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第五話 冬暴君とあれやそれ
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──三年ほど前の話になる。
それは研修を終えた新入社員に辞令がでて、うちの部署にもそこそこの数のヒヨコがやって来た春のことだ。
『はじめまして。今日から先輩のサポートとしてご指導いただくことになりました、三初 要です。よろしくお願いします』
俺が担当することになったヒヨコ──三初 要と名乗ったそれは、一分の文句もつけられないくらい隙のない容貌で俺にニコリと微笑んでいた。
女だったらここで落ちていたかもしれない。それほど格好いい男だ。
話し方もどこか飄々としているが穏やかで、高くも大きくもない少し低めのイイ声をしている。
速度も常に一定で、聞いていて不快になることはまずない。見ていても品のある華があり、誰しもの目を惹く所作。
第一印象。
つまり見てくれで言うと、三初はパーフェクトな新人だった。
しかし、俺は顔を顰めた。
三初のなんにもを知らない初対面ながら、一瞬で〝コイツ気持ち悪ィな〟とマイナス評価をしてしまったからだ。
笑い方が気に食わない。
仮面でも営業スマイルくらい愛想がよければよかったが、三初のそれは〝笑っているように見せてます〟というわかりやすい造形で、どうも気持ちが悪い。
一般的な感性を持っていれば『あからさまに距離を取られている』『なにを考えてるのかわからない』のコンボで怖気付いてしまう能面じみた笑顔だろう。
今思えば確実に人間関係をめんどくさがった三初がわざと放ったジャブだ。
リアルの全てを仮面で生きる男。
空気に敏感なタイプの人なら、そんな笑顔でいられただけで、必要以上に絡んだりしなくなる。
けれどやっぱりデリカシーのない当時の俺は、眉間のシワを蛇腹にして、低く唸りつつ睨んでしまった。
『テメェはこれからよろしくお願いする初対面の先輩に最初っから予防線張って、どうよろしくするつもりだったんだッ? アァ?』
初日なのに、デカくて顔が怖い先輩がそんな言い方で睨んでくる。軽いホラーだ。
三初の背後の景色に映る部署内の同僚たちがアチャ~と頭を抱えたのも見えていたが、毎年のことなので気にしない。
容姿は厳ついし中身もぶっきらぼうで口が悪い俺は、だいたい怖がられるので舐められにくい。
気に食わないことは口に出すタイプで、もし暴言や暴力で反抗されてもメンタルも体もほぼ無傷だろう。
まぁ根が真面目だと自負しているため、俺のほうは無理強いや嫌がらせはしない。
なのでクセが強そうだったり社会を舐めていそうな困った新人をわざと俺に付ける。
要するに人型のふるいだ。この頃はまだそれを知らなかったけどな。
とにかく、俺は三初に文句を言った。
『俺は御割 修介。そして今後一年間で、お前が一番一緒に仕事をするだろう人間だ。仕事中ずっとそんな能面顔見てたら、俺の頭がイカレちまうぜ。よろしくするから普通にしてろ』
あとで聞くと、三初は有名な大学を輝かしい成績で卒業してなぜかうちの会社に来た変なやつ、と噂だったようだ。
経歴も顔も良くて、オマケに研修では抜きん出てできる男だと。
社会に出ると優先されるのはコミュニケーション能力より仕事の出来高になる。それはよくわかっているし全面的に同意もする。
けれどそれでも。
俺は自分が面倒を見るやつには、そんな顔、対応でいられることが、気に食わなかった。
どんなに最低最悪だろうが、素顔がわずかも見えない人間とは仲良くできない。
『…………』
三初は仏頂面でいきなり顔に文句をつけた俺を、しばらくじっと見ていた。
目を少し丸くして、まじまじと変な生き物を見るような表情だ。
良くはないがまあいいかと、線引きされるよりマシな顔を見て好きにさせる。
『それでいい。俺に二度とさっきのペラッペラの面の皮を拝ませンなよ。他のやつはどうでもいいが、俺にはすんな。いいな?』
『んー……じゃあ、そうしますね』
『よし』
『先輩は愛想笑いが嫌いなんですか?』
『は? 別に。社会人はするだろ』
『え。じゃあなぜ俺はダメなんでしょう』
『それは──……』
あの時なんて答えたのかは、忘れたが。
その日から、どこまでも捻くれた後輩は、俺にはそれほど取り繕わなくなったのだ。
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