誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第四話 後輩たちの言い分

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  ◇ ◇ ◇


「じゃ、俺も帰ります」

「!」


 空が赤く染まる夕暮れ時。
 散々ごねて遊び倒して帰っていった中都を見送ったあと、三初はそう言って上着を手に取った。

 明日は月曜日なのでなにもおかしくはないが、あっさりとした言葉に、俺は思わず肩を震わせる。

 別に残念に思ったりしてねぇ。
 晩飯も一緒に食べるだろうな、と思っていただけだ。

 約束はしていないが普段ならそうで、だいたい泊まった次の日は晩飯を共にしてから別れる。
 今晩は中華の気分だとか考えていたのに、なんとなくつまらない。

 口がへの字になるが、それはまあいつものことだから、面白くないってのはバレてないと思う。

 三初があっさりと帰るのがつまらないのも、恋を自覚した弊害だろう。
 恋心はこれだから厄介なのだ。

 俺は平静を装って腕を組み、ソファーにドサッ、と腰を下ろした。
 大人だからな。スマートに対応してやる。


「オウ。じゃあな。…………。あー……昨日は世話になった。お前、なんか欲しいもんあるか?」


 けれどスマートに対応するつもりが名残惜しい気がして、お礼をしようとしていたのにかこつけて会話を振った。

 これはその、つい、だ。
 意識したわけじゃない。……うん。

 上着を着て荷物を持った三初の痛い視線を感じながら、素知らぬ顔でテレビを見る。近づいてくる気配も感じるが全然問題ない。余裕だ。ギシッ、とソファーが軋んだ。


「別に。って言うところですけど、なんかくれるんなら、保留で。考えておきますよ」

「そ、れを言うのに、俺にのしかかる必要性ってなんだよ。オイ」

「別に?」

「なでんな。お前の別にはどこになにを分別してんだっ」


 背後からのしかかりつつ腕を回され、俺は一瞬ドキリとしてしまう。

 更に頭をポンとなでられ、ついその手を首をひねって避けてしまった。別に嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇから避けちまうんだよチクショウ。


「……はぁ……」


 すると三初は深く溜め息を吐いて、俺の頭頂部に顎を置いた。


「ね、先輩。聞きたいことがあるんですけど」

「あ? なんだよ」

「先輩の好きな人って誰ですか」

「ハッ!?」


 な、なんでその話知ってんだ……ッ!?
 予想外の言葉に、バッと首をひねって無理矢理振り向く。

 夕日のせいだと誤魔化すには少し赤すぎる頬を晒し、俺は唇を間抜けに開閉するしかない。

 三初はそれをじとーっとした目で見つめ、思考の読めない表情で迎え撃った。

 とりあえず、一刻も早く離れやがれ。肘置きにすんな。いかに俺でも心音と体温は誤魔化せねぇんだよ、ちくしょうめ。


「ど、こでそう思ったか、知らねェけどな……そんなもんいねぇわ。仕事と甘味と娯楽少々が俺の恋人だかンな」

「いやあからさまに目を逸らしてますよね。ついさっきド焦りしてましたよね」

「知るかッ、全然記憶にねぇ」

「ほー。先輩、やっぱ記憶力お粗末すぎですねぇ。可哀想に、老化かな? 猫の額ほども脳ミソがないんですか? ん?」

「ンなチクチクトゲトゲした嫌味言ったってよ、知らねぇもんは知らねぇしな。一ミリも俺は好きな男とかいねぇし、惚れた腫れたとか、不得意中の不得意だしなッ」

「は? 好きな人男? アンタノンケじゃなかったワケ? ふざけんなよオイ」

「! い、今のは語弊があンだよッ! 言葉のあやとかそんなんで、そもそもお前に関係ねェし……ッ!」

「関係とかそれこそ関係ないでしょ? 俺が気になることは全て聞く権利があって、先輩には言う義務があるんです。アンタは俺のおもちゃで所有物なんですから、主に不明瞭な報告は許されないワケ。ね?」

「ね? じゃねぇ!」




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