161 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ
30
言いたいことも聞きたいこともあるが、言えないことのほうが多い。
噤む口しか持っていない状態でかかってきた着信をどうするかしばし悩み、迷子の子どものように画面を見つめる。
しかしこれを無視して余計に距離が広がるのが嫌で、結局は震える指先で緑のボタンを押した。
「な、なんだよ」
『それはこっちのセリフですよね。で、なんの用? 急にそっち行くとか、メッセは変に距離取ってるし。またミラクルアホ回路ですか』
「っ、距離取って、……べ、別に」
『は? ……なんか、怒ってます?』
「どこがだよ。それはお前だろ? ってか、俺が家に行ったらなんでダメなんだよ。お前、いつも勝手にくるくせに。……あ……まだ出先なのか?」
『あー……別に? 家ですけどね。今日は来ないでほしいだけ』
「なん、でだよ。なんか都合悪いのか? 言いたくなきゃ別にいいけど」
『はい。言いたくないです』
「そ……そうかよ。イブなのに出かけないのか、お前。一人で家に?」
『そうですよ。ずっと家にいました』
「……ん」
『……?』
三初が淡々と話すことなんかいつも通りで、それにどうこう思ったことなんかない。不遜なやつめと苛立ったことは、あるかもしれないけどな。
だが今はそれすら疑ってしまいそうだ。
なるべく乱暴な物言いにならないようにしているが、当然のように〝ずっと家にいた〟と言われると、返す言葉に詰まってしまう。
そういえば電話をかけた時のメッセージでも家だと言っていたことも、よせばいいのに思い出す。めんどうで雑に答えただけかもしれないのに、いちいち。
こんなにも臆病になっている自分に驚くし、腹が立った。
当たり前のように嘘を吐いた三初にも不安が増す。
嘘を吐く時ですら、動揺しない。
『やっぱ先輩、なんか変ですよ。なにがあったの? 今日は早く終わらせるために頑張って、そのあと周馬先輩と二人でどっか行ったんじゃなかったんですか? ……うまく、いかなかったとか?』
「? 冬賀は関係ねぇだろ。そうじゃなくて、お前が……」
『俺が?』
「い、いや……ただお前に最近迷惑かけ過ぎたって、思ってよ。悪かった。今日も手伝わせたし、あといつも。これからはちゃんと、お前に甘えたり頼ったりしないように……うまくする。そういうところを反省したっつう話だ。先輩としてさ」
『はっ、なにそれ』
通話の向こうでガタンッ、と音がした。
三初の声が低くなる。驚いている気がするけれどその感情の内訳はわからない。
そしてどうしてそんなにも機嫌を悪くするのかもわからない。
今更ながら甘えていたことに気づき謝ろうとした。いつものようなツンケンと突き放す言い方じゃなく、素直に謝罪できたはずだ。
じゃあこれから改めてよろしく、となるはずだった、のに、三初の反応が予想と全然違って俺はオロオロと狼狽する。
『待って。ちょっと待って。先輩としてって、なんか離れてません? うまくするってどういうことですか?』
「な、なんで怒ってんだよ……?」
『怒ってませんよ。展開が理解できないだけ。なんでそうなったの? 誰がそう言ったんだよ』
「別に誰でもねぇよ……俺が、俺が考えたんだよ。俺が自分でよ」
『それじゃ噛み合わない。なんでもないのにそんなこと考える人じゃないでしょ? わけわかんないこと言わないでくださいよそんなもん必要ないんですからめんどくさいな』
「っ、うるせぇよっ。俺だってなんにも考えてねぇわけじゃねぇっ」
ガタンッ、と今度は俺が思わずソファーを鳴らして立ちがった。
「わけわかんねぇのはお前だろうがっ! お望み通りの態度だろっ? 俺は、俺は今日お前の様子が変だと思ったから、自分を省みてちゃんと優しくしようって思って謝っただけだってのに……!」
いつものようにキレちゃダメだとわかっていても元々の短気がすぐに治るはずはなく、沸騰した頭がこらえきれずごちゃついた思考を限界とばかりに垂れ流す。
コイツがいつも俺をかき乱す。俺がどんどん変わっていく。それが止まらないから苦しくて仕方がない。
「だってお前、いつも俺のこと、めんどくせぇって言うじゃねぇか……っ」
『はー……拗ねてんですか? そりゃめんどくさいですよ、当たり前でしょ』
「っ……!」
けれど駄々をこねる子どもを相手取るような声音が聞こえて、頭にカッと血が上って、顔が真っ赤に染まった。
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。