アルストとビッグキャットの距離は五メートル。一瞬の煌めきが発動する三メートルよりも離れた位置で立ち止まってたビッグキャットめがけて、アルストはスレイフニルを大上段に構えたまま最後のアスリートを発動して間合いを一瞬で詰めた。
至近距離から放たれたパワーボムは、爆発の余波でアルストにもダメージを与えるものの七色の指輪の効果もあり最小限に止めてくれる。
『ブギャアアアアアアアアアアッ』
一方のビッグキャットからは悲鳴がこだまする。
正面からの一撃は二割を削り切ることはできなかったが、ついに一割を切った。
アスリートを使い切ったアルストに残された手段は接近戦しかない。
パワーボムをぶつけたそのままの距離で連撃を浴びせ続ける。
残された力を振り絞りアルストの頭に食らいつこうとしたビッグキャットだったが、アスリートがなくても一瞬の煌めきは回数制限なく使用可能。
回り込むようにして背後を取ったアルストは再びの連撃。ありとあらゆる角度からスレイフニルの刃を叩き込んでいくアルストに、ついにビッグキャットが膝をついた。
完全に消失したビッグキャットのHPを確認してアルストが見たものは、光の粒子へと変わっていく姿だった。
「……か、勝った、のか?」
アレッサとエレナも気力を振り絞ってアルストとビッグキャットの死闘を見届けていた。
痛みが引いてきたのか、二人とも時間をかけながらも立ち上がり、ゆっくりとアルストの方へ歩いていく。
「アルスト、やったの、だな」
「本当に、すごいです」
「……二人がいなかったら、俺も勝てませんでした」
実力的にはレアボスモンスターやレアイベントのアシュラと比べてビッグキャットは弱かったのかもしれないが、初心者救済処置がなくなった状態での緊張感を考えると、今回の戦闘が一番苦戦したと言えるだろう。
装備が、スキルが、パーティが、どれか一つでも欠けていたらアルストはここに立っていなかったはずだ。
改めて、アルストは口にする。
「アレッサさん、エレナさん、本当にありがとうございました」
そして電子音が鳴り響く。
『おめでとうございます。アルスト様のレベルが23に上がりました』
『おめでとうございます。剣術士のレベルが23に上がりました』
『イベントボスモンスター:主猫ビッグキャット討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。MVP賞を獲得しました。ラストアタック賞を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』
続いて電子音がこのように告げてきた。
『主猫ビッグキャット討伐により、ミニマムキャット出現率大幅補正の特別マップにご招待いたします』
本来の目的をすっかり忘れていたアルスト達は顔を見合わせると慌てて準備を開始する。
「ふ、二人は動けそうですか?」
「な、なんとか大丈夫だ! それに、この機会を見逃すわけにはいかん!」
「私も大丈夫です!」
「とりあえず回復薬でHPを少しでも回復させてくださいね!」
アレッサとエレナが回復薬を使ってHPを三割まで回復させたところで、闘技場を模していたマップから再び移動した。
※※※※
次に三人が立っていた場所は、緑の草木が広がる森の中。
この中からミニマムキャットを探すのかと少し嫌な顔を浮かべていたアルストだったが、すぐにその表情は笑顔に塗り替えられる。
『――ギャギャ?』
「すぐに現れたな!」
「……ア、アルスト?」
「……すごいけど、これはさすがに」
アルストとは異なるリアクションをしている二人に疑問を感じて振り返ったアルストが見たものは――森のいたるところから顔を出すミニマムキャットだった。
「……いや、気持ちを切り替えましょう。俺達はビッグキャットを討伐してようやくここまでやってきたんです!」
「……そうだな。その通りだ!」
「……はい、やります、やりましょう!」
「「「狩り放題だ!」」」
その後からは時間を忘れて三人は森の中でミニマムキャットを好きなだけ狩り続けた。
ミニマムキャットから攻撃されることもなく、HPが少ない二人もDPを気にすることなく倒しまくる。
アルストもこれでもかというくらいに片っ端から討伐していった。
そして――気がつけば一八時となりイベントは終了。三人は強制的にアーカイブへと戻されたのだった。
地面に残った足跡が、その強靭な脚力でどこかへ向かったのだと予想を立てることしかできず、その結果が悲鳴という答えになって聞こえてくるとは夢にも思わなかった。
「きゃああああああああっ!」
「なっ! アレッサさん!」
「アレッサ!」
振り返った先ではさらに速度を増したビッグキャットという弾丸がアレッサに体当たりしており、まるでボールのようにアレッサは吹き飛ばされて地面に何度も弾んで壁に激突した。
HPを確認すると一割を切っており、ギリギリDPを回避した格好だ。
なんとか助かった。ならばビッグキャットを引き付けて、アレッサが動ける時に回復してもらうのが安全な方法なのだが、そんなことを考えられない人物もいる――エレナだ。
アレッサが吹き飛ばされたことで頭に血が上り、なりふり構わずビッグキャットへ突進していく。
「エレナさん! ダメだ!」
「うおおおおおおおおおおっ!」
『グルアアアアアアアアッ!』
突進するエレナさんに向けて体の向きを変えたビッグキャットが姿勢を低くすると、先ほどと同じく地面に足跡が残されて高速の弾丸と化す。
ビッグキャットの突進に合わせてスピルニアを突き出したエレナだったが、巨大な塊が高速で突っ込んできたのだ。
人間の速度で突き出された槍に勝ち目があるはずもなく、斬れ味ゲージを全損させるとともに、アレッサと同様に吹き飛ばされてしまう。
「がああああああああああっ!」
「エレナさん!」
アルストの足元まで地面を削りながら飛んできたエレナの肩を抱き上げる。
「ぐうぅぅ、がはっ!」
