誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五話 冬暴君とあれやそれ

11※



「……ふっ、……!」


 フラリと気力で起き上がり、あとたった二切れだけの海鮮玉の一つに箸を突き刺す。行儀が悪いが見逃してほしい。

 そのままそれを口にして意識を体内から逸らすように咀嚼し、冷えた烏龍茶で胃の中に流し込む。イカうめぇ。こんな状態じゃなきゃ数倍うめぇ。


「お、起きた。偉い」

「ぅアッ!?」


 が。

 それほど必死をこいて速やかに食事を終わらせて帰りたい俺の愛しの海鮮玉に三初の箸がサクッと突き刺さり、最後の一口なのに、まんまと誘拐されてしまった。

 なんて容赦のないクソ野郎なんだろうか。
 これはあんまりだ。暴君すぎる。

 ゴクン、と海鮮玉を飲み込んだ三初がお冷を飲み干す様へ、俺は怒り心頭の血走った目でメンチを切る。


「……こ、……こっ……!」

「お、イカ美味いなぁ。海鮮も悪くない。今度来た時はそっち頼もうかね」

「殺すッ!」


 よし、ぶん殴ろう。
 即断即決待ったなし。食べ物の恨みを侮るなかれ。殺されても文句は言えまい。そうと決まれば有言実行だ。

 意味不明な苦行を受けつつもプルプルしながら味わっていたお気に入りのラスト一口を奪われた恨みたるや、怒髪天をつくに決っている。

 ビーズがもたらす痺れるような快感すら一時的に無視する勢いで、俺は感情のままにガタンッ! と机を震わせて力の入らない足を叱咤し立ち上がった。

 そのままテーブルを躱し、三初の元へズカズカと数歩足を進める。

 すると三初は、今から殴られるというのにおもむろに両腕を開いて、胡座をかいたままにこやかに俺を見上げた。

 それを不思議がる余裕のない俺は、特になにも考えずただゲンコツを落とそうと腕を振り上げた。

 が。


「──ッ!? ひッ、あ゛ッ」


 突然ヴヴヴヴヴッ、と体内に詰め込まれたビーズが一斉にバイブレーションをし始めたせいで、予想だにしない凶悪な刺激を受けた俺はガクンッ! と膝から崩れ落ちてしまう。


「んぅッ、く、あ、やめ、ッなに」

「はい。いらっしゃい」

「ンンッ、ん、ん……ッ」


 で。受け止める準備万端で両腕を広げていたらしい三初が、倒れ込んだ俺の体を難なく抱き止めた。

 背に回された手からカチ、となにかの音がした気がする。
 つかいらっしゃいじゃねぇ。殴らせろ。顔の形が変わるまで殴らせろ。


「はっ……はっ……ん、だ……? なにが……ん、っは……」


 内心では吠えて見せるものの、現実の俺はそれほど冷静じゃない。
 すぐに振動はなくなり今はなんの刺激もないが、起きたことは消えないのだ。

 俺はなにが起きたのかわからないまま目を白黒させて呼吸を乱し、途切れ途切れの言葉をなんとか吐き出しながら胸を上下させた。

 なすすべなく力の入らない腕で三初のシャツにしがみつき、衝撃の余韻がわだかまる体を震わせてグルグルと混乱する。

 脂汗がすごい。目の奥がチカチカする。
 嫌がらせそのものな、体内からの刺客。


「腰抜けちゃった?」


 そうしてうつ伏せに近い体勢で倒れ込んだまま呆然とする俺をからかい混じりに笑い、三初は手の中の物へチュ、と軽くキスをする。


「実はそのビーズ、ローター的な役割もあったりするんですよね」

「っふ、っ…ぁぁあああ……っ」


 カチ、とまた硬い音が手の中から聞こえたかと思うと、罵る口を与えずに、熟れた内壁を全てのビーズが微細な振動でいたぶった。

 ──コイツ……ッ! わざとか……ッ!

 仕掛けるだけ仕掛けて見ているだけなんて三初にしては温いと思ったが、初めから媚薬による掻痒そうよう感が限界を迎える頃に、こうして追い打ちをかけるつもりだったのだ。


「ちょ待っやめっ、や、やべぇから、ひッ……! ッあ、ッ……ゔぁッ…ああ……ッ」


 見事それが身に襲いかかった今は、その血も涙もない魂胆の意図をヒシヒシと痛感する。
 文句を言おうにも、俺の体は抵抗ままならない状態に熟成済みだ。

 スイッチ一つでノックアウトできるほど熱を抱えた今は、ただ性格の悪い後輩にしがみつく腕の力をキツく強めるくらいしか抵抗の術を持たない。




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