8 / 56
第1章:異世界転生
ナイフ術
しおりを挟む
時間感覚は分からないのだが、太陽の位置からして今は日本時間で言うところの15時くらいだろうか。
もう少しすると暗くなるかもしれないと判断した俺は、ナイフ術の効果を確かめることにした。
罠で捕らえて仕留める方が安全なのだが、罠に掛かるまでの時間を考えると効率的ではない。
俺自身が戦えるとなれば、その方が効率的なのだ。
「……なんか、賢者からどんどんかけ離れていくなぁ」
生きていくためとはいえ、職業の概念ってなんだろうと思ってしまうよ。
右手にナイフを握り、森の中へ向かう。
だが、不思議なことに動物がどこにいるのか、今まで感じることができなかった遠くの気配を探ることができた。
「狩人スキルのレベルでも上がったのか?」
習得済みのスキル確認を忘れていたよ。
近くに気配はないので、俺はすぐに確認してみた。
「やっぱり、狩人スキルが2になってる。鑑定も2だな。……あー、それでもこのナイフは分からないのか」
素人目でも凄い逸品だということは分かるので、とりあえずは保留である。
スキルの確認を終えた俺は森の奥に感じ取った気配の方へと歩き出す。
気配を消し、バレないように慎重に歩みを進めて、遠くから獲物を視認した。
「……ちょっと待て、あれは、動物か?」
でか兎やでか豚とは明らかに違う見た目に、俺の体からは自然と汗が溢れ出していた。
こちらに気づいていないのは、謎の生物が食事中だからだろう。
食べられているのは、でか豚のようだ。
お腹の部分に手を突っ込んで、肉を引きちぎり口へと運ぶ。
……違う、こいつは絶対に動物なんかじゃない。
「……これが、魔族か?」
あまりの驚きに自然と言葉がこぼれてしまった。
とても、本当にとても小さな声だったはず。
それでも、言葉がこぼれた直後から魔族の動きがピタリと止まったのだ。
……やっちまった。
俺は固唾を飲んで魔族を見続ける。視線を逸らせると、その瞬間には殺されるのではないかという恐怖から見続けることしかできなかった。
しばらく動きを止めていた魔族だったが、何もいないと判断したのかゆっくりと動き出して食事を再開させた。
……大丈夫なのか? この場から離れられるか?
俺は一歩後退し、視線を固定させたままさらにもう一歩。
物音を立てないように、静かにゆっくりと下がっていく。
──パキッ!
しまった!
そう思った時にはもう手遅れだった。
魔族は物音がした方へ顔を向ける。
音を立てたのは俺ではなく、脇から姿を現したでか兎。
普通ならでか兎に向かって行くだろう。
しかし、でか兎からの延長線上にいるのが、俺なのだ。
『ギヒャアアアアアアッ!』
「ヤバい!」
立ち上がった魔族は、二足歩行でこちらめがけて走り出した。
本来ならば逃げるべきだろう。未知の敵に遭遇したのだから当然だ。
だが、ここで逃げたとしても、逃げ切れるわけがない。
だって、この体の体力は7なのだから。ちょっと走っただけで息も絶え絶えになるんだから。
ならばどうするか。
「や、やるしかない!」
ナイフ術でどれだけ戦えるのか分からないが、やらなければ死ぬだけだ。
目の前に迫ってきた魔族に対してナイフを構えると、これがスキル効果なのかという感じで体が自然と動いていた。
両手を広げて抱き込もうと飛び込んできた魔族に対して、俺は逆手に持ったナイフを斬り上げて左腕を両断する。
「うおっ!」
『グギャアアアアッ!』
魔族も驚いたみたいだが、俺も驚いたわ! まさか一振りで両断できるとは思っていなかったよ!
これがスキルの効果なのか、ナイフの切れ味が凄いのか、どちらにしてもこれならやれるかもしれない。
距離を取ろうと飛び退いた魔族だったが、俺は逃がすまいと前に出て追撃。
その姿を見たからか、着地と同時に魔族も再び飛び込んできた。
「頼む、ナイフ術スキル!」
──ザンッ!
……何かを斬った音、そして感触がはっきりと残っている。
ナイフを見ると、刀身にはどす黒い血がベッタリと付着していた。
そして、俺はゆっくりと振り返り、首が落ちた魔族を確認した。
「……お、おぉ、俺、生きてる~! ナイフ術、習得しといてよかったよ~!」
ナイフだけでは死んでいた。きっと、スキルだけでも死んでいた。両方が揃っていたからこそ、俺は生き残れたんだ!
