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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
31(side竹本)
──新年会・会場。
やあやあこんばんは。
女の園であるデザイン部とクセの強いコンビがいる宣伝企画課の合同新年会、楽しんでいるかな?
開始一時間で未だにほろ酔いにもなっていない俺は、おなじみ竹本。ただの竹本だ。
いや──今日は少し違うか。
「酒。もっとよこせ」
「はい」
大人数が入れる居酒屋の大部屋にて、出入り口近くの壁際を陣取る目の据わった狂犬に、梅酒のロックを運び続けるだけの竹本である。
えげつないほど機嫌が悪い。
悪い自覚があるから自ら隅っこに行ったシラフの御割だが、酔いどれの御割は俺を捕まえて離さない。
おかげで俺は一日酒運搬係に就任だ。
目の前や周囲に同僚がいるものの、彼らのテンションも実に低かった。
御割の隣でちびちびとハイボールを飲みつつ、緊張で固まった筋肉をどうにかほぐそうと身じろぐ。
男どものテンションが低いこと。
俺が御割に捕まっていること。
御割の機嫌が悪くやけ酒状態になっていること。
それらの理由は、奥に座るたった一人の男の存在で全て説明がついたりする。
「三初くん、この間のミーティング助かったよ~。パケデザの色味の大切さ、全然わかってないんだもん」
「はぁ。そうですか。東野リーダーがリニューアルデザインした製品の売り上げ見てればわかると思いますけどね」
「そのデータを用意しておいてあそこで出してくるのが流石なのよ。タイミングもバッチリ! さっ、乾杯しましょ!」
「んー……A社のパケデザのバリエ増やしたいんで、どうせなら酒より東野リーダーの優先権欲しいなぁ」
「ちゃっかりしてるわねぇ? わかったわ、メンバーに私が入ってあげる。だから、ほら!」
「カンパイ」
カチン、とぶつかるグラス。
上機嫌なデザイン部の鬼と呼ばれる女リーダー、東野さん。バリキャリの既婚者。
この人がデザインした製品は、なじみ深いヒット商品が多い。消費者の目を引く、なんとなく目に残るなにかがあるんだ。
そんな人を仕事ではなく飲み会だと言うのに、しれっと確保しやがった。
スタイル抜群の美人と酒を酌み交わしているのに顔色を変えず、ゆるりと笑みを浮かべるだけの憎きイケメン──三初。
俺がそっと御割に梅酒のおかわりを渡すと、御割は一気に飲み干す。
俺の目の前の同僚二人がビールをジョッキで一気に飲み干し、肩を組んでトイレにむかった。
続いて三初の隣と向かいにいた女子社員が、ここぞとばかりに身を乗り出す。
「そうだ! そのミーティングといえば、三初さんって主婦層の売り込み強いですよね! 普段お料理とかされるんですか?」
「あー……するよ」
「私もお料理するんですよ!」
「あ! 私もしますよ! 得意料理は肉じゃが」
「あざとッ!」
「へぇ」
「反応が薄い! 私はロールキャベツですが如何でしょう!」
「あれ食べにくいよね。かといってナイフとフォークとかめんどくせぇし……俺はあんま食べない。ダルい」
「「ぎゃふん!」」
一生懸命アピールする女の子たちを前にしても一切ブレずに塩対応な三初により、女の子たちはあえなく撃沈した。
口元だけが薄ら笑いのローテンポ。無視はしないが一貫してあの冷たさなのに、どうしてモテるのか。
所詮顔かよ。だから俺たち非モテの目が死んでいくんだ。
しかし俺の心を知らない三初は、不意にスッ、と数切れ残っただし巻きの皿を女の子たちの前に差し出す。
「リアルぎゃふんとか、最近の女の子って変わってんね。君らの料理事情はどうでもいいからとりあえず目の前にある料理を黙って食えば? そのだし巻きウマイよ」
……うん。イケメンは死ねばいい。
俺は女の子たちのテンションが一瞬で回復する光景を、目の当たりにしてしまった。
こんなのはジャイアン現象で、言っていることは「俺に構うな。黙ってメシ食ってろこの変子どもが」ってことなのに、言い方が絶妙な気がする。
おかげで俺の周囲にいた男どももそろって酒を追加し、一気に飲み干してくだを巻き始めた。
御割もついに、ボトルダイレクトで梅酒を呷り始めた。
──まあ長くなったが現状を説明すると、要するに、だ。
新年会開始とともに御割とじゃれていた三初がデザイン部の女の園に連行されてしまったから、宣伝企画課の独身ボーイズがやけ酒をしているわけである。
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