門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎

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第二章:護衛依頼

第80話:予想外の展開

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 ギースの実技試験が終わり、次は俺が出ようかと考えていたのだが――

「次は私です!」
「……おう、分かった」

 エリカに先を越されてしまった。
 別に先を越されたからダメというわけではないのだが、どうも嫌な予感がしてならない。
 これはエリカに対して何かを感じているわけではないのだが……まあ、やりたいと言っているのだから仕方がないな。

「おっ! 次はそっちの嬢ちゃんだな!」
「嬢ちゃんだからって甘く見ないでくださいね!」
「そりゃ当然だろう。……うん、良い立ち姿じゃないか」

 右手に木剣を握るエリカの立ち姿を見て、フリックさんは笑っているがその雰囲気は一段緊張感を増した気がする。
 相手の実力を測る事に慣れていると言っていたが、その言葉に嘘はないという事だ。

「エリカ。全力で行かないと、足元をすくわれるぞ?」
「分かっています。どうして引退したんですかね?」
「フリックは結婚もして、子供もいるからね。安定収入を求めてギルドに就職したのよ」
「おい、レミー! 人様の家庭事情をあっさりとばらすんじゃねえよ!」

 ポツリと呟かれた疑問にレミーがあっさりと答えてしまった。
 フリックさんは恥ずかしいと思ったのか顔を赤くしているが、家族のために危険な冒険者稼業を引退して安定した収入を求める事は良い事だと俺は思う。
 そして、その選択をしてくれたフリックさんに奥さんも感謝しているはずだ。

「良い事じゃないですか、フリックさん」
「よせよ。俺は単純に死ぬのが怖くなった、ただそれだけなんだからな」
「それも奥さんや子供のためだもんねー!」
「……レミー。まずはてめぇからボコボコにしてやろうか?」

 こめかみに青筋を立てているところを見ると、本当に恥ずかしくてからかわれたくないのだろう。……良い事なのにな。

「さっさと実技試験を始めるぞ! エリカだったな。あんた相手には手加減の必要はなさそうだし、俺からも仕掛けていくぞ?」
「もちろんです。ですが――私から行かせてもらいますよ!」
「いいねぇ!」

 お互いが位置についた時からが開始だと判断したのか、エリカは即座に前に出て木剣を袈裟斬りに振るう。
 不意打ちのように見えたが、フリックさんは笑いながら素早く反応して打ち払っている。

「先手必勝とはいきませんね!」
「まずは合格だな! 試験だからと開始の合図を待っているだけじゃあ冒険者なんてやってられん! 魔獣も待ってなんてくれないからな!」
「ふっ!」

 鋭い打ち込みがフリックさんに襲い掛かる。上段、横薙ぎ、逆袈裟、さらには前蹴りや回し蹴りと言った蹴撃も交えて連続攻撃を放っていく。
 剣術、体術ともに鋭さを持って放たれたのだが、フリックさんは笑みを崩す事なく受け、捌き、避けながらエリカの動きを観察している。
 これがフリックさんの戦い方なのだろう。相手を観察し、動きを見極め、機を見て仕掛けていく。
 そして、その機がやって来たのかついにフリックさんが前に出た。

「まずは突きだ!」
「くっ! わ、わざと言わないでください!」
「まあいいじゃないか! 次は切り上げ!」
「な、舐めないで!」
「足払い!」
「え? きゃあっ!」

 突然の体術にエリカはあっさりと足を払われてしまったが、自分も取り入れているのだから相手もそうだと考えて警戒するべきだったな。……いや、違うか。

「おいおい、これくらいでやられる――うおっ!」
「……もう少し、引き寄せるべきでしたか」
「……なるほど。わざと足を払わせて隙を作り出そうとしたのか」

 倒されたと思わせておいてしっかりと受け身を取り、木剣も手放す事なくむしろ握り直して鋭い突きを放つエリカ。
 だが、フリックさんは直後に誘われた事に気づいて体を引いて回避した。
 ……これ、相当にレベルの高い試験になってないか?

「……ははっ! いいねぇ、楽しくなってきた!」
「私もです!」

 先ほどまでは普通の笑みだったフリックさんだが、今では獰猛な獣のような笑みを刻んでいる。現役だった時もこういう感じだったのかもしれない。
 俺がそんな事を考えていると、レミーがニヤニヤしながら口を開いた。

「これは、時間が掛かるだろうねぇ」
「そうなのか?」
「あぁ。フリックに火が付いちまった。ああなったら、体力の続く限り戦うだろうね」
「それは時間が掛かるなぁ。……ん、待てよ? レミー、体力の続く限りって言ったか?」

 それは大きな問題を孕んでいないだろうか。実技試験、俺がまだ残っているんだが?

「言ったねぇ。あー、これは困った。フリックが体力の限界まで戦ったら、誰がレインズの実技試験を担当するんだろうねー」
「……お前、こうなる事が分かってたな? だからさっきからずっと笑ってたな?」

 最初から感じていた嫌な予感が的中してしまうかもしれない。

「まあ、フリックが見ていれば対戦相手は本人じゃなくても問題はないのよねー。そうなると、ここにいる冒険者はあたいしかいないわけよねー」

 ……俺の実技試験の相手は、どうやら現役Aランク冒険者になりそうだ。
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