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第四話 後輩たちの言い分
62(side中都)
──むかしむかしの話である。
八坂 中都には幼い頃より共に育った黒毛のジャーマン・シェパード犬、シュートという相棒がいた。
あまり運動が得意でない中都は外で遊ぶのが苦手だったが、シュートはそんな中都にいつも吠えかかって追い回し、外へ連れ出してくれたのだ。
中都の元気がないと、シュートはいつでも黙ってそばに寄り添っていてくれた。
臆病風に吹かれた時は、いつもワンワンと吠えて叱咤してくれた。
なでようとすると嫌がるし警戒心が強くて愛想もなく散歩に行けば歩みが遅いと唸る気の強い犬だったが、中都はシュートが大好きだ。
ヘラヘラと笑って深く物事を考えない中都にはこのくらいキツいお目付け役がいた方が安心だと、家族も笑っていた。本人もそう思う。
中都は犬が大好きだったが、シュートは特別に好きだった。いつも一緒だった。
しかし犬の命は人より短く、別れは突然にやってくるものだ。
高校三年生、受験を控えたその日──家族に見守られながら、シュートは老衰でこの世を去ってしまった。
中都はそれはもう泣きに泣いて、犬型抱き枕を毎日涙で濡らした。
おかげで大学の受験に行けず浪人決定だ。それもどうでもよかった。
シュートは無二の相棒であり、愛しく可愛い家族だったのだ。
悲しみはひとしおで当然だった。
ひとまず半年かけて、中都はシュートの死を乗り越えた。
そしてもう半年かけて、中都は勉強をして予定していた大学に入った。
浪人しても家族は変わらず応援してくれたので、それに応えるためだ。本当はまだ少し寂しい。
その日の中都はトボトボと歩きながら、落ち込み気分の気晴らしになればいいかなと入ったサークル、〝コンビニスウィーツ研究会〟の部室を目指していた。
中都は女の子が好きだった。
男は好きではないが、かわいければ好きだった。
そういうやつらがいそうだなぁ、と邪な気持ちで決めたサークルである。
中都は期待はあまりせずに、ガラリと扉を開いた。──だがしかし。
扉を開いたその先には予想外の生き物が、特攻隊長と書かれたプレートを首から提げて、中都を迎え入れたのだ。
黒くて短い髪に、吊り上がった鋭い瞳の眼光と男らしい太めの眉が野犬のように凶悪だった。
眉間に谷ができそうなくらいシワを寄せて、不機嫌なのか素面なのかわからないが唇はへの字に曲げられている。
一見街で出会ったら道を譲ってしまいたくなる厳つい顔立ちだが、中都にはわかる。
これはおそらく『誰だお前は』と突然の来訪者を警戒しているだけだ。
更に極めつけには、大きな手の指先でちんまりと摘むプリンのカップ。もう片手に、プラスチックの小さなスプーン。
彼は、似ていた。
あまりにも愛犬シュートに、似すぎていた。
一瞬でそのビジュアルを愛犬に当てはめた中都の観察眼と犬愛はさておき、彼は亡き愛犬にクリソツだったのだ。
そう。シュートも初対面の人には無言で睨む癖があった。
けれどそれは観察しているだけだ。悪気はないし噛んだりもしない。しばらくすると小首を傾げて、ふん、と鼻を鳴らす。あああ、同じだ。そこも同じだ。
そして大好きなオヤツを与えた時は大事にちびちびと食べて、中都が近づくと隠すようにサッと前足を丸くする。
それでも近づくと奪われまいとして、最後に一声、唸るのだ。
『見学か? 入会希望か? 言っとくが、プリンはもうねェぞ。そっちでクッキーでも食ってろ』
これが彼──御割 修介というシンクロ率百パーセントな先輩と、犬愛が過ぎる男──八坂 中都の、運命的な出会いであった。
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