140 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ
09
「……っは、ぅ……」
流石に異常だと思い、火照った体を身じろがせた。
確か、前は風邪ではないと思っていて、案の定風邪を引いていたのだ。
それで迷惑をかけた。もし今もそうなら今度はちゃんと早めに休まないと、また迷惑をかけてしまう。
そわそわと落ち着かず、声を出さないように唇を引き結んでじょじょに口数を減らし大人しくなり始めた俺に、三初は我関せずと前を向いたままだ。
今回は気づいていないらしい。
言いたくないプライドとまたそのツケを支払う可能性をしばらく考えた時、車が信号待ちに差し掛かる。
「……。……オイ、三初……」
「うん?」
ぐたりと窓にもたれかかったまま、ついに俺は三初にモゾつく声をかけた。
「悪い。なんか、熱出た。……かもしんねぇ。微塵もしんどさは感じねぇけど汗かいてきたし、ちょっと頭も回らねぇ感じすっから、一応今日は帰るわ」
「あぁ、それ今回は大丈夫なやつですよ」
「は? なんでだよ……?」
予想外の返しに首を傾げる。
この冬場で急に暑さを感じるなんておかしいのに、大丈夫と断言されたからだ。
出発してから半時も経たずに体温が上がり未だに冷める気がしない。
確かに俺は筋肉質で平熱高めだが、体感温度が短時間で変わるのは変だと思う。
そう訴えると、前はあぁもチクチクと責めてきた三初は特に心配した様子もなく、ドアポケットから取り出したゴミを「ん」と俺に差し出した。
は……な、なんだよ。
そりゃまぁ別に体温上がってるだけでちっともしんどさはねぇけど、せっかく俺はお前に迷惑をかけたアレを反省してプライドへし折りつつ自主申告したんだぜ?
素っ気なく対応すんのはいいとしても、ゴミ押しつけるこたねぇだろうが。
別に心配してほしいわけじゃない。
考えただけで面映ゆくなる。
でも素っ気なくされると拍子抜けして悵然としてしまう。前に心配されたのが嬉しかったから、余計にだ。
渡されたゴミを手に取って面白くない気分を押し潰す俺は、やり場のない返答の矛先を探して、そのゴミ──注射器型ローションの包装へ目を落とした。
ビニールのそれには、さっき使われたローションのタイトルと商品概要の文字が並んでいる。
特に興味はないが文字が目に入ると無意識に視線が滑り、何の気なしに書かれた文字列を読んでしまう。
〝シリンジ型DXローション(ア〇ル用)
~お肌に優しい無添加ローションと抜群の媚薬成分のコラボで至福の快感をあなたに~〟
「…………殺す」
そして俺は意味を理解すると同時に、グシャッ! と渾身の力で握り潰した。
こ──この大魔王が……ッ!
一度マジの風邪エンドを味わわせておいての今更真打登場かよッ! 普通に一服盛られたサドエンドじゃねェかクソ野郎ッ!
体の熱の原因を理解し、低く唸るように殺意を口にしてワナワナと震える。
俺の侘しさを返しやがれ。そして死ね。
今すぐ死ぬか、この呪われた下半身をなんとかしろ。その後死ね。
「もうお前、ほんと死んでくれ。マジで死んでくれ。悪いことは言わねぇから世のため人のため俺のため、早急に悪の根を絶やしてくれこの極悪霊が」
「ほらね、無駄吠えできる程度には問題なく元気じゃないですか。はい健康体」
「クソもう聞けよ俺の話を一回ぐらいンでデコ触んな召されろテメェェェ……ッ!」
ペトリと不用意に俺の額に手を当てて熱を測り、改めて高熱はないと判断した三初。
その手を払い除ける前に青くなった信号によってスーッと再び車が走り出し、俺はまたビクリと身を固めるしかなくなる。
「ふっ、……ンの、三初ェ、もう、帰るッ」
「んーまぁでも、お腹減ってるでしょ? そろそろ着きますよ? 今さら帰って冷凍飯食うより先輩お気に入りの海鮮お好み焼き食ったほうがハッピーだと思うなぁ」
「き、汚ぇ……!」
媚薬ローションが浸透する前に逃げ帰ろうとがなれば、ニンマリとヤニ下がる楽しげな猫が餌をチラつかせて誘惑した。
中都に教えてもらってからお気に入りであるお好み焼き屋の海鮮玉。
あれがめちゃくちゃウメェと騒いで三初を強引に付き合わせたのはつい最近のことである。
セックスなしでも、たまに飯に行く。俺をからかわなければ、三初は意外と話しやすい。会話が楽しい相手なのだ。
当然楽しく食べる海鮮玉ブームは未だに去っていないため、絶賛疲労と空腹のコンボを食らっている俺はゴクリと喉を鳴らし、忌々しく泣き言を漏らすしかない。
「俺の奢りで?」
「…………」
そんな俺へそのセリフはトドメだ。
キュルル、と訴えを起こすすきっ腹に従い、本能を優先して、ホイホイとついて行くことが決まった瞬間であった。
のちにこれを死ぬほど後悔する羽目になるのだが……後の祭り、である。
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。