悪魔様は人間生活がヘタすぎる

木樫

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第六話 敗北せよ悪魔ども!

17(side?)

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 当然ながら本体は気づいていない。
 悪魔にも感知できない微細なものなので、ニューイも気づいていないだろう。ドゥレドも舌蔵が喋ってから気づいたのだ。

 本人なのに分離していて、お互い別れてからの記憶や思考は別物となっている。

 なのに確かに本人だ。
 我ながら不思議な存在じゃなかろうか。

 さしあたり、声と舌を一緒にまとめて丸くされ魂を繋ぎに融合したと仮説した。舌だけで話せる理由だ。

 本体と意思疎通はできないものの、本体のメンタル状況がそのまま舌蔵に反映されるので、今の舌蔵は凹んでいない。

 なんだったら混乱していたモヤモヤグルグルが落ち着いて、晴れた気分だった。

 ドゥレドにさほどとヘイトを抱いていないくらいには穏やかメンタルな舌蔵。
 そして心は九蔵が持っているため、ドゥレドにブレを読まれることもないのだ。

 なかなか便利な体、いや舌である。捕まっているので文字通り手も足も出ないが。


『わからん。わからん』

「わからんってな……ハートを大事にした場合、舌も声もなくたって困らないって気づいたんだろ? チョコ作り。最優先事項を思い出しただけだぜ」

『お前をミキサーにかけられてもか? やはり理解できない』

「かけないでしょうて」


 ヌルッとツッコむ。
 餌の舌蔵を刻めば損しかしない。目的があるなら悪手だろう。証拠に、ドゥレドは舌蔵を傷つけたりしていない。

 九蔵、舌蔵ともに悪感情も抱いていないようだ。本気でただの餌らしい。

 多少それとは違う感情が混ざっている気がするものの、無傷は無傷。紳士だ。

 ふよふよと鳥かごの中に浮かぶ冷静な舌蔵のツッコミに、その通りだとわかっている仏頂面のドゥレドが仁王立ちをする。


『確かにな。理解できなくとも相手が動かない以上、自分が動かなければ焦れるのはオレだということはわかっている。ならばせっかくとった餌を無に帰して意識させ無理矢理オレへの優先度を上げるより、確保したまま動いたほうが得策だろう』

「人間の舌と声持って動く悪魔とかただのホラーですが……」

『持って動かねばマズイ。正直なところ、ニューイは籠城するとかなりめんどくさいんだ』

「というか早く帰してほしいんですが……」


 ドゥレドは眉間にシワを寄せ唸った。
 切実な望みはスルーされたが、なんとなく苦労人の香りがしないでもない。

 仕方なく「どこがめんどくせぇの?」と尋ねると、ドゥレドは苦虫かみ潰したように歯噛みした。


『ニューイはポンコツ悪魔。それは間違いないが、悪魔として・・・・・を除くと、能力は高いんだ』

「ん。そういえばそうだった」

『特に引きこもると厄介だ。アイツの屋敷なんて要塞に近い。惚れた人間をかくまっていた頃から守りの強さがハンパない』

「うわガチ執着属性、……ゴホン。守備力高いのな、ニューイは」

『そうだ。気づいてないだろうがお前、魂ごと隠蔽されてるんだぞ? 直接出向かなければよその悪魔が魂の情報を感知できないくらいに』

「え」


 それは初耳である。
 ニューイの好意で束縛せずに野放しにしてもらえていたが、まさか隠蔽工作が行われていたとは。


「し、知らんかった……!」

『そういう悪魔だ、ニューイは。だからオレはお前をどうこうできない。やるとこの秘密基地の位置が即バレるだろう。オレの強さは呪いの強さじゃないんだ。ニューイは体こそ脆いツノ骸骨種だが、個としての呪いがべらぼうに強い』

「なるほど……特殊攻撃と物理攻撃って感じか。ニューイと殴り合えば勝てるけど、籠城されるとそもそも近づけないんですね」

『あぁ。だからそうならないよう万全の体制で挑む予定が……くっ、キューヌの気まぐれは回避不可能のゲリラ災害……っ!』

「あ~……」


 やはりドゥレド、苦労人である。
 頭を抱えてもだもだと悶えるクマさんに、舌蔵は心から同情した。




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