「くそっ! こっちもHPギリギリまで削られてる!」
エレナのHPは一割を何とか残している状態であり、痛みを伴っている一撃でこちらもすぐに身動きが取れない。
だがビッグキャットのHPも残り二割に迫っている。ならばどうするべきか、アルストの覚悟は決まっていた。
「俺が絶対に仕留めてみせる! ここまでやって負けられるかよ!」
エレナを優しく地面の寝かせ、アルストはスレイフニルの剣先をビッグキャットへと向けた。
遠距離攻撃を連発するのもありだろう。アニマルブレイダーの効果が上乗せされれば数発当てれば二割を削ることは可能かもしれない。
だがアルストはそれだけでは決め切れないと確信を持っていた。
ビッグキャットの強靭な脚力からなる高速軌道。安易にスマッシュバードを放てばカウンターを受けて今度こそDPを喰らう可能性が高い。
ならばスマッシュバードを囮にしてスレイフニルを確実に当てていく方が勝てる可能性は高いと判断した。
「これでもくらえ!」
スマッシュバードの三連撃。
飛ぶ斬撃がビッグキャットに迫っていくと、当たる直前に残像を残すかの如く横移動したビッグキャットは容易く三連撃を回避する。
着地と同時にさらなる加速を見せたビッグキャットがアルストめがけて突進を仕掛けてきた。
タイミングを間違えばアルストが吹き飛ばされる、勝負は一瞬。
ビッグキャットがアルストの間合いに入るまで一〇メートル――七メートル――五メートル――三メートル――一瞬の煌めき発動。
弾丸と化したビッグキャットよりも素早い動きで横に飛び退いたアルスト。
回避されるとは微塵も思っていなかったビッグキャットは目を見開き慌てて立ち止まる。
アルストとビッグキャットの距離は五メートル。一瞬の煌めきが発動する三メートルよりも離れた位置で立ち止まってたビッグキャットめがけて、アルストはスレイフニルを大上段に構えたまま最後のアスリートを発動して間合いを一瞬で詰めた。
至近距離から放たれたパワーボムは、爆発の余波でアルストにもダメージを与えるものの七色の指輪の効果もあり最小限に止めてくれる。
『ブギャアアアアアアアアアアッ』
一方のビッグキャットからは悲鳴がこだまする。
正面からの一撃は二割を削り切ることはできなかったが、ついに一割を切った。
アスリートを使い切ったアルストに残された手段は接近戦しかない。
パワーボムをぶつけたそのままの距離で連撃を浴びせ続ける。
残された力を振り絞りアルストの頭に食らいつこうとしたビッグキャットだったが、アスリートがなくても一瞬の煌めきは回数制限なく使用可能。
回り込むようにして背後を取ったアルストは再びの連撃。ありとあらゆる角度からスレイフニルの刃を叩き込んでいくアルストに、ついにビッグキャットが膝をついた。
完全に消失したビッグキャットのHPを確認してアルストが見たものは、光の粒子へと変わっていく姿だった。
「……か、勝った、のか?」
アレッサとエレナも気力を振り絞ってアルストとビッグキャットの死闘を見届けていた。
痛みが引いてきたのか、二人とも時間をかけながらも立ち上がり、ゆっくりとアルストの方へ歩いていく。
「アルスト、やったの、だな」
「本当に、すごいです」
「……二人がいなかったら、俺も勝てませんでした」
実力的にはレアボスモンスターやレアイベントのアシュラと比べてビッグキャットは弱かったのかもしれないが、初心者救済処置がなくなった状態での緊張感を考えると、今回の戦闘が一番苦戦したと言えるだろう。
装備が、スキルが、パーティが、どれか一つでも欠けていたらアルストはここに立っていなかったはずだ。
改めて、アルストは口にする。
「アレッサさん、エレナさん、本当にありがとうございました」
そして電子音が鳴り響く。
『おめでとうございます。アルスト様のレベルが23に上がりました』
『おめでとうございます。剣術士のレベルが23に上がりました』
『イベントボスモンスター:主猫ビッグキャット討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。MVP賞を獲得しました。ラストアタック賞を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』
続いて電子音がこのように告げてきた。
『主猫ビッグキャット討伐により、ミニマムキャット出現率大幅補正の特別マップにご招待いたします』
本来の目的をすっかり忘れていたアルスト達は顔を見合わせると慌てて準備を開始する。
「ふ、二人は動けそうですか?」
「な、なんとか大丈夫だ! それに、この機会を見逃すわけにはいかん!」
「私も大丈夫です!」
「とりあえず回復薬でHPを少しでも回復させてくださいね!」
アレッサとエレナが回復薬を使ってHPを三割まで回復させたところで、闘技場を模していたマップから再び移動した。
※※※※
次に三人が立っていた場所は、緑の草木が広がる森の中。
この中からミニマムキャットを探すのかと少し嫌な顔を浮かべていたアルストだったが、すぐにその表情は笑顔に塗り替えられる。
『――ギャギャ?』
「すぐに現れたな!」
「……ア、アルスト?」
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アルストとは異なるリアクションをしている二人に疑問を感じて振り返ったアルストが見たものは――森のいたるところから顔を出すミニマムキャットだった。
「……いや、気持ちを切り替えましょう。俺達はビッグキャットを討伐してようやくここまでやってきたんです!」
「……そうだな。その通りだ!」
「……はい、やります、やりましょう!」
「「「狩り放題だ!」」」
その後からは時間を忘れて三人は森の中でミニマムキャットを好きなだけ狩り続けた。
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