41 / 56
第1章:異世界転生
専属契約
しおりを挟む
アレッサさんのお店に到着するや否や、俺たちはすぐに応接室に通されてしまった。
何事だろうとリリアーナと顔を見合わせていると、アレッサさんがお茶を入れて戻ってきた。
「お待たせしてごめんねー!」
「いえ、構いませんが……あの、どうしたんですか?」
「そうよ、アレッサ。お店は大丈夫なの?」
「大丈夫よー! 今は臨時で店を閉めてるから」
「はい!? 閉めてるって、それはさすがにダメなんじゃあ……」
俺たちが決めることではないが、わざわざ契約のためだけに店を閉めるのはやり過ぎではないだろうか。
「そんなことないわよ。専属契約は、言ってみたら私とアマカワ君の企業契約みたいなもの。そんな情報を外に漏らしでもしたら、他の商人がアマカワ君に群がってきちゃうじゃないのよ」
「でも、アレッサさんと専属契約を結んだら、群がってきても意味がないんじゃないですか?」
「実は、そうでもないんだよねー」
うーん、契約は複数のお店とできるってことなのかな。
「商人はね、契約の抜け道を探すのが本当に上手いのよ。嫌になるくらいにね」
「いや、アレッサさんも商人ですよね?」
「そうだけど、私なんてまだまだぺーぺーもいいとこなんだから。ベテランの商人なんて、私が作った契約書のあちらこちらに指摘をするは、専属契約をした相手にも別の契約を取り付けて、私の契約を無効にした奴までいるんだからね!」
け、契約が無効になるって、いったいどんな手を使ったらそんなことができるんだよ。
一応、神様を通しての契約なんだよな、これって。
「そんなことできるんですか?」
「魔法契約で契約する神様は商売を重んじるからね。損得で見た時に、お互いが得になる契約が優先されちゃうのよ」
「でも、そうなったら契約違反になるんじゃあ……」
「新たな契約が成されるなら、古い契約の破棄は違反も何もなくなっちゃうの」
「め、めちゃくちゃですね」
商売の神様、まさか駄女神のお友達じゃないだろうな。
「そんなこんなで、私は今までに何度も専属契約をした相手を奪われていったのよ。だから、今回は絶対に他の商人に奪われたくないのよ!」
「へぇ。……でも、他の商人が目をつける相手をいち早く見つけることができるアレッサさんの人を見る目が確かだってことは証明されたんじゃないですか?」
「……えっ?」
「だって、奪われるってことは、その人が優秀だったってことですよね? そんな人を誰よりも早く見つけられるなんて、凄いじゃないですか」
「……でも、奪われてるのよ?」
「そこは経験を積めば問題ありませんって。人を見る目も養うことはできると思いますけど、アレッサさんの場合は元々備わっていたんじゃないですか? だから若くから見つけることができた。その分、辛い経験もしちゃいましたけど、今のアレッサさんには良い糧になっているはずです」
俺は素直な気持ちを真っ直ぐに伝えることにした。
別に隠すことでもないし、脚色する必要もない。
アレッサさんの人を見る目に間違いはないはずだ。
「まあ、そんなことを言ったら、自分が優秀だと宣伝しているみたいに聞こえるかもしれませんけどね」
最後は照れ隠しでそんなことを言ってしまったが、アレッサさんの心には響いてくれたみたいだ。
「……ふふ、そんなことを言ってくれたのはアマカワ君が初めてよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、そうなの」
俺とアレッサさんは笑顔を浮かべて見つめ合っている。すると──
「……んもー! アレッサ、専属契約を結ぶだけなんですよね! 私たちも忙しいので、さっさと終わらせてくれませんか!」
「そうなの? そんな風には見えなかったんだけどなー」
「この後は冒険者ギルドに行くだけだし、別に急いでいるわけでは──」
「忙しいのー! とにかく、忙しいんだからねー!」
……な、何を言っているんだろうな、リリアーナは。
俺が困惑していると、何故だか怒鳴られているはずのアレッサさんが笑っている。
「全く、本当にリリアーナは変わらないのね」
「か、変わらないって、何がよ?」
「うふふー、好きな人がいるも途端に──」
「あー! あーあー! 聞こえませーん!」
……何なんだ、このやり取りは。そしてリリアーナ、お前は子供か?
「まあ、リリアーナの言っていることも間違いではないし、さっさと魔法契約を終わらせちゃいましょう。これがこっちで作成した契約内容の書類よ。ちゃんと確認して、問題がなかったら署名をお願いね」
「分かりました」
俺は契約内容を一つずつ確認していく。
俺に対するメリットの部分も書かれているのだが……うん、何ら問題はなさそうだ。
「大丈夫です」
「それじゃあ、魔法契約を行うわね」
「よろしくお願いします」
俺は署名をしてアレッサさんに書類を返す。
その書類を応接室にある祭壇に持っていくと、火が点っているロウソクにかざして燃やしてしまった。
「ちょっと、アレッサさん!?」
「大丈夫よ、見てて」
いや、書類がめっちゃ燃えてるんですけど……って、ん?
