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第1章:異世界転生

食事事情

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 リリアーナに案内されたレストランでは、正直がっかりしたというのが本音である。

「……うーん」
「どうしたの?」
「いや、その……あ、あとで言うよ」
「そう? あー、美味しいわね!」

 美味しい、のかな。
 エルフの森で狩っていたでか兎やでか豚の方が肉本来の甘みが強く、それでいてあっさりとした味わいを持っていた。
 それがここの料理の肉は大味で、味付けも単調というか、素材の旨味だけで食べていたあの肉と比べても劣っている。
 調味料を活かすことができれば、もっと美味しくなるんじゃないだろうか。

「ごちそうさまでした!」
「……ご、ごちそうさまでした」

 俺はパーティのお金から支払いを済ませると、レストランを出てから自然と溜息が漏れていた。

「……アマカワ、あまり美味しくなかった?」
「あー……ごめん、そうなんだ。店内で言うのはダメかなって思って」
「そうなんだ。ごめんね、ここに連れてきちゃって」

 言いながらリリアーナが肩を落としてしまった。

「いや、俺の方こそごめん。それが、エルフの森で狩って食べていたでか兎やでか豚の肉の方があまりに美味しくてさ」

 俺は思っていたことを口にすると、リリアーナは顔を上げてぽかんとした表情を浮かべている。
 もしかして、エルフの森の動物が巨大化しているのは知っていたのに、肉が美味しくなっていることは知らなかったのだろうか。

「……あの、明日にでも食べてみるか? 外でになっちゃうけど」
「た、食べたい!」
「あー、でも、食べちゃったら他の肉を食べれなくなるかもしれないけど、いいか?」
「……それでもよ! 言っておくけど、あそこのレストランはゼルジュラーダ一のお店だって言われているのよ。そこよりも美味しいお肉だなんて、食べないと損じゃないのよ!」

 な、なんだかすごいお店に連れて行ってもらったみたい。
 そういえば、支払いの金額も合計で5リラとか言ってたっけ。……5万円って、高すぎるだろうが!

「分かった。それじゃあ、明日は魔獣討伐に向かいながら昼はバーベキューだな」
「やったね! よーし、今日は錬金術師のところに行って、明日に備えて休みましょうか!」
「……すごい食い意地だな」
「ん? 何か言った?」
「──! ……いや、なんでもないよ。それじゃあ、案内をお願いするよ」
「うん!」

 振り返った時の笑顔は、ギルドで見た時の笑顔とは違い自然なものだった。

 ※※※※

 錬金術師のお店は裏路地に入った小さな建物だった。
 一見さんお断りと言っていたが、とても分かりにくい場所にあるので一見さんでは見つけられないのではないだろうか。
 そんなことを思いながら店内に入ると、白髪の老婆が見開かれた瞳をこちらに向けてきた。
 ……いや、お客さんに対して睨むことはないと思うんだけど。

「……誰だい、あんたは。この店は一見さんお断りだよ」
「お久しぶりです、ギャレミナさん」
「おや? なんだい、リリアーナの紹介かい」
「は、初めまして、アマカワと言います」

 俺はフルネームを言うと転生者だとバレるかもしれないと名字だけを伝える。

「それで、今日はなんの用なんだい? この子の紹介ってことは、何か面白い素材を持ってきたんだろうね」
「えっと、この素材に錬金術を施してほしいんです」

 取り出した炎袋と氷袋を見て、面倒臭そうな表情をしていたギャレミナさんがさらに目を見開いた。
 ……おぉ、なんかめっちゃ怖いんだけど。

「こ、これはまさか、魔族の素材ではないのかい!」
「えっと……そうですね」

 チラリとリリアーナを見て頷いたのを確認してから返事をする。

「おぉ……おおぉっ! まさか、魔族の素材をこの手で手掛けることができるとは!」
「ギャレミナさん、この素材のことは内密にお願いしますね」
「ひひひひっ! もちろんじゃよ。これだけの素材を持ち込むお主らの不興を買いたくはないからのう!」

 な、なんだかものすごく不安なんだが本当に大丈夫なんだろうか。
 そんなことを思っていると、静かにリリアーナが隣にやってきた。

「ギャレミナさんは珍しい素材が大好きでね、気に入った素材を持ち込む客の秘密は絶対に守ってくれるのよ」
「そ、そうなんですか」

 魔族の素材がどれほど珍しいのかは分からないけど、あの様子を見ると秘密を絶対に守るというのは本当かもしれない。……だって、めっちゃ笑ってて怖いんだもん。

「錬金術は攻撃の方面でいいんじゃろう?」
「は、はい。それでお願いします」
「明日の夜にまた来るがよい。その時までには仕上げておくよ」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしく、お願いします」
「そうそう、小僧。今度はリリアーナと一緒じゃなくても錬金を受けてあげるよ。もちろん、珍しい素材に限りじゃがな」

 そう口にしながらカウンターの奥へ引っ込んでしまった。

「さて、用事も終わったことだし戻りましょうか」
「……は、はぁ」

 それにしても、鍵も掛けずに奥に引っ込んでしまったが防犯的に大丈夫なんだろうか。
 そんなことを心配しながら、俺はギャレミナさんのお店を後にした。
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