誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第四話 後輩たちの言い分

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 キスをされた三初は、キョトンと不思議そうに瞬きをする。
 くくく。ちっと気分がイイ。

 いつの日か、不意を打って触れると驚いていた顔を思い出す。

 俺から触るのはまあなくて、触るようになってもキスなんてしたことがない。
 けれどジリジリと焦がされたせいで、自分から口付けるようになっちまった。


「ふっ、秘密だ秘密。好奇心猫を殺すって言うだろ?」


 そうニヤリと笑んで見せると、キョトン顔がじわりと溶けて、盛大な溜め息を吐かれる。

 お叱りが返ってこないってことは、たぶん絆される気になったってことだ。

 俺が三初の理解不能をほんの少しだけ解消しているように、三初も俺の突発的な行動を、ふわっと理解しているんだろう。

 職場じゃこんなことしない。素面だとプライベートでもしない。もちろん後輩の三初にもしねぇ。

 好きな人の三初にだけ、してやる。
 お前が好きみたいだとかは言わないが、今はこれで十分だろう。


「……はいはい。ドヤ顔がウザイんで、もーそれでいいです。それ、ことわざ辞典引用ですか」

「いいだろことわざ。今日中華な」

「うわ、愚かだなあ。明日出勤でニンニクはないでしょ。鍋ね。シメはうどん」

「愚かとかパンチの強い言葉で一蹴すんなよ! シメはラーメンにしろッ」

「中華から離れてどうぞ」


 深い溜息を吐いた三初が俺から離れて、腕にかけていた上着をソファーの背もたれにかけた。

 俺はそれになんとなくいい気分になったので、帰るんじゃなかったのか、という野暮なセリフはこっそりと飲み込む。

 気まぐれで猫みたいな三初は、犬派の俺としては好みじゃない。
 かわいさは皆無で、女のような柔らかさは中身まで皆無だ。

 しかし同じ後輩で犬のような性格な上にかわいげのある面立ちをした中都に、晩飯を共にすることが決まっただけで、こうも浮ついた気分になったことはない。

 感情の主導権を握られている感覚。
 ムカツクけど悪くはねぇ。というか、仕方ねぇかんな。

 三初を中都のようにかわいがることはできないが、中都に三初と同じようなこのなんとも言えない感覚を覚えることは、ないだろう。

 中都は、三初が俺を独り占めしているからムカツクんだと言っていた。

 トト、とスマホの画面をタップして近くで鍋が食べられる店を探しながら、ほんのり染まった頬を指先でつねる。


「あー……俺もそう思うぜ、中都」

「なにが? ってか近場でうまくて今からネット予約取れるとこピックアップしたんで、さっさと選んでください」

「~~~っだからお前、俺の上に乗んなっ!」


 このクソ野郎。

 珍しくちょっと情緒的な気分になっていたのに浸らせてもくれねぇのか。せっかく〝ムカツクけど、好きなんだよな〟って気持ちをじっくり自覚していたのに、台無しである。

 いろいろと台無しにされた俺は、自分の肩にのしかかる無駄に仕事が早くて自由すぎる暴君に、ガウッ! と吠えかかったのだった。


 第四話 了




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