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第三話 概ね普通の先輩後輩
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しおりを挟む──数時間後。
「バッカヤロウ! クライマックスが一番爆笑だっただろうがッ」
「なぁに言ってんですか。最初の煽りプロローグが失笑モンでしょうよ」
大型ショッピングモールに入っている映画館でお目当ての映画を見た俺たちは、意外にもツボが合い、熱く感想を語りながらモール内を歩いていた。
初めは興味のなかった映画だが、見てみるとこれが面白かったのだ。
ちなみに内容はバリバリのホラー。
今期最怖! と名高い映画だったが、俺は幽霊を毛ほども信じていないので画面の中の幽霊のドアップに爆笑していた。
だって幽霊ってのはいるかもしんねぇけど、俺見たことねぇしよ。
見たことねぇやつは信じらんねぇし、信じるなら実際会ってからだろ。
三初は三初で、幽霊はいるだろうがいようがいまいがどうでもいいらしい。ホラー映画は単純に怯え狂う人々を鼻で笑うために見ているのだとか。
マジで性根歪んでんぞコイツ。
映画館で抑えきれない笑いを漏らしていた俺たちは、他の客からすると相当な場違いコンビだっただろう。
俺は普段、ホラー映画は見ない。
動物のドキュメンタリー映画や、某アニメ映画の大御所スタジオを見ている。
あと、ポップコーンが嫌いな三初がペアセットのキャラメルポップコーンを全部くれたのは普通にありがたかった。つまみながら映画見るの好きなんだよ。
中盤の幽霊ドアップで二人とも同時にアハハハと高笑いしたのは、流石に少し恥ずかしかった。
映画館では静かにしないといけねぇんだぜ。大人としてバツが悪い。
見終わってからは、物販で表題の幽霊のストラップを買った。三初は見てもいないSF映画の小型宇宙基地プラモを買っていた。理解不能だ。
でも映画は楽しかった。
たまにはこういうのも悪くねぇな。
俺の機嫌は、鼻歌交じりに上がっていたりするのだ。
「実物見たことねぇけどさー……幽霊ってのはいちいち人をコケにして殺したがる、傍迷惑なやつらだ。人間だったくせに常識がねぇ。生前の怨念とかはしつこく覚えてるくせに、実際恨みのある人間の顔は忘れて、手当り次第に呪いやがる。区別できねぇの? その程度の恨みってことかよ」
「確かに。でもま、無差別に人を呪う幽霊ってのはたぶん生前からイカれてるんですよ。知らんけど」
「ほーん。俺の後輩なら絶対ぶん殴るわ」
「俺が幽霊ならこんな先輩死にたくなりますけどね」
「ハッ、言ってろバーカ。な、じゃあ今度心霊スポット行こうぜ」
「いいですよ」
ウキウキと機嫌のいい俺が笑って誘うと、三初は特に嫌味も言わず素直に承諾した。
意外だな。そんなにホラーが好きだったとは……三年も一緒にいるが、コイツがホラー好きなんて知らなかったぞ。不覚にもいらない情報を得てしまった。
こういうのも含めて、なんだかあの日強引に抱かれてから、なぜか三初との距離が縮まった気がする。
「……ぁー……」
別にそれが嫌な気分じゃない。
ってのがなんかこう、始まりがアレな俺としては、変な感じだ。
相変わらず暴君ではあるが、たぶん普通に気の置けない後輩として、俺は三初を気に入っている。
本当なら、途中でまぁいいかと思ったとはいえこじつけた理由で無理矢理犯し写真を撮って脅すような男、逆に距離ができると思うんだけどよ。それこそ恨みつらみとか? あるのがスタンダードだと思う。
でもなんというか……ねちっこい魂胆や裏が見えないから、かもしんねぇな。
概ね普通の先輩後輩。
が、セックスしてるだけ。
俺たちはそういうライトな関係である。
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