悪魔様は人間生活がヘタすぎる

木樫

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第五話 クリスマス・ボンバイエ

02

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 特にイベントもない本日は、冬の寒さを忘れようと鍋を囲むべく集まった四人の、ただの男子鍋会。

 材料費提供がズーズィ。
 コンロや鍋の提供が澄央。
 場所提供と調理は九蔵で、場所提供と下準備がニューイである。

 越後が特に使命を隠していないということで、ズーズィには前回の騒動を報告済みだ。

 愉快な顛末を聞かされたズーズィは、それを肴に上機嫌で鍋をつついていた。ご機嫌ネズミさんよ。肉だけでなく白菜もお食べなさい。


「葉っぱ食べる意味わかんね」

「食物繊維とビタミン類。あとタワマンレジャーはあり得ねぇからな」

「じゃあ俺んちの向かいに引っ越しスか」

「たいへん魅力的な物件ですが引っ越しません。なぜなら天蓋付きのダブルベッドを買わないからです」

「キングサイズがいいのかい?」

「そういう問題じゃねーの」


 脊髄反射でニューイのオフショットを買おうとした九蔵は、何事も無かったような顔で話しつつ、コタツに入ろうとする。

 が、そのままニューイに流れるような手さばきで確保され、隣に座らせられた。
 うん。もうなにも言うまい。


「九蔵、フーフーするのだ」

「平気です。だってお前、フーフーしたらあーんするだろ」

「当たり前じゃないか」


 当たり前だから大問題なのだ。

 先手を打った九蔵は平気なフリをして自分でお椀に鍋をよそい、モニュモニュとしめじを咀嚼する。実は嬉しい。当たり前に。


「イチャイチャ攻撃じゃね?」

「イチャイチャ攻撃ッス」

「そこ、ヒソヒソしない」

「? イチャイチャだぞ?」

「そこは受けて立たない」


 独り身コンビが口元を寄せ合い陰口を言う様にも、平気なフリをして受け流す。実は恥ずかしい。当たり前に。

 これでもニューイの溺愛っぷりは当初よりずいぶん規制したほうなのだ。

 いつぞやの感謝会のように膝抱っこはしていないのだから、多少過保護なくらい我慢してくれ。無理に拒否するとしょぼくれて良心の呵責が酷い。


「一応俺だって人前は恥ずかしいんだよ。でもやめろとは言いた、……ご友人方におかれましては我慢してくださいませ」

「把握」

「お察しぃ」

「なにがだい?」

「なんでもねーです」


 未だに大勢での食事や軽口に慣れない九蔵は、迂闊な発言を誤魔化して白菜を食べた。葉っぱ。うまいじゃないか。

 そうして肩をくっつけてコタツに潜り鍋を食べる九蔵たちを見てウゲ、と舌を出す、ズーズィの言葉。


「てーかラブラブイチャイチャニュっちたち、クリスマスとかなんかすんの?」

「クリスマスかい?」

「…………」


 九蔵はビタッ、と動きを止めた。

 クリスマス。なんてタイムリーなのだ。しかも、まさかズーズィからその話を振ってくれるとは、流石仮契約悪魔様。崇め奉りたい。

 クリスマス問題を切り出せずにいた九蔵の脳内で「おーっとここで偶然のフレンドアシストが炸裂ゥ!」と、謎の実況ボイスが再生された。
 現実の九蔵は素知らぬ顔で飯を食らっている。


「クリスマスとか、別に話はしてねぇかな。一応、二十四日のイブとクリスマス当日の予定は空けれるけど」

「うむ。特に私たちで予定を入れたりはしていないが」

「えぇ~つまんなぁい!」


 なんでもないふうを装い、策士な九蔵は〝よろしければ予定を埋めてくださって構いませんよ〟とあまりにもわかりにくくお粗末なアピールをした。

 愉快犯のズーズィや察しのいい澄央にバレないように且つ羞恥心と相談した上の、めいっぱいだ。

 これにニューイが乗ってくれればファンファーレ。
 クソほどイチャイチャしてやろう。




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