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第一章:天上のラストルーム
第58話:ミニマムキャット討伐⑨
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隙を作るためにアレッサがフレイルを放つが、ここでも一切怯むことなく受けながら突っ込んでくるので自分が役に立てていないと歯噛みしてしまう。
「アレッサさんはサンダーボルトを放つタイミングを計ってください!」
「その間は私達がこいつの相手をしてやるさ!」
「わ、分かりました!」
アルストはいくつかの仮説を立てていた。
ビッグキャットに炎耐性があるのは確実。だが一つの耐性を持っているモンスターが複数属性に対して耐性を持っている可能性は低いだろうと。
もちろん複数属性に耐性を持っているモンスターだっているはずだが、そのようなモンスターが初心者の集まりであるアルスト達の前に現れるだろうか。
今回のイベントにおいて、アルスト達が移動したサーバーは自分で選んだサーバーではなく、自動的に割り振られたサーバーだった。
ならばどのように割り振られたのかを考えた時、パーティの平均能力が近くなるように割り振られたのではないだろうか。
もちろんアルスト達が底辺のパーティであることに変わりはないし、この場に他のプレイヤーがいればすでにビッグキャットは討伐されているかもしれない。
そしてビッグキャットも他のプレイヤーのレベルに合わせた実力ならばアルスト達がここまで戦えているのは実力的に見ておかしいのではないかと考えていた。
そこで、イベントボスモンスターのレベルはエンカウントしたプレイヤーが楽しめるよう実力を調整されているのではないだろうか。
もしそうだとすれば、アルスト達が一蹴されることなく戦えていることの説明がつく。
「エレナさんも、ブレイクスピアを、当ててくださいね!」
「任せろ! 絶対に当てて、麻痺にしてやるさ!」
ビッグキャットの猛攻を回避しながら、アルストはエレナに指示を飛ばしていく。
減少したHPを気にしながらの攻防は精神を削り取っていくが、今はそんなことを考えている場合ではない。
高速で迫る巨大な弾丸。回避したとしても間合いは詰められたままであり、即座に肉弾戦を強いられる。
五割弱あったHPも今は四割にまで減少し、エレナのHPも六割まで削られていた。
「アニマルブレイダーとスレイフニルを使って、これかよ!」
ビッグキャットの種族は獣なので大ダメージの補正がかかり、さらにミスリルで作られたスレイフニルはアルスター3を越える攻撃力を持ってる。
それにも関わらずビッグキャットのHPはいまだ五割以上を残していた。
「俺達にはもう、救済処置もないんだよ!」
DPになった時点でアーカイブへ自動的に転送されてしまう。
イベント専用マップに戻ったとしても、再びビッグキャットに出会える可能性は低いだろう。
現時点ではアレッサとエレナもゲーム開始から三日以上経っているので、初心者救済処置を頼ることはできなかった。
「ぐおっ!」
ビッグキャットの剛腕がアルストを捉える。
間一髪でスレイフニルをぶつけてダメージを最小限に抑えるとともに距離を取る。
突っ込んでこようとするビッグキャットの足を止めさせたのはエレナだった。
ロングジャベリンから接近して高速の刺突を何度も繰り出す。
その間にアルストは自分が持っている武器を整理する。
装備はスレイフニル、ブリッシュロード、アスリーライド、剛力の腕輪。
特殊効果であるアスリートのストックは残り一回。
スキルは剣術士がレベル20になった時に上昇した耐久力上昇2、アニマルブレイダー、そして一瞬の煌めき。
一瞬の煌めきがあるからこそ、アルストはここまでやれている。
先ほどは捉えられたものの、それまでは一瞬の煌めきを上手く使い回避と反撃を繰り返していた。
アスリートを使いきってしまうと明らかに戦力ダウンしてしまうので、なんとか打開策を見いだしたいところだった。
「他に装備は……これは、使えるか?」
アルストが見つけた打開策、それは七色の指輪だった。
特殊効果は全属性に高補正、高耐性を付与するもの。
魔法を使えないアルストでは高耐性の恩恵しか受けることができない――そう考えていたが、一つの可能性を思いついていた。
「……試す価値はあるか」
即座にステイタスから七色の指輪を装備したアルストはアレッサに声を掛ける。
「俺がビッグキャットを抑えるので、俺ごとサンダーボルトを撃ってください!」
「な、何を言っているのですか!」
「考えがあります! チャンスは少ないので、よろしくお願いしますね!」
「そんな、アルストさん!」
アレッサの制止を振り切り駆け出すアルスト。
エレナと入れ替わるようにして前に出ると胸部に袈裟斬りを叩き込む。
「エレナさんは、アレッサさんがサンダーボルトを放ったら、すぐにブレイクスピアを!」
「任せろ! アルスト!」
「はい!」
「死ぬなよ!」
エレナの耳にも二人の会話は聞こえていた。アルストが無理をすることが分かっているのだ。
「当然です! ここからは一気にいきますよ!」
密着した状態でスレイフニルを叩き込むアルスト。
足を止めて真っ向勝負を受けて立つビッグキャット。
エレナが距離を取ったところを見計らい、アレッサが魔法を解き放つ。
「サンダーボルト!」
魔力向上1の効果で威力が補正された一撃は、麻痺付与の確率も補正している。
嫌な予感を感じ取ったビッグキャットの手が止まり、その場から移動しようとするがアルストがそれを許さない。
「逃がすかよおおおおっ!」
『ギャフッ! ギギギギギイイイイッ!』
アルストとビッグキャット。一人と一匹の頭上に雷光が煌めくと――落雷。
ビッグキャットに命中したサンダーボルトは、その余波を周囲にも広げて地面が陥没。激しい光が地面にバチバチと音色を奏でる。
粉塵が舞い視界が悪くなるなか、図体の大きいビッグキャットの頭部が見えた途端、エレナが全力で駆け出した。
狙うは背後から頭部への一撃、放つはもちろんブレイクスピア。
「どっせええええいっ!」
渾身の一振りが、スピルニアの穂先が、大上段から振り下ろされた黄色の光が、確実にビッグキャットの頭部に命中する。
弾ける黄色の光がビッグキャットの体を駆け抜けると、直後には麻痺付与の証拠として地面に奏でられていたバチバチという音が体から聞こえてきた。
すでに粉塵は晴れている。ビッグキャットの姿も完全に見えている。
だが、不思議なことが起きていた。
「アルストさんが、いない?」
「ど、どこに行ったんだ?」
落雷が着弾した時、アルストは確かにビッグキャットを足止めするために密着していた。
一瞬の煌えきを使用したとしても回避できるタイミングではなかった。
仮に回避できたとしても地面を陥没させるほどの威力であるサンダーボルトの余波がアルストに襲い掛かり少なくても麻痺になっているはずだ。
だが、麻痺になっているはずのアルストの姿が見当たらない。
答えはアルストが装備した七色の指輪にあった。
全属性に高補正、高耐性を付与するレア度7のアクセサリー。
全属性に高耐性をもたらす装備によって、アルストは麻痺になることもなくサンダーボルトに耐えることができた。
ならば今どこにいるのか。それは――
「――もう一発だああああああぁぁっ!」
声の方向へ視線を向けた二人は、ビッグキャットの遥か頭上を見ていた。
大跳躍から大上段に構えたスレイフニル。刀身には溜まりに溜まった赤い光がこれでもかと発光している。
スレイフニル、アニマルブレイダー、剛力の腕輪、そして七色の指輪。
これはアルストの予想である。全属性に高補正という部分を読み、パワーボムの爆発が火属性に数えられないかと考えていた。
サンダーボルトの余波を凌ぎ切ることも重要だったが、一番重要と考えていたのは爆発の高補正である。
ビッグキャットの背後から、脳天めがけて振り下ろされたスレイフニル。斬撃を追い掛けるようにして巻き起こる大爆発。
大跳躍を経てのパワーボムだったからということもあるかもしれない。それでも、今まで見てきた中で一番の大爆発がアルストの背後で音を立てている。
すでに五割近いHPまで減少していたビッグキャットである。サンダーボルト、ブレイクスピア、そしてパワーボム。
これだけの攻撃を固めたのだから、五割を切ってからの攻撃手段変更をもすっ飛ばして全損まで持っていきたいと思っていた。
だが――ことはそう上手く運んではくれなかった。
『――……グルオオオオオオオオオオオオオォォッ!』
麻痺が解け、HPが二割ほど残ってしまったビッグキャットが大咆哮とともにその姿をかき消した。
「アレッサさんはサンダーボルトを放つタイミングを計ってください!」
「その間は私達がこいつの相手をしてやるさ!」
「わ、分かりました!」
アルストはいくつかの仮説を立てていた。
ビッグキャットに炎耐性があるのは確実。だが一つの耐性を持っているモンスターが複数属性に対して耐性を持っている可能性は低いだろうと。
もちろん複数属性に耐性を持っているモンスターだっているはずだが、そのようなモンスターが初心者の集まりであるアルスト達の前に現れるだろうか。
今回のイベントにおいて、アルスト達が移動したサーバーは自分で選んだサーバーではなく、自動的に割り振られたサーバーだった。
ならばどのように割り振られたのかを考えた時、パーティの平均能力が近くなるように割り振られたのではないだろうか。
もちろんアルスト達が底辺のパーティであることに変わりはないし、この場に他のプレイヤーがいればすでにビッグキャットは討伐されているかもしれない。
そしてビッグキャットも他のプレイヤーのレベルに合わせた実力ならばアルスト達がここまで戦えているのは実力的に見ておかしいのではないかと考えていた。
そこで、イベントボスモンスターのレベルはエンカウントしたプレイヤーが楽しめるよう実力を調整されているのではないだろうか。
もしそうだとすれば、アルスト達が一蹴されることなく戦えていることの説明がつく。
「エレナさんも、ブレイクスピアを、当ててくださいね!」
「任せろ! 絶対に当てて、麻痺にしてやるさ!」
ビッグキャットの猛攻を回避しながら、アルストはエレナに指示を飛ばしていく。
減少したHPを気にしながらの攻防は精神を削り取っていくが、今はそんなことを考えている場合ではない。
高速で迫る巨大な弾丸。回避したとしても間合いは詰められたままであり、即座に肉弾戦を強いられる。
五割弱あったHPも今は四割にまで減少し、エレナのHPも六割まで削られていた。
「アニマルブレイダーとスレイフニルを使って、これかよ!」
ビッグキャットの種族は獣なので大ダメージの補正がかかり、さらにミスリルで作られたスレイフニルはアルスター3を越える攻撃力を持ってる。
それにも関わらずビッグキャットのHPはいまだ五割以上を残していた。
「俺達にはもう、救済処置もないんだよ!」
DPになった時点でアーカイブへ自動的に転送されてしまう。
イベント専用マップに戻ったとしても、再びビッグキャットに出会える可能性は低いだろう。
現時点ではアレッサとエレナもゲーム開始から三日以上経っているので、初心者救済処置を頼ることはできなかった。
「ぐおっ!」
ビッグキャットの剛腕がアルストを捉える。
間一髪でスレイフニルをぶつけてダメージを最小限に抑えるとともに距離を取る。
突っ込んでこようとするビッグキャットの足を止めさせたのはエレナだった。
ロングジャベリンから接近して高速の刺突を何度も繰り出す。
その間にアルストは自分が持っている武器を整理する。
装備はスレイフニル、ブリッシュロード、アスリーライド、剛力の腕輪。
特殊効果であるアスリートのストックは残り一回。
スキルは剣術士がレベル20になった時に上昇した耐久力上昇2、アニマルブレイダー、そして一瞬の煌めき。
一瞬の煌めきがあるからこそ、アルストはここまでやれている。
先ほどは捉えられたものの、それまでは一瞬の煌めきを上手く使い回避と反撃を繰り返していた。
アスリートを使いきってしまうと明らかに戦力ダウンしてしまうので、なんとか打開策を見いだしたいところだった。
「他に装備は……これは、使えるか?」
アルストが見つけた打開策、それは七色の指輪だった。
特殊効果は全属性に高補正、高耐性を付与するもの。
魔法を使えないアルストでは高耐性の恩恵しか受けることができない――そう考えていたが、一つの可能性を思いついていた。
「……試す価値はあるか」
即座にステイタスから七色の指輪を装備したアルストはアレッサに声を掛ける。
