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最強剣士
アルとレオン
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その日の夜、アルは晩ご飯の席でレオンから呼び出された。
食事の席で話をしなかったということは剣術についてだろうと考えながら、レオンの部屋に到着した。
「父上、アルです」
『──入りなさい』
「失礼いたします」
ドアを開けて中に入ると、椅子に腰掛けたレオンがグラスに注いだブランデーを机に置いたところだった。
「父上がお酒を飲まれるなんて、珍しいですね」
「こうでもしないと、私は本音で話をできないからな」
そう言ってグラスの半分ほど残っていたブランデーを一気に飲み干すと、部屋の中央に配置されている来客用の椅子に移動してアルと向い合わせで座った。
「アミルダが色々とやっているようだな」
「学園長が、というよりはクラスの担任がやらかしていますよ」
「担任が?」
「はい。ペリナ・スプラウスト先生です」
「なるほど、ペリナか」
「父上、ご存じなのですか?」
レオンに反応を見たアルが訪ねると、なんとも嫌そうな表情で答えてくれた。
「ペリナ・スプラウストは私の後輩にあたる人物だよ。落ち着きがなくて、よくアミルダに怒鳴られていた」
「あー、スプラウスト先生は今も怒鳴られていますよ」
「……全く、あいつは何も変わっていないのだな」
手で顔を覆うレオンを見たアルは、自然と笑みを浮かべていた。
「父上がそのような表情をされるのも珍しいですね」
「……どんな表情をしているんだ?」
「なんだか、とても楽しそうです」
「楽しそう? 困っているの間違いではないか?」
「いえ、そう言っている今の表情も楽しそうですよ」
「まさか、そんなことはないと思うがな」
自分の顎を右手で撫でながら怪訝な表情を浮かべるレオン。
そんな行動も珍しいとアルの笑みは消えることがない。
「……ずっと笑っているが、そんなに珍しいか?」
「少なくても、俺の前ではそのような笑顔を見せたことはなかったかなって思います」
「……そうか、そうかもしれないな」
レオンは立場上、厳しい言葉を発することもあるので自身の感情を隠すことが多い。
本音を口にしようとお酒を飲んでいる自分の表情が普段と違っていることに納得するしかできなかった。
「だが、今は無礼講だ。私はアルと本音の話をしたいと思っているからな」
「先ほども言っていましたが、本音の話と言うのは?」
「……お前の将来についてだな」
自分の将来と聞いて、アルはゴクリと唾を飲み込んだ。
「お前は三男だ。私が言うべきではないが、当主を継ぐのはキリアンになるだろう」
「それは、当然だと思っています」
「ガルボも……あいつには問題も多くあるが、キリアンを支えてもらうために頑張ってもらうつもりだ」
「はい」
「……意見はしないのか?」
ガルボの話にも素直に頷いたアルを見て、レオンは一度話を止めた。
「意見なんてありませんよ。キリアン兄上はもちろん、ガルボ兄上も優秀ですから」
「エミリアの話では、アルの方が優秀だと聞いているが?」
「それはどうでしょうか。魔力操作には自信がありますが、それだけです。一目で比較できるレベルでは、圧倒的にガルボ兄上に軍配が上がりますからね」
アルは苦笑しながらもはっきりと口にした。
魔力適正を確認してから入学するまでの間には、レベルの低さに悲観的になることも少なからずあったが、今はそんなことどうでもいいと思っている。
これが長男や次男だった場合は考え方も変わったかもしれないが、アルは自分の立場をわきまえていた。
「俺は、俺の可能性を信じて、学園生活を楽しもうと思っています」
「……そうか。それで、学園を卒業したらどうするつもりなんだ?」
「父上。俺はまだ入学して二日目ですよ? まだ考えたこともありませんよ」
「だが、卒業が近づけば考えなければならなくなる。……お前が望むなら、私の側で何かしら仕事を与えてもいいと思っている。お世辞をほとんど言わないエミリアが優秀だと言うくらいだからな」
そこまで言うと、レオンは顎を手の甲に乗せてアルを見据えてきた。
答えなければいけない、そんな雰囲気を醸し出している。
「……いえ、それだけは止めておこうと思います」
「どうしてだ?」
「立場、でしょうか。ノワール家はキリアン兄上が継ぐでしょうから、その時点で俺が一番になることはできません。それに、俺がしゃしゃり出てしまうとガルボ兄上と無駄な争いが起きてしまうかもしれません」
「理由はそれだけか?」
「……いえ。最大の理由は、やはり俺が剣術を捨てられないからでしょうか」
「剣術、か」
レオンはアルが剣術を習っている姿を目にしたことがない。
だからか、どうして剣術にそこまでこだわりを持つのかを理解できないでいた。
だからこそ、次の発言に繋がった。
「アル、一度お前の剣術というのを見せてくれないか?」
「えっ? ……あの、構いませんが、いいのですか?」
アルが剣術を学んでいることを頑なに秘匿してきた。知っているのもラミアンだけだ。
そのことから、アルは学ばせてもらってはいるが、レオンが剣術を嫌っているのだと思い込んでいた。
「あぁ、見せてくれ。アルが学んでいるという、アルの剣を」
アルの剣。
その言葉がレオンの口から出てきただけで、アルはとても感激していた。
そして、その言葉を受けてやる気が出ないはずもない。
「分かりました。僕の剣を、父上にお見せします!」
アルとレオンは部屋を出ると、廊下に待機していたチグサを伴い裏庭へと移動した。
食事の席で話をしなかったということは剣術についてだろうと考えながら、レオンの部屋に到着した。
「父上、アルです」
『──入りなさい』
「失礼いたします」
ドアを開けて中に入ると、椅子に腰掛けたレオンがグラスに注いだブランデーを机に置いたところだった。
「父上がお酒を飲まれるなんて、珍しいですね」
「こうでもしないと、私は本音で話をできないからな」
そう言ってグラスの半分ほど残っていたブランデーを一気に飲み干すと、部屋の中央に配置されている来客用の椅子に移動してアルと向い合わせで座った。
「アミルダが色々とやっているようだな」
「学園長が、というよりはクラスの担任がやらかしていますよ」
「担任が?」
「はい。ペリナ・スプラウスト先生です」
「なるほど、ペリナか」
「父上、ご存じなのですか?」
レオンに反応を見たアルが訪ねると、なんとも嫌そうな表情で答えてくれた。
「ペリナ・スプラウストは私の後輩にあたる人物だよ。落ち着きがなくて、よくアミルダに怒鳴られていた」
「あー、スプラウスト先生は今も怒鳴られていますよ」
「……全く、あいつは何も変わっていないのだな」
手で顔を覆うレオンを見たアルは、自然と笑みを浮かべていた。
「父上がそのような表情をされるのも珍しいですね」
「……どんな表情をしているんだ?」
「なんだか、とても楽しそうです」
「楽しそう? 困っているの間違いではないか?」
「いえ、そう言っている今の表情も楽しそうですよ」
「まさか、そんなことはないと思うがな」
自分の顎を右手で撫でながら怪訝な表情を浮かべるレオン。
そんな行動も珍しいとアルの笑みは消えることがない。
「……ずっと笑っているが、そんなに珍しいか?」
「少なくても、俺の前ではそのような笑顔を見せたことはなかったかなって思います」
「……そうか、そうかもしれないな」
レオンは立場上、厳しい言葉を発することもあるので自身の感情を隠すことが多い。
本音を口にしようとお酒を飲んでいる自分の表情が普段と違っていることに納得するしかできなかった。
「だが、今は無礼講だ。私はアルと本音の話をしたいと思っているからな」
「先ほども言っていましたが、本音の話と言うのは?」
「……お前の将来についてだな」
自分の将来と聞いて、アルはゴクリと唾を飲み込んだ。
「お前は三男だ。私が言うべきではないが、当主を継ぐのはキリアンになるだろう」
「それは、当然だと思っています」
「ガルボも……あいつには問題も多くあるが、キリアンを支えてもらうために頑張ってもらうつもりだ」
「はい」
「……意見はしないのか?」
ガルボの話にも素直に頷いたアルを見て、レオンは一度話を止めた。
「意見なんてありませんよ。キリアン兄上はもちろん、ガルボ兄上も優秀ですから」
「エミリアの話では、アルの方が優秀だと聞いているが?」
「それはどうでしょうか。魔力操作には自信がありますが、それだけです。一目で比較できるレベルでは、圧倒的にガルボ兄上に軍配が上がりますからね」
アルは苦笑しながらもはっきりと口にした。
魔力適正を確認してから入学するまでの間には、レベルの低さに悲観的になることも少なからずあったが、今はそんなことどうでもいいと思っている。
これが長男や次男だった場合は考え方も変わったかもしれないが、アルは自分の立場をわきまえていた。
「俺は、俺の可能性を信じて、学園生活を楽しもうと思っています」
「……そうか。それで、学園を卒業したらどうするつもりなんだ?」
「父上。俺はまだ入学して二日目ですよ? まだ考えたこともありませんよ」
「だが、卒業が近づけば考えなければならなくなる。……お前が望むなら、私の側で何かしら仕事を与えてもいいと思っている。お世辞をほとんど言わないエミリアが優秀だと言うくらいだからな」
そこまで言うと、レオンは顎を手の甲に乗せてアルを見据えてきた。
答えなければいけない、そんな雰囲気を醸し出している。
「……いえ、それだけは止めておこうと思います」
「どうしてだ?」
「立場、でしょうか。ノワール家はキリアン兄上が継ぐでしょうから、その時点で俺が一番になることはできません。それに、俺がしゃしゃり出てしまうとガルボ兄上と無駄な争いが起きてしまうかもしれません」
「理由はそれだけか?」
「……いえ。最大の理由は、やはり俺が剣術を捨てられないからでしょうか」
「剣術、か」
レオンはアルが剣術を習っている姿を目にしたことがない。
だからか、どうして剣術にそこまでこだわりを持つのかを理解できないでいた。
だからこそ、次の発言に繋がった。
「アル、一度お前の剣術というのを見せてくれないか?」
「えっ? ……あの、構いませんが、いいのですか?」
アルが剣術を学んでいることを頑なに秘匿してきた。知っているのもラミアンだけだ。
そのことから、アルは学ばせてもらってはいるが、レオンが剣術を嫌っているのだと思い込んでいた。
「あぁ、見せてくれ。アルが学んでいるという、アルの剣を」
アルの剣。
その言葉がレオンの口から出てきただけで、アルはとても感激していた。
そして、その言葉を受けてやる気が出ないはずもない。
「分かりました。僕の剣を、父上にお見せします!」
アルとレオンは部屋を出ると、廊下に待機していたチグサを伴い裏庭へと移動した。
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