誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
171 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ

40



 なぁ、恥ずかしい話をしようぜ。
 俺が昨日、素直に謝ることができた場合の話だ。

 俺な、きっと三初は見直して、俺に呆れてもういいかって飽きていた心を戻してくれるんじゃって期待してたんだ。

 だから心のどこかで許しを確信していた俺は、三初に〝そんなモノ求めてない〟と言われて、混乱と慢心していた羞恥の中で自分の立場を再確認した。

 嘘なんか吐くなよ。
 こっちを見ろよ。
 拒絶するなよ。
 まだ終わりに、しないでくれよ。

 それは全て、気づかないうちに寄り添われてばかりでなにも返していないのなら、言ってはいけない。そんな資格はないということ。

 二日前にイブを過ごそうと胸を高鳴らせていた頃の俺は、喧嘩をするつもりなんて、なかったのに。

 些細なことで思い通りにいかない現実を実感し、目を閉じたまま呟く。


「お前は俺を、どうしたいんだよ……」


 恋のために自分を変えようなんて、思うわけなかったはずなのだ。

 こんなにかき乱されて。
 体も心も変えられて。

 お前の本心がわからないまま恋心が朽ちていくのは、あまりにも寂しいじゃないか。

 ぼやりと意識が揺れた。


「──あんたこそ、俺をいったいどうしたいんですか」

「ッ」


 沈みかけた意識が強烈に釣り上げられ、ガバッ! と反射的に起き上がる。

 声が聞こえた方向に視線をやると、そこには感情の読み取れない軋んだ表情で俺を見る、三初の姿があった。

 なんで、いるんだよ。
 お前と二人きりになりたくないから、メッセージを無視して早くに家を出たのに。

 始業にはずいぶん早い時間だというのにドアを開いて現れた三初は、呆然とする俺に構わずツカツカと近づいてくる。

 そしてあっという間に目の前にやってきた。


「待ってろって言った。クソみたいに向かってくるあんたが逃げるとは思わなかったけど、車がなかったから、来てみたらさ…………なにしてんの?」

「! っな、なにっ……この、ッ」


 強引にデスクチェアーの背もたれを回転させられ、ガン! と足の間の座面部分を乱暴に踏みつけられる。

 バツが悪くてうまく文句を言えない隙を見逃さず、更にグイッ、とネクタイを思いっきり引かれた。「うぐッ」と呻く。

 無理矢理三初を見上げさせられて、俺はいつかと違って手も足も自由なのに、逃げることができなかった。


「……はっ……」


 三初の目が、本当に無機質だったからだ。

 普段機嫌が悪くて大人しくなるときの様子とは、全然違う。感情を押さえ込んだ、冷たい表情。

 そんな目で見るな。
 どうでもいいような、そんな目で見るな。

 情けない泣き言を言って縋りそうになった自分を振り払うために、じっと三初から目を逸らさずに、引きつった笑みを見せた。


「…………」

「は、早い、じゃねぇか」

「はぁ?」

「っ……そ、……連絡を無視したのは、悪かった。……仕事があったんだよ、昨日残した。だから、だから、だ」


 しどろもどろと下手な言い訳をする。
 俺の苦手なことだ。愛想笑いもうまく誤魔化すことも。

 だけどそうしてこの場を乗り切らなければ、こうまで冷め切った三初に当たり散らしたり文句を言ったりした途端、きっとここで本当に終わってしまう。だから余裕ぶる。

 けれど三初は、ギュウ……ッ、と眉間にシワを寄せて、デスクチェアーに乗せていた脚を下ろす。

 そして思い切りネクタイを引き寄せ、鼻が擦れ合いそうなくらい顔を近づけた。


「この嘘つき」

「ッゲホッ、う、ッ」


 喉が締まって呼吸がしづらい。
 苦しさにむせて手を出そうとすると、空いているもう片手でそれをパシッと叩かれた。




感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。