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第五話 冬暴君とあれやそれ
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「……痛いか?」
そっと目を伏せ、殴ってしまった三初の胸元に手を伸ばし、ポスン、となるべく優しく触れた。
「弱ってるくせに結構重い打撃だったかね……でもいいですよ、避けなかったのはわざとですし。あとで仕返しさせてくれるなら」
「仕方ねぇな。好きにさせてやるよ」
「うん。します」
俺が胸元に触れながらそうすると、三初は気にしてないことを暗に伝えながら、首をなでていた両手を滑らせて腕を回した。
グッと顔が近くなる。
頬がジワリと赤く染って、目を逸らしそうになった。
けれど、それを我慢する。
今度は俺の番だ。俺とお前は、逸らせば負けになるから。
「……人の評価を気にしないってのは、一部語弊がある。言いたいことは気にせずなんでも言うってのも、一部例外の時がある」
「へぇ……そう、なんですか。……知らなかった」
「俺は結構弱いぜ」
「それはわかってますよ。意地っ張りだけが上等な先輩ですからね」
「……昨日言ったけどよ。意地張って気ぃ抜けっと、思ったことズケズケ言っちまうし口悪ィから散々言っちまう。……一応自分でも、悪かったって思ってんだ」
「や、別に? そこは改善しなくていいんですよ。俺は悪いと思ってないんで」
「はっ? え?」
とつとつと語っていたところ自己嫌悪していた原因にアッサリ答えを貰い、俺は驚いてポカンと目を丸くした。
続けて「求めてないって言うあれは、俺の悪い癖って言うか、ね」と呟く三初。
つまり、謝罪なんて求めていないとスッパリ拒絶した理由は、自分は悪く思っていないことについて謝られる必要性がない、という意味だったらしい。
普段なら絶対にそうしない俺にしおらしくされて身を引かれ、つい言葉足らずに思うがまま否定してしまったそうだ。
自分を曲げてまで変に気を遣うなんてつまらないことを、なぜ?
ただの先輩後輩よりはプライベートに近い関係になっていると思っていたのに、今更先輩らしく気を引きしめる宣言をされても、納得いかないし理由がわからない。
そんな状況が気に食わず、うっかり語気に刺がついたのだと言われる。
説明されて、やっとわかったことだ。
──なんだ……ただ素直になって俺の態度が嫌なのかどうか、様子がおかしくなったのはどういう訳か直接聞けばよかったんだ。
答えを聞くのが怖くて、俺が嫌われたくないあまり過敏になっていたわけか。
簡単なことを突っぱねていたことに気がつき、拍子抜けする。言葉足らずと会話下手がことをややこしくしてしまった。
ホッと息を吐く。
肩の荷が下りて、俺は無意識にゆるりと口元に笑みを浮かべる。
するとやや低い声で「それ」と投げやりな声がかかる。
「俺から距離を取ろうとするあんたの例外ってなんですか?」
「そ、っ」
「弱ってる人に気を遣う時でさえ、先輩は嘘っぱちじゃない。思ってもないことは言わない。あんたがクソ下手な愛想笑いで相手する顔とか、キャンペーンの接客に駆り出された時ぐらいしか知りませんよ、俺。それってあんたの他人行儀だろ? 線引きしたい時の顔。不自然で気色悪い」
「気色、っいや、俺にとってその一部のやつは、いっそ客と一緒、つうか……」
「ならあんたの例外は接客だ。俺が昨日素っ気なかったから、先輩は壁張った。嫌味な言い方で罵倒されても怒らず適当な愛想笑いをする理由が、例外?」
「あぁ」
肯定を返すと、三初は腕に力を込めて俺の肩に重みをかけた。
なにが気に食わないのかせっかく緩めた機嫌が少し悪くなったのを感じ、胸元に触れさせていた手でネクタイごと三初のシャツを握る。
するとチッと舌を打たれて、フイ、と素っ気なく顔をそらされた。
──……なんだ? なんで怒った?
いや、怒っていた最初と違って温度も表情もわかる。でも機嫌が悪い。
困惑するうち、三初はそのまま俺からスルリと腕を引いて、体を離した。
「先輩は俺を本気で怒ります。俺のことは、別に好きじゃないから。なにも対価を求めてないし弱みを握られても心底ダメージはないので、ご機嫌取りなんてしてこない。初めからね。仮面を被った上っ面の関係なんて、一度だって」
向かいのデスクにギィ、ともたれかかり、手をついて向き合いながらそう言って睨んでくる三初。
蜂蜜色の瞳がキョトン顔の俺をじっと見つめて、考えを見透かそうとしてくる。
それから今度は腕を組み、煽り顔で冷淡に見下す。
が、俺からの反応がないことを理解して、スイ、と視線を逸らした。
「……俺にだけはその例外、してきたことなかったのに」
──……コイツ、もしかして拗ねてんのか?
そんな三初の様子を正面から見ていた俺は、一つの結論をつけてしまった。
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