112 / 454
第四話 後輩たちの言い分
48(side三初)
夕刻に寝かしつけてから時は経ち、夜も更ける頃。
結局先輩は一度も目を覚まさなかったので、俺は仕方なくソレを壁際に転がし、一つきりのベッドに潜り込んだ。
全然? 意味はない。
放置して帰るわけいかないし。
本音は帰るのがめんどくさいってことだ。建前という名のつく本音である。湯たんぽ代わりにしてあげよう。
転がして潜り込んだものだから壁際にぶつかり「ンン……」と唸ってコロリと戻ってきた先輩を腕枕する形になってしまった。まぁ不可抗力。
「ぅぁ……や、め……」
「なに……うなされてんの?」
さて眠ろうと目を閉じたものの、ふるりと震える先輩のうめき声にまぶたを開く。
夢の中まで風邪っぴきなのかねぇ。
多少下がったとはいえ未だに熱い頭を抱いて、背中をトン、トン、と叩いてみた。完全に子ども扱いだが、弱体化した子犬には効果があるらしい。穏やかな寝息をたて始める。
あー、でもこれ普段よりマシかな。
実は御割先輩って、寝言カオスなわけよ。自覚ないけど。
この間はなんだったかね……確か『炭酸抜き炭酸飲料とタコ抜きたこ焼きについて』とか語ってたような気がする。ククク、どこまでもオツムが哀れなクオリティだわ。
俺が「やなの?」と聞くと、フルフルと首を振って「やじゃねぇ……うまい……うま……」って言ってたなぁ。
愉快な人でしょ。
だから寝言が具体的で意味不明なこと、本人には言ってない。おもしろいから。
今日も今日とて熱に浮かされながらもボソボソとなにか言っている先輩を、俺は愉快な気分で抱きしめる。
夕飯前に様子を見に来た時は、いきなり顔を舐められた。
は、どんな夢見てんの。人の顔とか舐めてもマズイだろ。
鼻をつまんで仕返しをしたのだがそれはそれは苦しそうに呻いたので、満足して離してあげたのだ。
「で、今日はなんの夢ですか」
「アイツは……いい、……いい人……」
「へぇ」
「二人、楽しい……嬉しい……」
「二人?」
「ん……ふた、ふたり、イイ……ろまん、す……」
「ロマンス、ってどんな夢だよ」
けれど、なんだかその寝言の雲行きが怪しくなってきた。
本人曰く、いい人らしいアイツとやらと二人でいて、楽しくて嬉しい。
んで、ロマンスしてるらしい。わけわかんね。誰の夢見てんの?
ンー……こういう気分、めんどくさいね。起こそうかな。倫理的にマズイか。道徳の授業受け直せとかうるさいからなぁ、どっかの誰かさん。
所詮夢なのでどうってことはないが、ロマンスやらアイツやらでどことなくモヤったまま、先輩の寝言に聞き耳をたてる。
背中を叩く手を止めた。
「むにゃ……やつに惚れた……だ、恋人になら……俺は……が、好きだ」
「………………叩き起そうかねぇ」
つい低めの声が出て、俺は先輩がこれ以上鬱陶しいことを言わないように、抱えた頭を自分の胸に押し当てる。
やべー。
ちょっと前に〝努力します〟とか言ったのに、もういじめたくなってきた。
もう逆にすごいでしょ、この人。寝てるだけで俺をこんなに揺さぶってくんの。どうしようぶちのめしてーってはいはいダメね。あー……うん。わかってますよ。
普段より温かくて少し湿った体を抱いて、俺は深くため息を吐く。
先輩が夢に見るほど好きな人、ね。
誰だろう。先輩は俺の好きな人を気にしていたが適当に誤魔化したのを棚に上げ、どうやって自然に吐かせようか考える。
恋人になりたいって、恋とか愛とかてんでわからないような顔してまあ、いっちょまえになに言ってんだか。
誰だか知らねーけどバチクソムカつくわ。てかとりあえず絶対ロクな人間じゃないんで。だってアホの先輩チョイスでしょ。
「はーあ……御割先輩、大大大好きぃ」
寝ている先輩にだけ言える冗談交じりのセリフを言って、俺は腕の中の温度を閉じ込めるように力を込める。
本当にアンタ、罪な人だね。
これでアンタが夢に出たら俺に厄介な呪いをかけた罪で終身刑にしてやるのに、きっとアンタは夢の中ですら、俺の思いどおりにはならねぇんでしょうよ。
それでも惚れた腫れたと言えるわけもなく。
めんどくさくて意地っ張りな鬱陶しい先輩にこんなに翻弄されるとは、片腹痛い世の中である。
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。