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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
01(side竹本)
さてさて。
あけましておめでとうございます。
という年明けからそれなりに日が経ち、正月ムードもすっかり落ち着いたとあるオフィス内である。
俺の名前は竹本。
某食品系企業の宣伝企画課に勤める、ごく普通の竹本だ。
突然だが、俺の隣のデスクには入社当時から〝狂犬〟と呼ばれている同僚がいる。
百八十を越える長身は逞しく堂々と立ち、鍛えているので羨むくらいにはギュッと引き締まっている。スタイルはいいんだ。
プラス、彫りも深めで濃い。
華はなくとも目元を隠せばそれなりに男前な顔だとも思う。
が、目つきと口とガラが悪くてデリカシーと遠慮と愛想が壊滅的になかった。
そりゃあもうなかった。
なわけで初対面の新人には九分九厘恐怖の先輩扱いされ、上司からは取り扱い注意の猛犬扱いされ、同僚からはチッチッとお菓子をチラつかせて野良犬扱いされている。
あ、でも機械音痴。
キーボードの打ち方が我流。なんの可愛げにもならないけど。
まぁそんな男──御割 修介と俺は同期で、更に隣のデスクだったため、オフィス内ではそれなりに関わりがあったりするのだ。
普通に喋るし。たまーに飲みに行くくらいかな。
プライベートだとあんまり怖くないぞ。いやごめん嘘。凄まれたら超怖い。機嫌悪いと超怖い。挙動と目付きがガチ。
コホン。
とにかく、俺の隣のデスクにはそういうおっかない狂犬がいるのだ。
「うお~……博打だわ……」
『竹本先輩、これ御割先輩に渡してもらってもいいですか……?』
宣伝企画課のマドンナこと幸村さんに渡された書類を手に、俺は渋々と気乗りしない気分で自分のデスクへと向かう。
関わりというと、概ねこういうこと。
つまり、配達員だな。
女性社員は大半が、触るな危険の御割が怖い。
なので声をかけないといけない時は、人畜無害なノーマル男である俺を介してくる。
ビビリではないが度胸があるわけでもない俺にとっては、正直あまり嬉しいことではない。
今は慣れたので凄まれなければ怖くないけれど、御割が怒っているかそうじゃないかの区別はつかないわけで、うっかり噛みつかれると痛い目を見る。
まあ顔は怖いけど悪いやつじゃないから、機嫌が悪いくらいで誰かに当たったりはしないんだけどなぁ……。
うむ。白状しよう。
不機嫌な時の顔が怖いからいやだ。
普通に怖い。声も低い。威勢もいいし度胸もある。キレようものならあの長身で上からガツガツ畳み掛けてくる。
怖いものなしの御割は本人が怖い。
仕事に対しては従順で真面目……だから、狂犬なわけだが。
会社の犬だけど、取り扱い注意的な。
しかしながら、幸村さんはすこぶるかわいい女子なのである。
そして俺は幸村さんと、あわよくばを狙っているのである。
男なんて虚栄心と下心の塊だぜ。プライドマンセー。ちっくしょう。
男、竹本。やるしかねぇ。
「んん……」
ドサッ、とわざと大仰にデスクチェアーに座って、ひっそりと隣の狂犬の機嫌を伺ってみる。
俺が昼休憩から戻っていることに気がついているのかいないのか、御割は親の敵を見るような眼光で、今日も今日とてパソコンを睨んでいた。
相変わらず恐ろしい。
けれど無反応なところを見るに、機嫌は悪くないようだ。
機嫌悪いと近寄るだけでオーラ感じるかんな。
ウウウウ、って聞こえない唸り声が聞こえそうなんだぜ? マジで。体感。
「御割、これ幸村さんがお前にって」
「あ? おう。サンキュ」
不機嫌じゃないなら大丈夫。
なので普通に声をかけると、案の定御割はぶっきらぼうにお礼を言いながら、俺の差し出した書類を受け取った。
な? 別に悪いやつじゃないだろ?
ミッションコンプリートに脳内でファンファーレを鳴らす。
ちなみに仕事中の御割の目つきが悪いのは、パソコンで文字を打つのが苦手だからだぜ。
それでも途中で投げたりしないし、根は真面目。
企画も甘味系には定評があって、意外とできる同期である。
「そーそーグループマイン見たか? 年末年始イベント落ち着いたから、新年会来週やるって。二月ですけどって感じだけども」
「いや、見てねェわ。グループはどれにどう返せばいいのかわかんねぇ……人が多すぎる。流れが早ェんだよ」
「だーからスタンプ送っとけばいいって言ったべ?」
「……俺がスタンプ送ったら、なんか、時止まるだろォが。ケッ」
そりゃお前、狂犬・御割がほんわか系豆しばのゆるかわスタンプで「かしこまりワンコ~」は時止まるだろ。
ツッコミを入れてもいいのか、それとも密かに命名したこの狂犬呼びが本人にも公認されているのかで、若干物議を醸し出してたんだぜ。
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