誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五話 冬暴君とあれやそれ

36



  ◇ ◇ ◇


 ピピピピ、ピピピピ、と繰り返す目覚まし時計の音で、目を覚ました。

 いつもよりだいぶ早くに設定していたので眠気の名残が強く、酷く頭がぼんやりとする。おかげで昔の夢を見ていたような気がするが、おぼろげにしか思い出せなかった。


「ン……寒ィ……」


 寝起きの覚醒が遅い俺には冬の朝の刺すような冷たさすらさほど効果を見せず、腕を擦って縮み上がる程度である。

 目元をこすりながらリビングルームに向かい、暖房をオンにしてから洗面所に移動した。

 バシャバシャと温水で顔を洗い、うっすらとしか伸びていないヒゲを面倒に思いながら剃る。もう一度濯いでから柔らかなタオルで冷えた水気を拭き取る。

 湿った顔に寒さを感じる頃には流石に目が覚め始め、ようやく鏡に映った自分の姿を直視した。


「……うお」


 鏡面の吊りがちな目元が、少し腫れてうっすらと充血している。

 自己嫌悪と恋心の暴走からくる不安で、昨晩は眠りに落ちる前に毛布を被ったまま秘めやかにメソと泣いていたからだろう。

 水分はほんの滲む程度で、声を上げて号泣したわけではないが……我慢したせいで目に力が入りっぱなしだった。

 おかげで鼻頭も赤い。
 じっと見つめられれば違和感に気がつく人がいるかもしれないレベルの顔。

 クソ、なにやってんだよ、俺は。
 大の大人がみっともねぇ。

 想い人と喧嘩をして喚き散らし、相手のそばに見ず知らずの比べようがない美人がいたからとコソコソと落ち込み、翌朝それを心底後悔する。

 情けないクリスマスだ。

 枕元にサンタクロースからのプレゼントが届いているわけもないし夢も希望もない。トリプルないの三十路目前独り身男。更に失恋秒読み。最低最悪過ぎる。


「…………」


『明日の朝、迎えに行きますから』
『今度は待ってて』


 失恋と連想して、眠る前に送られてきたメッセージを思い出した。
 読んだくせに返さないままで閉じた臆病な自分が、ムクリと頭をもたげる。

 そう。

 俺は二人きりになって聞きたくないような話をされるのが嫌で、いつもより一時間半も早い時間に目覚ましをかけたのだ。

 そりゃあ、これは無駄なあがきだとわかっているんだよ。
 でもだめだ。

 考えるのが遅い俺は、もう間違えるわけにいかなくて、ちゃんとどうするべきか考える時間がいる。うまくやらないと。

 上手に、恋をしなければ。


「早く、行かねぇと」


 凍てつく洗面所の体感気温が余計に冷たさを増した気がして、俺はトボトボとリビングルームへ歩き出した。




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