ただ、心の恐怖は後からやって来たようで、俺の体は勝手に震え始めたんだ。
「……はは、なんだか、ヤバいや」
ついさっきまでは、異世界転生にテンションを高くしていたが、これは現実なんだ。
賢者……としての生き方はできていないけど、でかい動物だったりスキルだったり、魔族だったり。
ここは確かに異世界で、そして命の危険を伴う場所なのだ。
「……まずは、生き残ろう。生きてこの森を出て、世界を見て回るんだ」
いまだに体の震えは収まっていないが、この場に留まり続けるのも危険だろう。
俺は体に鞭を打ち、魔族の死体に目を向けて鑑定を始める。
生きている時には見ることができなかったが、死んだからなのか見れるようになっていた。
「あー、やっぱり魔族だ。でも、下位って付いてるってことは、弱い魔族だったんだろうな」
だからといって俺よりも弱いとは限らなかったんだ。
そして、こいつが下位ならさらに上が沢山いるということだ。
「名前は……ゲビレットか」
俺はゲビレットの死体が何かに使えないかと考えながら、足を掴み引きずって湖へと戻っていった。
もう少しすると暗くなるかもしれないと判断した俺は、ナイフ術の効果を確かめることにした。
罠で捕らえて仕留める方が安全なのだが、罠に掛かるまでの時間を考えると効率的ではない。
俺自身が戦えるとなれば、その方が効率的なのだ。
「……なんか、賢者からどんどんかけ離れていくなぁ」
生きていくためとはいえ、職業の概念ってなんだろうと思ってしまうよ。
右手にナイフを握り、森の中へ向かう。
だが、不思議なことに動物がどこにいるのか、今まで感じることができなかった遠くの気配を探ることができた。
「狩人スキルのレベルでも上がったのか?」
習得済みのスキル確認を忘れていたよ。
近くに気配はないので、俺はすぐに確認してみた。
「やっぱり、狩人スキルが2になってる。鑑定も2だな。……あー、それでもこのナイフは分からないのか」
素人目でも凄い逸品だということは分かるので、とりあえずは保留である。
スキルの確認を終えた俺は森の奥に感じ取った気配の方へと歩き出す。
気配を消し、バレないように慎重に歩みを進めて、遠くから獲物を視認した。
「……ちょっと待て、あれは、動物か?」
でか兎やでか豚とは明らかに違う見た目に、俺の体からは自然と汗が溢れ出していた。
こちらに気づいていないのは、謎の生物が食事中だからだろう。
食べられているのは、でか豚のようだ。
お腹の部分に手を突っ込んで、肉を引きちぎり口へと運ぶ。
……違う、こいつは絶対に動物なんかじゃない。
「……これが、魔族か?」
あまりの驚きに自然と言葉がこぼれてしまった。
とても、本当にとても小さな声だったはず。
それでも、言葉がこぼれた直後から魔族の動きがピタリと止まったのだ。
……やっちまった。
俺は固唾を飲んで魔族を見続ける。視線を逸らせると、その瞬間には殺されるのではないかという恐怖から見続けることしかできなかった。
しばらく動きを止めていた魔族だったが、何もいないと判断したのかゆっくりと動き出して食事を再開させた。
……大丈夫なのか? この場から離れられるか?
俺は一歩後退し、視線を固定させたままさらにもう一歩。
物音を立てないように、静かにゆっくりと下がっていく。
──パキッ!
しまった!
そう思った時にはもう手遅れだった。
魔族は物音がした方へ顔を向ける。
音を立てたのは俺ではなく、脇から姿を現したでか兎。
普通ならでか兎に向かって行くだろう。
しかし、でか兎からの延長線上にいるのが、俺なのだ。
『ギヒャアアアアアアッ!』
「ヤバい!」
立ち上がった魔族は、二足歩行でこちらめがけて走り出した。
本来ならば逃げるべきだろう。未知の敵に遭遇したのだから当然だ。
だが、ここで逃げたとしても、逃げ切れるわけがない。
だって、この体の体力は7なのだから。ちょっと走っただけで息も絶え絶えになるんだから。
ならばどうするか。
「や、やるしかない!」
ナイフ術でどれだけ戦えるのか分からないが、やらなければ死ぬだけだ。
目の前に迫ってきた魔族に対してナイフを構えると、これがスキル効果なのかという感じで体が自然と動いていた。
両手を広げて抱き込もうと飛び込んできた魔族に対して、俺は逆手に持ったナイフを斬り上げて左腕を両断する。
「うおっ!」
『グギャアアアアッ!』
魔族も驚いたみたいだが、俺も驚いたわ! まさか一振りで両断できるとは思っていなかったよ!
これがスキルの効果なのか、ナイフの切れ味が凄いのか、どちらにしてもこれならやれるかもしれない。
距離を取ろうと飛び退いた魔族だったが、俺は逃がすまいと前に出て追撃。
その姿を見たからか、着地と同時に魔族も再び飛び込んできた。
「頼む、ナイフ術スキル!」
──ザンッ!
……何かを斬った音、そして感触がはっきりと残っている。
ナイフを見ると、刀身にはどす黒い血がベッタリと付着していた。
そして、俺はゆっくりと振り返り、首が落ちた魔族を確認した。
「……お、おぉ、俺、生きてる~! ナイフ術、習得しといてよかったよ~!」
ナイフだけでは死んでいた。きっと、スキルだけでも死んでいた。両方が揃っていたからこそ、俺は生き残れたんだ!
ただ、心の恐怖は後からやって来たようで、俺の体は勝手に震え始めたんだ。
「……はは、なんだか、ヤバいや」
ついさっきまでは、異世界転生にテンションを高くしていたが、これは現実なんだ。
賢者……としての生き方はできていないけど、でかい動物だったりスキルだったり、魔族だったり。
ここは確かに異世界で、そして命の危険を伴う場所なのだ。
「……まずは、生き残ろう。生きてこの森を出て、世界を見て回るんだ」
いまだに体の震えは収まっていないが、この場に留まり続けるのも危険だろう。
俺は体に鞭を打ち、魔族の死体に目を向けて鑑定を始める。
生きている時には見ることができなかったが、死んだからなのか見れるようになっていた。
「あー、やっぱり魔族だ。でも、下位って付いてるってことは、弱い魔族だったんだろうな」
だからといって俺よりも弱いとは限らなかったんだ。
そして、こいつが下位ならさらに上が沢山いるということだ。
「名前は……ゲビレットか」
俺はゲビレットの死体が何かに使えないかと考えながら、足を掴み引きずって湖へと戻っていった。
2
あなたにおすすめの小説
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる