誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
157 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ

26



 フカフカとした質のいいスヌードを手に取る冬賀へ「それが彼女に合いそうなら後は店員に聞け」と告げてから、俺はふらりと店の外に出て壁際のベンチに腰を下ろす。

 なんてこった。
 本日の三初の冷たさは、冷えるべくして冷やしたものだったらしい。

 膝に肘を置いて組んだ手に額を預け、うなだれながらどうしたらいいかを考える。

 ご存知俺はデリカシーがない。
 つい乱暴な物言いをしてしまうし、気を遣うとか優しくするとか、やってみてもうまくできない。

 三初といると楽しいというか、気が楽でいいと思うのは、それらを頑張らなくていいところだ。


『先輩って……抱かれてる顔は、意外とカワイイですね』

『だから資料作ってあげたじゃないですか。課長褒めてましたよ』

『うん……俺やっぱ先輩のそういう顔、ソソるっぽい』

『これがまぁ、俺の素?』

『要するに、先輩が四苦八苦するお粗末なお悩み相談なんか、求めてないです。悩むのも結構楽しいし、俺の楽しみを誰かに分けたりしないんで』

『へぇ。言質取りましたからね? 先輩』

『お前はこれが欲しいのかもしんねーけど、欲しがっても未来永劫無理なの。これはもう俺のなの。俺がそう決めたから』


『俺が責任取るんだから、他の飼い主にこういうことされても、流されちゃダメですよ?』


 数々のセリフが今になって鮮明に思い出され、俺の脳内をフワフワと三初が浮かんでは消えていくシンキングタイム。

 ──つーかお前本当にその子のこと好きなのかぁ?

 ついさっき言われた冬賀のセリフが、そのフワフワを一掃した。


「……気が楽だからだったのかも、しんねぇよな……」


 顔を上げて、ボソリと呟く。
 モール内を行き交う幸せそうな家族や恋人たちを眺めて、壁に頭を預けた。ゴツン、と痛い音がする。

 男が好きだなんて、やっぱり勘違いだったのかもしれない。

 だってほら、俺は男に恋したこともなければ、三初と違って男でも女でも無関係な性癖というわけでもなかった。

 女が相手だと今までのように勘違いやすれ違いが多いだろうし、意地っ張りな俺は見栄を張って苦手なことを頑張り続けなければならず、自分を偽らないといけないのだ。

 仮面をかぶることが本当に向いていない。
 社交辞令すらうまく言えない。
 俺が良かれと思って考えてしたことは、たいてい空回る。

 それは結構辛いだろ?

 だから俺は気が楽な三初への好意を恋だと思い込んだのかも。体の関係なんかがあったら、そっち方面に考えるのも容易だ。

 アイツといると無理をしなくてもいい。
 構わないと言われていて、相手も取り繕って偽物のやりとりをしない。寄り添う相手として、三初は完璧。

 それが突然噛み合わなくなったから、俺はきっと苛立ちとか負けん気で勝手な態度が気に食わないだけだと思う。

 居心地のいい関係がなくなるから、こんなに焦ってるし、混乱してる。

 いつからか、プライベートを明け渡すことに警戒心がなくなった。
 それも全て気が楽だからだ。

 意外と趣味が合って二人での行動が楽しいと思ったのも、思い込み。
 俺が触れた時に珍しく表情を変えて、初めて見る顔がイイと思ったのも。
 首筋に触れられて瞳をのぞき込まれた時、ドキ、と鼓動が早まったのも。
 体の不調に気づかれたことも。
 嫌味で覆わないと心配すらできない難儀な悪癖をかわいいと思ったのも。

 一人きりにならないと弱音も吐けない面倒な俺を見捨てずに戻ってきてくれた時の、泣きそうなくらい嬉しかった気持ちも、全部早とちり。

 だから。


「っ……」


 フロアの大穴を挟んだ向こう側の通路で、道行く人の群れの中に、俺の知らない綺麗な男と二人でいるアイツを見つけたって。

 ちっとも胸は痛まないわけで。


「……っていうのが全部、嘘になるわけで」


 ならば俺は間違いなく──三初 要に恋をしているわけなのだ。




感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。