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第二話 先輩ワンコの沽券
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しおりを挟む「そ、その暴君流の口説き文句でどうしようってんだ、極悪サディスト」
「別に俺サドじゃないですよ」
「極悪は否定しねぇのなっ」
「はっ、イイコじゃないですから」
「なっ」
そう言った三初から逃げようにも便座に座っていることしかできない絶体絶命の状況で、不意にせっかく整えたベルトをガチャガチャとやたらスムーズに片手で外された。
慌てて無体を強いる腕を両手で掴む。威信にかけて阻止すべく強く力を込めると、耳元で「写真」と静かに囁かれた。
端的な脅しなのに、その声が殺意が湧くほど甘いのが、いっそう反抗心を擽る。
嫌々手を離すと褒めるようにペロリと耳の穴を舐められ、全速力でここから逃げ出したくなる。いや初めからずっと逃げ出してぇ。
「だって、俺」
「ぐ……ッ」
「今から先輩に悪いコトしますし」
言いざま、先輩様の下着に手を突っ込み大事なモノを取り出しながら、凶悪で無邪気な笑顔を見せられた。
逆らったら握りつぶすぞ? とでも言われているような恐怖の笑顔だ。
抵抗したらエロ写真バラ撒かれる上に逆らったら握りつぶされるとか、俺にどうしろってんだよなんのつもりだド鬼畜後輩。
……いやちょっと待て。
この流れ昨日と同じじゃねぇか。
っつーことはなんのつもりって、俺のケツに用があるつもり──
「っま、待て、落ち着けっ」
──だったら許さねぇぞ斟酌しろよ先輩の気持ちをよォッ!
昨夜の暴挙を思い出してお察しした俺は、キレ顔が打って変わり青褪めるを通り越して白くなってきた顔で、困惑と哀願の眼差しを向けた。なりふり構ってられるか。二度も掘られたくねぇ……ッ!
「お、お前今日勃ってねぇだろっ? それにほら、ここ社内の便所だし誰か来るかもだし、萎えるだろっ? なっ?」
「もうその気にはなってるんであんたが俺を悦くしてくれれば勃ちますけど? 壁は防音なんですぐ近く通られなきゃ聞こえないし。あと昼休みだってのに、先輩のヒトリアソビが終わるまで待ってた時も誰も来ませんでしたしね」
「ここ、俺らの部署エリアで遠いほうの過疎ってるトイレですし」と続けられ、内心で知ってるわッ! と叫ぶ。
そうだよわざわざ手前のラインの奥にある過疎トイレ選んだんだよチクショウ過去の俺をぶん殴りたい。
「つかいつからいたんだお前ッ、なに待ち構えてんだよッ。なんでその人気のねぇトイレにお前がいるんだッ!」
「それは周馬先輩から『シュウが前立腺マッサージに興味あるっぽくて、俺解釈だとハマるの嫌だからビビってるんだよな~。親友としてどうしてやればいい? とりあえず風俗サイトのリンクは送ってやった』ってマイン来て、あー御割先輩のミラクルアホ回路がまた狂ったこと考えたんだなーって」
「冬賀コノヤロウ。そして誰の思考回路がミラクルアホ回路だミラクル鬼畜回路」
「で、たぶん自分の息子の機能心配して不安になって律儀に確認しに来てるかもなあって過疎トイレ覗いたら、案の定」
「どこの名探偵ですか!?」
この短い時間で俺を追い詰める神様のピタゴラスイッチが緻密すぎて、俺はココ最近の悪行を必死に振り返った。
このレベルの嫌がらせを受けるカルマがあったかってビビるくらいピンポイントすぎる流れだ。
なんだ。
ここまでされる業ってなんなんだ。
思い当たるのは入れるのは一杯だけと決めているちょっといいココアの素を、今朝は二杯にして、濃い目のココアの甘さで尻の違和感を忘れようとしたことぐらいだ。
ああ神様、それに怒っているなら断じて違うんだ。
二杯いれたココアってうまいんだよ……! うまいから仕方ねぇんだ……!
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