誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五話 冬暴君とあれやそれ

46



 バシンッ、と両の頬を手で挟み、そのまま顔を覆う。


「……あ~……」

 
 そしてガラァーン、とデスクチェアを回転させ、デスクに向き合い肘をついて唸る。


「ま、……趣味わりィな、……あぁぁ~……!」


 ゴンッ! とデスクに頭を打ち付け、火照った額を冷やした。
 それからしばしグデ、と項垂れ震えたのち、どうにかまたグリン、とデスクチェアーを元の向きに戻す。


「………全然わかんねェから、もっとはっきり改めてもう一度言え」


 で──にやけそうなのを我慢するためにひねくれた仏頂面を作り、正面から三初を前にふんぞり返って俺は最終確認作業をすることにした。

 もちろん顔はまだやや赤いままである。
 三初だって盛大にため息を吐き、呆れた顔をする。……な、なんだよ。


「その顔色で?」


 ほっとけ。
 いいだろうがせっかくなら一回ぐらい言葉にしてくれたってよ。


「てか返事は」

「わかんだろ。こんだけお前一人の行動で一喜一憂のあと一瞬で立ち直った俺を見たらわかんだろ。そういうことなんだから、ワンランク上のおもてなしで関係性にそれらしい名前を付けやがれやコラ」

「いやぁわかんないなー。俺言われなきゃわかんないですし? 先輩のことちっとも知らないですし?」

「根に持ってンじゃねェよ! お前俺のこと好きなんだろッ? 一言ぐらい素直に甘いこと言えよッ」

「やですよそんな少女漫画じゃあるまいしクソ寒いこと、いい歳した大人ができるわけないじゃないですか。というか俺がしたくないんで無理。先輩こそ俺のこと好きなんだからさっさと甘党発言をどうぞ」

「俺はお前よりいい歳した大人なんだよアホか。こちとら三十路目前だぜ。舐めんな」

「いやいやもうそろそろ空気読んでくださいよ、先輩でしょ? 社会人しっかり」

「テメェも社会人だろうが。ちったぁ先輩に花持たせろよ。持たせてみろよ三初 要」

「…………」

「…………」


 再びシン、と静まり返るオフィス。
 オイ世界。なんでこうなンだよ。


 俺たちは一応告白したてで、その……相思相愛、のはずだ。

 俺は三初の思考や所業にドン引きするが、だからといって恋は冷めなかった。

 三初も俺がよそよそしくなると鬼の形相で追いかけてきてキレる程度には、あけすけな俺でも構わなかったのだ。

 昨日俺が見たカガミとか言う男も、三初曰く片想い相手じゃなかったわけで。
 俺に断固言えない片想い相手って言うのは、俺本人だったわけで。

 それすなわち万事解決。

 少女漫画だと「好きだ!」「アタシも!」とか言い合ってキスの一つでもするんだろうと思う。知らんけど。

 だが主演に問題があるラブストーリーは、朝日に照らされた静かなオフィスでハッピーエンドの大団円を許さないらしい。

 俺はデスクの下から取り出した紙袋をおもむろに構え、相手を見定め、軽く振りかぶる。
 バシンッ! と小気味よい破裂音。


「っと」

「この天邪鬼が」


 赤コーナー、ヒロイン。
 御割 修介こと、俺。

 二十九歳、男。企業戦士。
 ドがつく強情。口と目つきと態度が悪く、意地っ張りで不器用な先輩。

 そんな俺にクリスマスプレゼントを投擲で賜った三初は、無様に当たることもなく難なくキャッチした。


「…………」


 そして中身を見て、俺をチラ見し、デスクのそばに投げ捨てていた自分のカバンをゆっくりと手に取る。
 三初はカバンの中から、同じA5サイズくらいの紙袋を取り出した。

 再度バシンッ! と破裂音。


「おあっ」

「意地っ張り」


 青コーナー、ヒーロー。
 語弊有り。三初 要。

 二十五歳、男。同じく。
 ドがつくサドで暴君。年季の入った天邪鬼な、上っ面を取り繕って煙に巻くことだけはピカイチの後輩。

 ダメな大人のラブストーリーは、バトルアクションにしかならない。
 これはもう残念ながら好意の殴り愛だ。

 お互いの手にはお互いが持ってきた紙袋が少々荒々しく手渡された。

 そっと中身を見てみると、腕時計らしい箱と封筒が入っている。
 詳しくはわからないが、いかにも店員がサービスで入れたようなクリスマスカードも一枚。


「「…………テメェあんた、素直じゃねェよなないですよね」」


 ユニゾンする呆れた声は、示し合わせたわけじゃないのに用意していたクリスマスプレゼントでファイナルアンサーを肯定する。

 ──よう、サンタクロース。

 俺はどうやら、投げつけられたクリスマスプレゼントといっしょに、一番欲しかったものを手に入れたらしい。


「ふはっ……バーカ。メリークリスマスで、勘弁してやるよ」


 自然と浮かんだ、愛想笑いでもなんでもないありのままの俺の感情。

 俺は目の前の三初に冗談めかしたセリフを言って、イブが報われたひとりきりじゃないクリスマスに感謝しながら笑いかけた。




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