「……煙が、光に変わった?」
「……へぇ、綺麗なものね」
「煙が光に変わったことが、契約成立の証なのよ」
「そうなのか? それじゃあ」
「うん! これからよろしくね、アマカワ君!」
この日のアレッサさんの笑顔は、とても眩しく映っていた。
何事だろうとリリアーナと顔を見合わせていると、アレッサさんがお茶を入れて戻ってきた。
「お待たせしてごめんねー!」
「いえ、構いませんが……あの、どうしたんですか?」
「そうよ、アレッサ。お店は大丈夫なの?」
「大丈夫よー! 今は臨時で店を閉めてるから」
「はい!? 閉めてるって、それはさすがにダメなんじゃあ……」
俺たちが決めることではないが、わざわざ契約のためだけに店を閉めるのはやり過ぎではないだろうか。
「そんなことないわよ。専属契約は、言ってみたら私とアマカワ君の企業契約みたいなもの。そんな情報を外に漏らしでもしたら、他の商人がアマカワ君に群がってきちゃうじゃないのよ」
「でも、アレッサさんと専属契約を結んだら、群がってきても意味がないんじゃないですか?」
「実は、そうでもないんだよねー」
うーん、契約は複数のお店とできるってことなのかな。
「商人はね、契約の抜け道を探すのが本当に上手いのよ。嫌になるくらいにね」
「いや、アレッサさんも商人ですよね?」
「そうだけど、私なんてまだまだぺーぺーもいいとこなんだから。ベテランの商人なんて、私が作った契約書のあちらこちらに指摘をするは、専属契約をした相手にも別の契約を取り付けて、私の契約を無効にした奴までいるんだからね!」
け、契約が無効になるって、いったいどんな手を使ったらそんなことができるんだよ。
一応、神様を通しての契約なんだよな、これって。
「そんなことできるんですか?」
「魔法契約で契約する神様は商売を重んじるからね。損得で見た時に、お互いが得になる契約が優先されちゃうのよ」
「でも、そうなったら契約違反になるんじゃあ……」
「新たな契約が成されるなら、古い契約の破棄は違反も何もなくなっちゃうの」
「め、めちゃくちゃですね」
商売の神様、まさか駄女神のお友達じゃないだろうな。
「そんなこんなで、私は今までに何度も専属契約をした相手を奪われていったのよ。だから、今回は絶対に他の商人に奪われたくないのよ!」
「へぇ。……でも、他の商人が目をつける相手をいち早く見つけることができるアレッサさんの人を見る目が確かだってことは証明されたんじゃないですか?」
「……えっ?」
「だって、奪われるってことは、その人が優秀だったってことですよね? そんな人を誰よりも早く見つけられるなんて、凄いじゃないですか」
「……でも、奪われてるのよ?」
「そこは経験を積めば問題ありませんって。人を見る目も養うことはできると思いますけど、アレッサさんの場合は元々備わっていたんじゃないですか? だから若くから見つけることができた。その分、辛い経験もしちゃいましたけど、今のアレッサさんには良い糧になっているはずです」
俺は素直な気持ちを真っ直ぐに伝えることにした。
別に隠すことでもないし、脚色する必要もない。
アレッサさんの人を見る目に間違いはないはずだ。
「まあ、そんなことを言ったら、自分が優秀だと宣伝しているみたいに聞こえるかもしれませんけどね」
最後は照れ隠しでそんなことを言ってしまったが、アレッサさんの心には響いてくれたみたいだ。
「……ふふ、そんなことを言ってくれたのはアマカワ君が初めてよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、そうなの」
俺とアレッサさんは笑顔を浮かべて見つめ合っている。すると──
「……んもー! アレッサ、専属契約を結ぶだけなんですよね! 私たちも忙しいので、さっさと終わらせてくれませんか!」
「そうなの? そんな風には見えなかったんだけどなー」
「この後は冒険者ギルドに行くだけだし、別に急いでいるわけでは──」
「忙しいのー! とにかく、忙しいんだからねー!」
……な、何を言っているんだろうな、リリアーナは。
俺が困惑していると、何故だか怒鳴られているはずのアレッサさんが笑っている。
「全く、本当にリリアーナは変わらないのね」
「か、変わらないって、何がよ?」
「うふふー、好きな人がいるも途端に──」
「あー! あーあー! 聞こえませーん!」
……何なんだ、このやり取りは。そしてリリアーナ、お前は子供か?
「まあ、リリアーナの言っていることも間違いではないし、さっさと魔法契約を終わらせちゃいましょう。これがこっちで作成した契約内容の書類よ。ちゃんと確認して、問題がなかったら署名をお願いね」
「分かりました」
俺は契約内容を一つずつ確認していく。
俺に対するメリットの部分も書かれているのだが……うん、何ら問題はなさそうだ。
「大丈夫です」
「それじゃあ、魔法契約を行うわね」
「よろしくお願いします」
俺は署名をしてアレッサさんに書類を返す。
その書類を応接室にある祭壇に持っていくと、火が点っているロウソクにかざして燃やしてしまった。
「ちょっと、アレッサさん!?」
「大丈夫よ、見てて」
いや、書類がめっちゃ燃えてるんですけど……って、ん?
「……煙が、光に変わった?」
「……へぇ、綺麗なものね」
「煙が光に変わったことが、契約成立の証なのよ」
「そうなのか? それじゃあ」
「うん! これからよろしくね、アマカワ君!」
この日のアレッサさんの笑顔は、とても眩しく映っていた。
1
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる