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第五話 冬暴君とあれやそれ
02
しおりを挟む三初が男に目の敵にされる理由なんて、正直俺が言わなくても有り余っているだろう。
何度も言っている気がするが、アイツはデフォルトモードが傍若無人なくせに嫌味なくらい仕事が早い。
繁忙期でヒイヒイ言っている同僚の横だろうが、悠々とイヤホン装着の上海外ドラマなんかを見ているようなクソ野郎。男からの評判は当然クソだ。
しかし、女からはそうでもない。
なんせ顔がいい。
顔がいいので女には遠巻きにキャーキャー言われるし、顔がいいので許される。
ただしイケメンに限るってやつだな。
俺はイケメンが免罪符になるならイケメン税も推奨したい派だが。同性としてはこの上なくムカツクだろう。
ちなみにこれらは『周りがムカついているのは百も承知だが自分はなにも悪いことをしていないし、気遣いとかめんどくさいからシカトで』という純然たる無垢な悪意で成り立っている。
言っといてアレだけど、やっぱりコイツヤベェわ。
人として大事なネジがうねり狂って締まってる気がする。
三初に好意を持っている(と言うとなんかキモイけど事実だから仕方ねぇ)俺が満場一致で〝ド性悪〟と太鼓判を押すのだから、他の非モテ独身男のヘイトは推して知るべし。
閑話休題。
で、話を元に戻すぜ。
その男の敵である三初が、冬賀がいるとはいえああも大勢の非モテに囲まれている上妙に親しげに絡まれてもいるなんて、俺にとっては真冬の蜃気楼でしかなかった。
ああ見えて外面はいいというか、愛想がいいとまではいかないが、三初は話しかけられたら適当にでも返事をする。
今もゲーム機の画面に目を落としながらだがちゃんと会話をしているようで、相変わらずなにを考えているのかわからない表情でスモッチを弄りつつなにやら言葉を返しては、同じ課の同期である鈴木田を怯えさせている。
冬賀はいつも通りわははと快活に笑っているが、あいつらはなんの話題であんなに盛り上がっているのやら、だ。
「……まぁ、仕事するか」
地道に孤軍奮闘している俺は胡乱げな視線でその集団を突き刺したあと、呆れ返ってまたパソコンと向き合った。
ったく、お気楽な野郎共だな。
こちとらクリスマス後にゴチャつくのが気に食わなさすぎて、ちびっとでも余裕を作ろうと必死だってのに。
まあ息抜きは大事だから、構わねぇけどよ。
ただなんというか、珍しいと思っただけだしな。
三初は人見知りしないというか緊張とは無縁の男なので、コミュニケーションを円滑にする意思はさらさらないが、意外と世間話程度なら誰とでも交わしている。
固定の相手は出山車だけって話。
なんだったら課長や部長相手でも、コーヒー片手にニンマリと自販機前で話していたりもするくらいだ。
こう、想いを自覚してから、今まで油断ならないやつとして観察していたのが、わかりたいと明確な理由を持って観察してると言うか…………そうだよ。無意識に見てンだよ。悪いかコノヤロウッ。
ゴホン。
とにかく観察した結果、アイツは究極受身で自分の本能にだけ能動的なんだと思う。
だから別に、他のやつらとつるんでるのがモヤッとするようになっちまったとか、そんなんじゃねェ。
別に三初に深い意味はないはずだしよ。
アイツらが三初を好きになるってわけでもねぇし。逆もねぇ。と、思う。たぶん。知らんけど。
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