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第五話 冬暴君とあれやそれ
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こうして俺と三初の片想いバトルは、まるく収まった。
これから仕事をするわけで、そろそろ早めに出勤する同僚たちもやってくる時間だ。切り替えねぇとな。
まぁ、好きだとか愛してるとかは、また今度ちゃっかり言わせるか。
今はなんというか、自分が好かれていたこととアイツに好きが伝わったことで胸焼けしているので、甘いものはいい。
クルリとデスクチェアーを回転させて、デスクに向き直った。
ダメだ。クソ、まだ若干にやける。
「あー……そういや俺さ、今日初めてコーヒー作ったんだよ。クソ苦ェやつな? 砂糖入れすぎて、なんか苦甘い失敗作になっちまったけど。やっぱココアが最強だわ」
緩みきった頬をこすって誤魔化しつつ、足元のカバンを手に取り、その中に貰った紙袋を大事にしまう。
苦味の混じった残念な品の雑談。
わからないなりにあがいても失敗してばかりの俺の恋に似ていると思ったコーヒーだが、今回は甘さが勝ったらしい。上場の結末だろう。
カバンを閉めて、頬をムニ、と引っ張る。やっと緩まなくなってきた。まだ熱いが、そのうち冷えるはずだ。
「先輩」
「なっ、……なん、だよ」
冷えるはず、だったのに。
不意に、背後から腕の中へ閉じ込めるように抱きしめられ、頬はまたほんのりと熱を増してしまった。
「明確に口で言わせるのはメリクリで翻訳してうやむやにしてあげますけど、一応、出来立てホヤホヤのカップルってことになりますよね? 今の俺ら」
「あ!? そッ……そうだけどお前、そういうのは終わりだ終わりッ。時間わかってんのか? 人が来んだろ。社内恋愛はいろいろマズイしよ」
低く囁く声が耳元に絡みついて、振りほどくこともできずツンケンとした言い方でモラルを傘に突き放す。
社内恋愛以前に男同士なのだ。
公には隠したほうがいいと思う。
俺はそれが悪いことだとはちっとも思わないけれど、好奇心で注目される可能性を考えると煩わしいしめんどくさい。
つか、なんのカップルであれ普通に職場でイチャイチャしてんのは迷惑だろ。TPOを弁えろっつう。
そのくらい、三初はわかってると思うけどよ。
言いふらしたりすンのはキャラじゃねぇ。
聞かれたら事実を述べるだろうが、聞かれるような状況は控えるよう、節度を持っていればいいのである。大人だからな。
「嫌なんですか? 浮かれてるくせに」
「っん……!?」
しかし余裕ぶっていた俺の脇腹をスル……と指が滑りシャツ越しにまさぐるものだから、ビクッ、と肩が跳ねた。
その隙にシュルリとネクタイを外され、それはもう見事な早業で目隠しされる。
ちょっと待て。
なんでだ、なんで目隠しした。
なんでこうなって、なにをしようとしてンだ。どこでスイッチ入った!?
「うわ、ッな、なにすンだ……ッ」
「腕縛りますね」
「いや縛ンなよ!?」
驚いているうちにガタンッ! とデスクチェアーを回転させられ、ネクタイしか見えない俺は焦って声を上げる。
もちろん三初には馬耳東風。
あれよあれよという間に両腕も縛られ、蹴り飛ばそうと暴れてみても的が見えていないので当然当たらず。
かと思えばいきなり腕を引かれて無理矢理立たせられ、すぐ近くでなにやら物音がする。
困惑するうち、俺の腕を縛って余ったネクタイをリードのように持っているらしい三初が、そのリードをグッと軽く引いた。
「じゃ、お待ちかねの俺の部屋にご招待しましょうか。ムラムラしたんで」
……今なんて言ったんだ?
このフリーダムブッ飛び野郎は。
正面から聞こえた言葉にポカン、とした俺は、真っ暗とは言えないが視界は塞がれた状態で、三初がいるだろうほうを向く。
「あのな、一回しか言わないからよく聞けよ。ここは職場のオフィスで、今から俺たちは仕事をすんだ。わかったか?」
「わかった上で言ってるんですけど、わかります? 迂闊にヘラヘラ笑われたらそりゃムラムラしますわ。故に場所を移そうって良心ね。俺は別に課長や部長の前で先輩を抱いてもいいですけど、先輩は嫌でしょ」
「だからって仕事サボってヤりに帰るほうがおかしいだろうがッ!」
そもそもなんでセックス前提なんだよセックスしねぇで働くんだよ企業戦士サラリーマンだろ俺ら──!
ガウッ! と吠える俺だが、三初に俺の威嚇が効いた試しがない。もう流石にわかっている。
わかっていてもキレない選択肢がないのでアホかテメェふざけんな常識欠落野郎と騒ぐが、そうすると「朝の無駄吠えは人様の迷惑なんで鎮まってどうぞ」と雑にたしなめられた。
──こ、この我が道爆走系暴君が……!
俺はお前の飼い犬じゃねぇぞ! 俺はお前の恋人様になったところだろうが! ちょっとは俺に甘くしろってんだ!
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