傷物英雄、義手義足となり真の勇者を目指す

渡琉兎

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第30話:終息

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「大丈夫か?」

 バジリオが街路樹の裏で蹲っていたハヴィに声を掛けると、彼は笑顔を作りながら頷く。

「なんとか、大丈夫です」
「無理をするな。ちょっと待ってろ」

 そう口にしたバジリオは、ハヴィの背後に回り両手で彼の背中に触れる。

「……あの、バジリオ様? いったい何を?」
「……解毒の理キュアヒール

 バジリオが解毒魔法を発動すると、ハヴィの体内に侵入していた毒が取り除かれていく。
 呼吸も楽になっていき、ハヴィは驚きのまま振り返る。

「……剣術に、風魔法に、解毒まで。本当に、バジリオ様は規格外ですね」
「本当の規格外なら、最初から死四天将にも負けてないっての。俺は普通の英雄……いや、傷物英雄さ」

 自虐気味にそう答えたバジリオがハヴィの解毒を終えると、そこへハヅキがやってきた。

「バジリオ殿! ハヴィ様! ご無事ですか!」

 声の方へ視線を向けた二人だったが、バジリオはハヅキが無傷で勝利を手にしたことが一目で分かり、ニヤリと笑みを刻む。

「ハヴィが毒にやられたが、解毒は済ませた。それとだ、ハヅキ……よくやったな」
「……はい! ありがとうございます!」

 合流したハヅキに対してバジリオが労いの言葉を掛けると、彼女は嬉しそうに笑った。

「さて。俺は屋敷の人たちの毒を解毒しなきゃならん。ハヅキとハヴィは街の様子を見ながら、キリカとレディオに報告に行ってくれ」
「ぼ、僕はバジリオ様と一緒に! 屋敷にはアルヴァがいるかもしれないんです!」

 ハヴィの言葉を受けて、バジリオとハヅキは顔を見合わせる。

「私は構いません、バジリオ殿。ハヴィ様もお連れください」
「分かった。おそらくだが、ポイゼルが領民を操っていたはずだ。そいつを倒したことで、何かしら変化が起きていると思う」
「それらも確認して、報告ですね。では、行ってまいります」

 バジリオの説明を十分に理解したハヅキは、すぐに駆け出していった。

「それじゃあ中に行くぞ、ハヴィ」
「はい!」

 続けてハヴィに声を掛けながら、バジリオは屋敷へ向かう。
 中に入るとすぐに、何人もの倒れている使用人を発見した。
 一人ずつバジリオが解毒魔法を掛けていきながら、見落としがないよう屋敷内をくまなく見ていく。
 なかなかアルヴァを見つけることができないでいるが、その中でもハヴィは表情に出すことなく、見つけた順番でバジリオに解毒をお願いしていた。

(ったく。本当は真っ先にアルヴァを捜したいだろうに。だが、こういう奴が、立派な貴族なんだろうな)

 自分たちだけが得をするのではなく、あえて損な役回りを買って出ることで、領民を守り、潤していく。
 バジリオが関わった貴族の多くは、自らの利しか考えない者ばかりだったが、その中でもレディオは違った。
 そんなレディオの意思が子供たちにも伝わっていることを知り、バジリオは内心で嬉しくなっていた。

「あそこが最後の部屋です!」

 そんなことを考えていると、ハヴィがそう言った。
 屋敷の最奥にあり、最も大きく、精巧な意匠が施された扉は、間違いなく当主の部屋だろう。
 魔族や敵意を感じることもなく、バジリオとハヴィは二人で両開きの扉を開いた。

「あ、兄上!」

 対外的には「アルヴァ」と口にしていたハヴィが、ここで初めて「兄上」と口にした。
 それはつまり、家族として心配をしていた彼の本音が零れた瞬間だった。
 ベッドに寝ていたアルヴァのもとへ駆け寄ったハヴィが見たものは、額に大粒の汗が浮かべ、寝ながらに苦しんでいるように見えた彼の姿だった。

「解毒を始めよう」
「よ、よろしくお願いします、バジリオ様!」

 バジリオがベッドの左側に回ると、目に涙を浮かべながら、ハヴィが頭を下げる。
 力強く頷いたバジリオは、アルヴァの左肩に左手を置き、解毒魔法を発動させた。

(……毒が根深く入り込んでいるな)

 アルヴァを操り、ヴァルジーナを手中に収めるつもりだったのだろう。彼に使われていた毒は、体内の奥深くにまで入り込んでいた。

(しかし、それなら!)

 戦闘にばかり使っていた機構装具を、今回は解毒魔法に使用する。
 機構義手が小さく唸りを上げると、解毒魔法の効果を高めてくれる。そして――

「……うぐ……ぅぅ……はぁ、はぁ……はぁ……はぁ…………すぅ……」
「……よし。これで大丈夫だろう」

 バジリオがそう口にすると、ハヴィは視線をアヴィドに向ける。
 苦しそうにしていた呼吸が落ち着きを取り戻し、アヴィドの顔色も良くなっていた。

「……あぁ……ありがとうございます。本当に、ありがとうございました、バジリオ様!」

 堪えていた涙が、ハヴィの瞳から零れ落ちた。

「気にすんな。レディオに作った借りを返しただけだからな」

 笑いながらそう口にしたバジリオに、ハヴィは何度も頭を下げる。

 ――こうして、ヴァルジーナを巻き込んだ騒動は終息したのだった。
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