「俺がビッグキャットを抑えるので、俺ごとサンダーボルトを撃ってください!」
「な、何を言っているのですか!」
「考えがあります! チャンスは少ないので、よろしくお願いしますね!」
「そんな、アルストさん!」
アレッサの制止を振り切り駆け出すアルスト。
エレナと入れ替わるようにして前に出ると胸部に袈裟斬りを叩き込む。
「エレナさんは、アレッサさんがサンダーボルトを放ったら、すぐにブレイクスピアを!」
「任せろ! アルスト!」
「はい!」
「死ぬなよ!」
エレナの耳にも二人の会話は聞こえていた。アルストが無理をすることが分かっているのだ。
「当然です! ここからは一気にいきますよ!」
密着した状態でスレイフニルを叩き込むアルスト。
足を止めて真っ向勝負を受けて立つビッグキャット。
エレナが距離を取ったところを見計らい、アレッサが魔法を解き放つ。
「サンダーボルト!」
魔力向上1の効果で威力が補正された一撃は、麻痺付与の確率も補正している。
嫌な予感を感じ取ったビッグキャットの手が止まり、その場から移動しようとするがアルストがそれを許さない。
「逃がすかよおおおおっ!」
『ギャフッ! ギギギギギイイイイッ!』
アルストとビッグキャット。一人と一匹の頭上に雷光が煌めくと――落雷。
ビッグキャットに命中したサンダーボルトは、その余波を周囲にも広げて地面が陥没。激しい光が地面にバチバチと音色を奏でる。
粉塵が舞い視界が悪くなるなか、図体の大きいビッグキャットの頭部が見えた途端、エレナが全力で駆け出した。
狙うは背後から頭部への一撃、放つはもちろんブレイクスピア。
「どっせええええいっ!」
渾身の一振りが、スピルニアの穂先が、大上段から振り下ろされた黄色の光が、確実にビッグキャットの頭部に命中する。
弾ける黄色の光がビッグキャットの体を駆け抜けると、直後には麻痺付与の証拠として地面に奏でられていたバチバチという音が体から聞こえてきた。
すでに粉塵は晴れている。ビッグキャットの姿も完全に見えている。
だが、不思議なことが起きていた。
「アルストさんが、いない?」
「ど、どこに行ったんだ?」
落雷が着弾した時、アルストは確かにビッグキャットを足止めするために密着していた。
一瞬の煌えきを使用したとしても回避できるタイミングではなかった。
仮に回避できたとしても地面を陥没させるほどの威力であるサンダーボルトの余波がアルストに襲い掛かり少なくても麻痺になっているはずだ。
だが、麻痺になっているはずのアルストの姿が見当たらない。
答えはアルストが装備した七色の指輪にあった。
全属性に高補正、高耐性を付与するレア度7のアクセサリー。
全属性に高耐性をもたらす装備によって、アルストは麻痺になることもなくサンダーボルトに耐えることができた。
ならば今どこにいるのか。それは――
「――もう一発だああああああぁぁっ!」
声の方向へ視線を向けた二人は、ビッグキャットの遥か頭上を見ていた。
大跳躍から大上段に構えたスレイフニル。刀身には溜まりに溜まった赤い光がこれでもかと発光している。
スレイフニル、アニマルブレイダー、剛力の腕輪、そして七色の指輪。
これはアルストの予想である。全属性に高補正という部分を読み、パワーボムの爆発が火属性に数えられないかと考えていた。
サンダーボルトの余波を凌ぎ切ることも重要だったが、一番重要と考えていたのは爆発の高補正である。
ビッグキャットの背後から、脳天めがけて振り下ろされたスレイフニル。斬撃を追い掛けるようにして巻き起こる大爆発。
大跳躍を経てのパワーボムだったからということもあるかもしれない。それでも、今まで見てきた中で一番の大爆発がアルストの背後で音を立てている。
すでに五割近いHPまで減少していたビッグキャットである。サンダーボルト、ブレイクスピア、そしてパワーボム。
これだけの攻撃を固めたのだから、五割を切ってからの攻撃手段変更をもすっ飛ばして全損まで持っていきたいと思っていた。
だが――ことはそう上手く運んではくれなかった。
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