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第四話 後輩たちの言い分
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そうして、しばらく大人しくしていた。
どのくらいそうしていたかわからない。
窓の外からは車の音や、歩道を歩く人の声が聞こえる。
楽しげなそれは部屋の中の静寂と対照的で、俺は普段感じない感情が少しだけ湧き上がった。
それを聞いていると、あまりに孤独な気分になる。頭が痛くて眠れない。
人恋しくなるなんて、俺らしくもねェな。
一人暮らしが長いと、弱った時に余計こうなってしまう。誰しもそうだ。でも、俺らしくはない。
「水、飲むか」
わざと口からぽそりと呟いて、起き上がろうとする。
しかし上体をどうにか起こして床に足をつけても、うまく力が入らずヘナリとしゃがみこんでしまった。
『そもそもあんたまだ立てませんよね?』
「ゴホッ、ぅ、うるせェバカが……」
帰る前に言った三初の言葉を思い出し、膝に手をついて立ち上がる。チクショウ。アイツの顔を思い出すと、謎の負けん気で立てちまったぜ。
汗ばんだスウェットが気持ち悪い。
立ちくらみが治まってから、リビングルームへのたのたと向かう。
冷蔵庫の中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、もう一度どうにかベッドの中に戻った。
冷えたこれは昨日の夜貰ったものだ。飲みかけの貰い物。
キャップを開けて中身を飲むと、冷たい水が荒れた喉を癒して体の熱を下げた気がした。
グゥ、と腹が鳴る。食欲はないが腹は減るもんだな。
「……うー……」
ボトルをサイドテーブルに乗せ、再び深くベッドに潜り込んだ。
薬も買いに行かないとだし、食べなきゃ治らないから飯も作らないと。でも作る気力がない。ひもじい。熱い。
時計を見ると、まだ一人になってから二時間しか経ってなかった。
「ゲホッ、うう……ちゃんとドライヤーすっか……あと、しんどい時は軽く見ないで休むぜ……ゴホッゴホッ」
一人だから言えることもある。
こうして反省してめそめそと瞳を潤ませることも、一人じゃないとできやしない。
「……三初……」
──本当は、もう少しくらい一緒にいてほしかった。
感染以外に三初がいるとまずいこととは、俺は体調を崩すと精神面が弱ってしまうということだった。
だって俺は風邪っぴきの間抜けなバカだぜ? 心細いに決まってんだろ、舐めんな。意地を張るのはもう習性なんだよ。
これが同期とかなら俺はたぶん、あれこれと買い物を頼むくらいはしたかもしれない。
でも、後輩に頼ることはできないのだ。
先輩ってのは、そんな生き物だからな。
見栄を張って強がって、いつでも先輩ヅラして構えていたい。
だから苦手なお悩み相談も受けようと話をするし、多少体がおかしい気がしても〝大丈夫〟と言い張る。
引き止めることもしない。
伝染すとかわいそうだから、帰れと言う。後輩に限らず、人に迷惑をかけたくない。
昨日のシャワーを強要するようなことではなく、本気で弱ってしまうと、わかっているからだ。
長男である俺は、昔から風邪を引いても精神的にまいっていても、我慢してきた。
年の離れた妹がいる。親の手を煩わせたくなくて。
けれど一人で我慢するのは惨めだし寂しいし、この世で最も不幸な人間になった気分になる。その記憶を思い出すから、滅多に体を壊さないとはいえ、今だってそうなんだ。
俺はなんにでも噛みつく気質なので、人に寂しいやら辛いやら、弱ったことは言えない。言えないというか、言いたくない。
そんな自分をわかってるから、そういう時は出社して人のいるところに行く。歩ける程度だし、家で一人だと弱る。
今日も、本当は三初にもう少しここにいてほしかった。
意地と自業自得の負い目だ。
だから言っただろ。
俺は年季の入った意地っ張り。
風邪だとわかったあともああやって突っぱねるくらいはするんだよ。仕方ねぇだろ、俺なんだから。
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