175 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ
44
しおりを挟む「…………」
三初が拗ねている。
それに気づくと、変な気分だ。ポカポカと謎に胸の中が温度を増す気配を感じ、ついさっきまで触れていた手を口元にやる。
……ヤベェ。俺を弄ぶ強敵、胸キュンってやつが来やがった。
「お……お前は俺のことを、なんでもわかっているのかと思っていた、んだけど」
「先輩の行動のきっかけがわかればね。そら少し先ぐらい予測できますけど。突然だと、流石にわかりませんよ。特に御割犬は飼い主を振り回す狂犬ですから」
「犬扱いすんな。って、……お前、俺の笑顔が嫌いなんじゃなくて、愛想笑いされんのが嫌なのか?」
「だったらなんですか」
なんですかって、いや別に。
ちょっと、かわいいと思って。
手のひらの中で声のない返事をして、視線を逸らしたままふんぞり返る三初を、マジマジと見つめる俺。
俺には視線を逸らすなと言ったくせに、自分は勝手に逸らす俺様野郎だ。
二人っきりの誰も見ていない静かなオフィスで、俺たち史上一番自分の考えをあけすけに伝え合っているこの状況でも、徹底的に突っぱねて、徹底的に俺を追い詰める。
『思考回路が噛み合わなくてめんどくさい相手でも、ソレがイイの。やめたくてもやめらんねぇの。興味持たせようとしても、思ったとおりの反応してくんねー……そーゆーとこが、好きなの』
三初が好きな人を語る時、そう言っていたことを不意に思い出した。
……なるほどな。
悔しいけどすっかり納得しちまった。
やや首を傾げて顎を上げ、長い手足を組み、窓のほうへ視線をやる男。
文句なしに格好いい。ムカツクけど、外側だけならそうは見ないイケメンだ。
蓋を開ければドロドロに黒く煮詰まった得体の知れないものがとごっていて、迂闊に手を出すと毒になる劇物だとしても。
その劇物にも、かわいいところがある。
「三初、拗ねんなよ」
「また老眼の始まりですか」
「だってこっち見ねェじゃねェか」
「目が胃もたれ。てか、拗ねてるってわかってたらいちいち指摘しないでしょ? マジデリカシーねー。それでよくどこの馬の骨かわかんない男に懸想してますよね」
「うっせぇ。お前は例外だからいいんだよ」
「…………めんどくさい」
拗ねた馬の骨は吐き捨てるように言って、今度は顔ごとそっぽを向いた。
「三初、俺はお前の考えてることがちっともわからねぇ。だから……ちょっと投げやりになってた。焦ってたし、意地にもなってた。それはお前が例外だからだ」
「……そ」
「お前に嫌われたと思った。嫌われたくないやつには、俺は臆病になるんだよ」
「は?」
それが例外。
そう言うと、三初は弾かれたように首を動かし、今度は俺がマジマジと見られるハメになった。
少し、手が震える。
「お前には片想いの相手がいただろ?」
「まあ……そう、ですけど」
「俺はそいつ、見たんだ」
「……鏡?」
「あ? 名前は知らねぇけど、凄く綺麗なやつだった。線が細くて、優しく笑えるような……俺とは違うタイプ」
その時の俺はお前にいつも乱暴な態度を取って、仕事や私生活でもフォローされて無自覚に甘えていたことを、省みていた。
だからお前の好きな相手を知って、それが全然俺と違ったから、怖くなったんだ。
お前に謝って、そういうタイプになれるようにしてみようと思った。
ゆっくりと説明すると、モール内での出来事と電話の向こうの声を思い出して、ギュ、と胸が痛む。
名前はカガミじゃなくてマモリだった気もするが、カガミだったらしい。どっちにしろ知らねぇ名前だ。
気落ちしてしまう俺を見ていた三初は、話が進むにつれて「あ~……」と唸りながらデスクに向き直って嘆き、頭を押さえてまた振り向いたり、また唸っていた。
その行動の意味もよくわからねぇ。
俺に好きな人がバレたのが、嫌なのかもしれない。
「……先輩はさ、俺にどう思われてると思ってるんですか?」
説明が終わるとややあって、三初はやややさぐれた表情で俺を睨みつけた。
ちょっと目が据わっている。なんでだよ。
30
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる