転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未

文字の大きさ
55 / 72

55話

しおりを挟む
「帰らずの森」のほとりにある名もなき小さな寒村。 
普段であれば、聞こえてくるのは小鳥のさえずりと、風が木々を揺らす音くらいのものだ。 
かつて王国の騎士だったガインが村長を務め、静寂と平穏を守ってきた場所──のはずだった。

だが今、村はかつてない喧騒と熱気に包まれていた。

「おい、酒だ! 酒を持ってこい!」
「こっちの肉がまだ来てねえぞ!」
「空き部屋はねえのかよ! 金なら払うって言ってんだろ!」

独立都市フィーネッジから盗賊ジンの撒いた「未踏のダンジョン」という噂を聞きつけた冒険者たちが、堰を切ったように雪崩れ込んできたのだ。

村に一軒しかない宿屋はとっくに満員。
入りきれなかったあぶれ者たちは子供たちが遊ぶはずの村の広場に勝手にテントを張り、我が物顔で焚き火を焚いて即席のキャンプ地にしてしまっている。

欲望と汗、そして鉄と安酒の臭い。 
静かな村は一夜にして、薄汚い鉄火場のような様相を呈していた。

「くそ……どうなっているんだ、一体」

村長のガインは広場を埋め尽くす武装集団を見渡し、苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。 
病み上がりの身体には少し堪えるが休んでいる暇などない。
元騎士の鋭い眼光で、狼藉を働こうとする輩がいないか常に睨みを利かせているのだ。

そこへ娘のエリザが青ざめた顔で駆け寄ってくる。

「お父さん! またあっちでトラブルが!」 
「くそっ……! またか!」

ガインは怒りと焦燥を滲ませて拳を握る。 冒険者たちは血の気が多く、少し肩がぶつかっただけで剣を抜きかねない。
ましてや村人への絡みも発生している。

「エリザ、行くぞ! これ以上村を荒らされてたまるか!」 
「うん!」

エリザもまた、我が物顔で振る舞う彼らのマナーの悪さに辟易しながらも気丈に頷いた。
ガインとエリザは、怒号と喧騒が渦巻く村の中を風のように駆け抜けた。 どこもかしこも冒険者だらけだ。
だが、混沌を巧みに利用するハイエナたちもしっかりと紛れ込んでいた。

広場の隅、人だかりができている一角。 
そこには、粗末な木箱を並べて声を張り上げるエルゾとニルシャの兄妹姿があった。

「さあさあ、寄ってらっしゃい! これさえあれば森の魔物もイチコロだ! 特製『対・魔狼用の猛毒粉』だよ!」

エルゾがもっともらしい小袋を掲げると、噂に怯えて不安げな顔をした駆け出しの冒険者たちが身を乗り出す。

(ま、中身はただの『古い小麦粉』だけどな。くくくっ、チョロいもんだ)

心の中で舌を出しながらエルゾは金貨を受け取る。 
その横ではニルシャが愛くるしい笑顔を振りまいていた。

「こっちは『ゴブリン除けの聖水』だよー! これを持っていれば、ゴブリンなんて怖くないよー!」

(嘘だよさっき井戸で汲んだただの水だよ、ばーか!)

「くれ! 俺にもくれ!」
「俺もだ! 命には代えられねえ!」

藁にもすがる思いの冒険者たちが、次々と粗悪品を高値で掴まされていく。

「ちっ……ここは物売りの場所じゃないんだぞ」
「お父さん、取り合えずこっちが先!」
 
そんな混沌を横目にガインとエリザは歯噛みしながらも、更なる騒ぎの現場へと足を速めた。

「……!?」

ガインとエリザが人だかりを掻き分けて飛び込むと、そこには信じがたい光景があった。 
村のマスコットとして子供たちに可愛がられていた[UC]アルケミー・スライムと、それを守るように抱きしめる村の子供がガタガタと震えていたのだ。

「へへっ、手始めだ! こいつを殺せば経験値になるぜ!」
「おいどけ!ガキ!殺せねぇじゃねぇか!」

功を焦った若い冒険者が唾を飛ばしながら剣を抜き放ち、今にも振り下ろそうとしていた。

「やめて! この子は悪いスライムじゃないの!」
「ぴぎぃ……(助けてぇ!)」

その時だった。
間一髪、エリザが子供とスライムの前に飛び出し両手を広げて立ちはだかる。 
遅れてガインも割って入り、冒険者を睨みつけた。

「やめろ! 村の中で剣を抜くな!」
「乱暴はやめて! この子は……この子は子供たちの友達なの!」

エリザの悲痛な叫びに冒険者たちは手を止め、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「あぁ? 魔物と友達だぁ? 田舎ボケもいい加減にしろよ」
「どけよ姉ちゃん。そいつは『敵』だ。俺たちが駆除してやるって言ってんだよ」

聞く耳を持たない彼らにガインの空気が変わった。 
かつて騎士として戦場を駆けた男の、本物の殺気が立ち昇る。

「貴様ら」

低く、地を這うような声。 
ガインは腰の剣の柄に手をかけ、鋭い眼光で冒険者たちを射抜いた。

「剣を納めねば、この俺も剣を抜かせて貰うことになるが……どうする?」

「ッ……!?」

ただの村長ではない。 その身から放たれる異様な重圧を感じ取り、冒険者たちの顔色がサッと青ざめた。 
彼らは脂汗を流しながら、怯えたように視線を逸らす。

「ち、ちっ……わかったよ」
「行こうぜ、こんなとこで消耗しても意味がねえ」

彼らは捨て台詞を吐きながら、渋々剣を収めて去っていった。

だが、ガインとエリザの苦難はまだまだ終わらない。
二人は頷き合うと、また新たな騒動の場所へと向かっていった。

村の喧騒を遠巻きに眺めていたエルゾとニルシャは、客足が止まったのをいいことに物陰で売上を数えながら休息をとっていた。

「はぁ、やだやだ。冒険者ってのはどうしてああも血の気が多いのかねぇ」

エルゾがジャラジャラと金貨を袋に詰め込みながら、呆れたように溜息を吐く。 
自分たちが売ったインチキ商品で武装した連中が騒いでいるというのに、まるで他人事だ。

「何言ってんのさ兄貴。うちらも冒険者じゃん。一応」
「お? そうだったか? こりゃすっかり忘れてたぜ、ははは!!」
「まー、明日には冒険者一旦やめてるかもしれないけどねー。こんだけ稼げばさ」

二人がニタニタと笑い合っていると、ふいに薄汚い影が二人の前に落ちた。

「お若いの……さ、酒はないかのぅ……」

現れたのは、ボロ布を纏ったみすぼらしい老人だった。 
どう見ても一文無しだ。

「あぁ? なんだい爺さん。金もないのにたかるんじゃないよ! シッシッ!」

ニルシャが露骨に嫌な顔をして手を振るが、エルゾはふと手元の革袋に目を落とし気まぐれにそれを差し出した。

「おい爺さん。売り物の酒はないけどよ……俺の飲みかけならやるよ」
「おぉ……! ありがたい、ありがたい……! 感謝しますじゃあ!」

老人は震える手で革袋を受け取ると、拝むようにしてフラフラと雑踏の中へ消えていった。

「へぇ、兄貴らしくないじゃん。他人に恵んでやるだなんて」
「おいおい、俺だって慈愛の心くらいあるさ。それに……」

エルゾはパンパンに膨らんだ金貨の袋をポンと放り上げ、下卑た笑みを浮かべた。

「これだけあれば、暫くは『いい酒』飲んで暮らせるからなぁ! あんな安酒、もういらねぇよ! わははは!!」
「あはは! 違いないね!」

詐欺師たちが勝利の高笑いを上げた、その時だった。

「た、助けてくれぇ!!」
「!?」

悲鳴。
演技でも嘘でもない、魂の底から絞り出された断末魔のような叫びが二人の笑い声をかき消した。

「……あ?」

村の入り口から泥と鮮血にまみれた数人の男たちが転がり込んでくる。 
鎧はひしゃげ、武器は失い、顔は恐怖で歪みきっている。

「な……なんだ?」

あれは……先行した冒険者のようだ。
ガインもエリザも詐欺師兄妹も、そして広場にいた全ての冒険者たちの視線が凄惨な姿に釘付けになった。 
一瞬にして、お祭り騒ぎのような熱気が凍りついた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

処理中です...