誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
170 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ

39



 俺は運動がてら駅まで歩くのが好きで、車を持っていても気が向けば電車で通勤することがままある。車通勤した日に三初に送られた翌朝もそうだ。

 当然その場合の交通費は出ないのでプラス電車賃が掛かるが、構わない。

 今日の俺はにべもなく車に乗り込み、出社時間の一時間も早くに到着した。

 まだほとんど人気のない会社に入り、カードを通してオフィスの施錠を解く。社員証通行なんだよ。記録される。

 ガチャ、とドアを開け、朝日に照らされた無人のオフィスを電気も点けずに進んだ。

 冷えた空気。まだ暖房が回りきっていないのだろう。

 身震いしながらコートを脱いでロッカーにしまい、いつも通り自分のデスクに向かってパソコンを立ちあげる。

 ──コン、と足元のカバンに靴先が当たり、その隣に立っていた紙袋がバタッ、とあっけなく倒れた。


「あ、……っと」


 マナーモードにしておいたスマホがポケットの中でブブブ、と音を立てている。無視して倒れた紙袋を元通り立てる。

 中身はキーケース。
 ……それと、キャラエッグが、十個。

 十個ワンセットをひと纏めに包装してもらったその塊は、三初が気まぐれに集めていたミニチュア動物シリーズの第二弾だ。

 うちの会社にも食玩部門があるので、こういうモノの原価やらなんやらはよく知っている。

 それを思うと手出しする気にはならないものだが、アイツは俺をパシって集めていた。

 あの時は確か、部長の頼みを聞かせる代わりにだったか。不愉快でたまらなかったけれど、まさか未来でこれを自分から買うとは思わなかった。


『素じゃなくていいなら、しゃーなしキャラエッグ十個で一日だけ他社と企画すり合わせてる時みたいにしますけど』


 うろ覚えの三初の言葉。
 これがあればよそ行きだが、とりあえず話は聞いてもらえる、かもしれない、という打算だ。

 キーケースはアイツの趣味や好みがわからなかったから、車の鍵やらを付けるのに使えばいいと思って。……本当は、それらしいのを調べた。わからなかったから。


「はぁ……今度こそちゃんと愛想良く、先輩らしい態度で言えんのか……俺……」


 ギィ、とデスクチェアを引いて、ため息。

 無人のオフィスに響くため息は殊更重く、俺は三初のデスクを眺めて、不安と憂鬱に目を伏せる。

 引き寄せられたのは、無意識だった。

 本当に無意識のうちに座るはずだった自分のデスクチェアから手を離し、隣の三初のデスクチェアを引いてそっと腰を下ろす。

 他人のデスクは玩具で飾るくせに、自分のデスクはこざっぱりとしている。

 そこに上体を倒して、頬を当てた。
 ヒヤリと冷たい感触が気持ちいい。

 意味なんてないけれど、誰もいない空間ではいくぶん素直になれた。


「……わからないのは、怖ぇよ、……知りたいと思うのも、諸刃だろうが……」


 スリ……、とデスクに頬を擦り寄せ、恋しさに微睡んでいく。

 恋とは恐ろしい。
 あっという間に大気圏まで浮かれ上がり、その先が見えなくなった途端、急速落下だ。

 想えば想うほど、その副作用が思考回路を蝕む。

 二人でいる時の距離が近くて、二人で過ごす時間が長くなっていくほど、もしそれが失われたら? という種が撒かれた時、成長速度は瞬きを超える。

 不安を抱えて行動すると、俺が俺だと空回るのだ。
 急速落下した俺は、地面にペシャンと叩きつけられてしまった。




感想 137

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。