魔王と! 私と! ※!

白雛

文字の大きさ
上 下
11 / 94
第二章:『永久の庭』

しおりを挟む




 そこは小さな人間の集落だった。
 周りに流れる川を一つえ、丘を登ると、深い森の入り口が見えてくる。
 途中の、丘の上にある一軒家の前を通り過ぎてそのまま森に入り、しばし歩くと木立こだち隙間すきまから陽光があわくこぼれる広場に出る。
 自然のドームのような空間だった。
 中央には野太くそびえる大樹。若木のみきほどもある大枝や、伸びたこずえには大小様々な形の飾りが吊るされ、小動物や虫たちが走り、小気味良い声を鳴き交わしている。
 ここが青年の隠れ家だった。
 庭に入る前に客の二人を制して、青年が短く古い言葉を唱えると——風もなく樹枝じゅしの飾りが妖しく光を放って揺れ、やがて大人しくなる。
 好奇に満ちた目つきでインベルが言った。
「今のは?」
魔除まよけだよ。蛮族の血をぎ分ける。客とはいえ、彼らは人ではないだろう? 解呪かいじゅせずそのまま通れば、あの飾りが守護者となって、ソイツらをおそってしまう」
 青年の慈悲じひのない目線に射竦いすくめられたと思って、インベルとの間に挟まれたフードの小人がまたしてもびくっと震える。が、青年が見ていたのはその先にあるものだ。
「しかし……この場合、おそらくわれるのは守護者の方で、危惧すべきは彼を刺激する方だ」
「違いないわ。寝起きは私でも言うことを聞くか判らないもの」
 小人を省いて二人の相互理解だけで話が進められるとほぼ同時、飾りの音を聞きつけて、大樹の根元にめられたドアから、モップを手にした若い人間の娘が顔を出した。
 娘はモップを下ろし、を握る手の力を緩めて言った。
「……先生、だったんですか。私、いったい……何事かと」
「すまない。騒がせてしまったね」
 青年がこう告げると、娘は安堵あんどした笑みを浮かべて、
「いえ……あの。おかえりなさい、先生」
 その頬をぽっと桜色にそめながら言った。
 この瞬間が二人とも好きだった。
 青年の声も殊更ことさらに優しくなる。
「ただいま」
「それで、そちらの二人は……」
「一人は古い馴染なじみだ。君の先輩にあたる。もう一人は小鬼だが、私……と彼女もいる。心配はいらない」
「わっ、先輩? 初めまして! 私、シルメリアです」
 小豆色の髪に、透き通ったラベンダーのような色味の瞳が可憐かれんな少女シルメリアは言うと、二人を中にまねき入れた。






しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

鷹子の庭園 〜恋と仕事と冒険を〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

俺の恋路を邪魔するなら死ね

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~

SF / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

処理中です...