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第四話 後輩たちの言い分
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三初はそれからまた壁に背を預け、何事もなかったかのように佇む。てんで動じないものだから、今のがなんだったのか言及することができなかった。
結局なにがしたかったのか。
まったくわからないままだ。
俺は腑に落ちない気持ちで同じく正面に向きなおる。
触られていた首筋に自分で触れると、思っていたよりも身体が熱くて、驚いた。
「……、ぅ……」
三初が言ったことは、実は結構、図星だったらしい。
じっと見つめられて『おわかり?』と言われた時、少しだけドキッとしてしまったのだ。顔が近かったし触られていたし、アイツの囁き声はエロいから、余計だと思う。
言っていることも、野球の相手だと知らなければ想う女の話かってくらい、なんつーか、甘い? 雰囲気のセリフだった。
……から、自分に言われてるのかと思いそうになったじゃねぇか。
俺が口説かれてるのかと思ったんだ。
「ンなアホな」
いやいや。いやいやいやいや。
ちょっと待て。
なんで三初にドキッとした挙句、少女漫画のヒロイン的ポジションにシンクロしてんだよ。バトルアクションだろ俺。現実見ろ俺。
寝ぼけたことを考えてしまい、すぐに冷静な声で否定する。
脳内で小さな俺が全力で手を左右に振って『ないないないない。ありえない』と否定してくる。そうだろうとも。相手はあの三初だかんな。
冷静に考えると、バカバカしいにもほどがある。
三初 要は男で、四つ下の後輩で、のっぴきならない暴君で、性格以外最強の嫌味なくらいなんでもできるイケメンだ。
対して俺、御割 修介は男で、後輩には好かれず、口と目つきと態度が悪い。デリカシーもないし気遣いも下手くそである。
つまり好かれる要素ゼロなのであんなことを言われるわけもなく、今後もないのだ。
……いやいや、言われたいわけじゃねぇぞ? この胸キュンのあり得なさを証明してんだよ。うん。それだけだよ。
今日みたいにプライベートでそれなりの付き合いをするようになって、三ヶ月と少し。
仕事関係なく過ごす時間が増えて麻痺しているが、まずもってこいつとの関係は、ただの先輩と後輩だ。
そして後輩というのは、基本的に俺と相性が悪い。
俺が普通に「オイ、この書類の書式全部間違ってるだろ。今日中に直せよ」と声をかけても、ビクつくのが後輩だ。
周囲も怖いやら冷たいやらもっと言い方があるだろやら、なにかとめんどくさい。
まぁ、まったく気にしてねえけどな。
間違ったことは言ってない。そしてそれでなりを潜める繊細なメンタルは、持ち合わせてないのだ。
書類の書式を間違ってるってことは、これのあとに作る予定のやつも全部間違うかもしんねぇだろ?
だから直接本人に言うのが手っ取り早い。ので、自分で言いに行った。
今日中に直さねぇとあとの部署全部の担当者に差し障るので、念を押したほうがいい。書類でもスライドでもなんでもだ。
誤字脱字チェックは勝手にしてやったぜ。赤線引いておいた。
同じ書類を渡された同僚からも、勝手に回収しておいてやった。俺は横暴な先輩だかんな。
そういう先輩が職場に一人はいてもいいだろ。
……そう思ってはいるものの、おかげで後輩たちには狂犬と言われ、三初とは違う意味でノータッチだったりする。
だから三初は三初以前にその後輩なので、当然人に好かれにくい俺のことを堅物で無愛想な怖い先輩だと思──……、……。
「…………。ヤベェ、微塵も思われてねェぞ」
おいおいおい。どういうことだよ。
脳内で小さな俺が頭を抱え、驚愕に震えた。
アイツは俺のことを、普通に受け入れているのである。
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